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『ゼロ-アルファ――<出来事>のために』第一部断片14

【最小限の追憶】
『(あの生体政治工学実験用焼き鳥小屋『お食べ』の片隅。第五次C級植民地局地戦争における最悪の激戦地の一つであったロ―ザアウロ―ラ製バ―・カウンタ―裏側の亀裂に優雅に埋め込まれた準-生体回路『お密』が、自らの誕生の時から植民地戦争へと到るプロセスに関わる最小限の追憶を紡ぎ出す。)

――かつて見たこともない町外れの道端に佇みながら、〈私〉は微かな追憶の中へと入り込んでいった。やがて〈私〉はこの道を思い出す。〈私〉がまだ本当に幼い頃、確かに〈私〉にこの道を教えた者がいた。あの曲がり角でこちらの方向へと〈私〉を誘った者。そこに誰かがいたのだ。だがそれは、一体誰だったのか? 〈私〉を誘惑した何かあるもの。それは、はるかな昔にこの道を〈私〉に教えた誰かの記憶である。〈私〉の生存に最小限の方向を植え付け、その方向にある特異な感情を深く染み込ませた者。その時一つの始まりが、従って一つの終わりが〈私〉とともに獲得されたのだ……。
 
 「思考の方向を定めるとはどういうことか?――カント」 

  今やこの問いかけが浮上してくる。〈私〉があくまでもこの道を辿ろうとするのは一体なぜなのか? いつから、そしてどこからそれは始まったのか? ほとんど解答不可能な問いかけ。だが、〈私〉はそれを探究しなければならない。なぜなら、もし〈私〉がこの袋小路から脱出できなければ……。この道は、日々の生活の枠である。それはあくまでも枠であり続けることで持続している。〈私〉はこの方向と秩序、そしてこの秩序と感情をもはや分離することができない。――ある者たちは、この探究のプロセスで一挙に《民族の記憶》と呼ばれるものへと巧みに誘導され、到るところで血塗れの闘争を繰り返しながら、《国家-状態》と呼ばれるものを次々に解体していく。密かに送りこまれた何者かによって、彼らは《国家-状態》がこの道を教えたのではないことを教えられたのだ。彼らは叫ぶ。「この道は、《国家-状態》と呼ばれるものよりも古い。」 「ああいう人々こそ、あらゆる手段を使ってでも抹殺すべきなのだ」と《国家-状態》は絶えず沈黙の内に教え続けてきたはずなのに、そしてそれによって《国家-状態》は人々の欲望に最も分かりやすい体裁を与え続けてきたはずなのに、今度は(何者かによって巧みに誘導されてだが)人々が《民族の記憶》と呼ばれるものに従って殺戮の対象を独自に決定し始めているのだ……。
 
あの何者かが《国家-状態》の代理人であったのか、それとも《国家-状態》があの何者かの代理人であったのか……。ここであくまでも独りであり続けることは死を意味する。今は独りでこの道を歩き続けることは困難だ。なぜなら、この道はすでに彼らによって封鎖されてしまった。完全武装した人々の群れが常に監視を続けているのだ。まともにこの検問を突破しようとすれば、〈私〉はただちに捕獲され、殺されるだろう。(もし〈私〉がこの袋小路から脱出できなければ……。) 何と、相も変わらず再び《国家-状態》への道なのか? それとも、すでに極秘の石油探査が始まっているのか? (すなわち、彼らはあのなつかしの旧暦通称『王室のオランダの貝殻』と無期限感謝提携。) それとも……。
 
しかし、探究のプロセスが終わることはない。〈私〉はあくまでもこの道を辿ろうとする。〈私〉とともに、数多くの者たちが滅び去っていくだろう。〈私〉とともに、様々な布地で織り成された一つの道=枠が浮き彫りになり、激しく引き裂かれていく。避けることのできない道。それでも、いつしか、〈私〉はあなたと出逢うに違いない。だがそれは、もはやいつでも、そしてどこでもない……』



【来るべき訴訟領域】
『(『お密』の体内にセットされた管理回路『引き出しのあるミロの親回路』の信号音がアラ―ムへと切り替わる。予告。すでに移転して久しいあのなつかしの『アクシスCMX』からほどない旧暦通称『アカサカ・ビリ・バリ・タ―ミナル・レインジ』が近く知られざる料亭『エクシ―ルお越しやす』と無期限感謝提携。一体何がおこるのか……。)

(以下に続く)



  参考 引出のあるミロのヴィーナス 1936年



以上の作品のオリジナルは90年代に書かれた散文草稿『ゼロ-アルファーー<出来事>のために』のごく一断片である。



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永澤  護 /dharmazeroalpha
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