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色つきリップはじめ
基本、家の中ではすっぴんである。
世の中には、家でもちゃんとした服(そのまま出かけても恥ずかしくない服)を着て、アクセサリーを身につけて…という人が一定数いるらしい。
真似できるか?というと、できないし、たぶん今後もしないだろうなぁと思う。
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しかし最近始めたことがある。
家にいるとき、色つきリップをつけること。
これは先日読んだ江國香織さんの本の影響だ。
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夫婦生活の甘やかさ、ほろ苦さについてのエッセイ。
江國さんの作品はどれも複雑な心の揺れや目に映る対象のひとつひとつが繊細な筆致で描かれている。
読み進めるうちに、その淀みのない文章の美しさにうっとりと酔いしれてしまう。
この感覚を言葉にするのは難しいのだが、夜風に当たりながら、上質なお酒をちびちびと味わっているような感覚に近いかもしれない。
付箋をつけながらじっくりと読んだ。
中でも印象深いエピソードがあったので紹介したい。
家でお仕事をすることが多い江國さんは、旦那さんがいるときでも、メイクをすることはなかったという。
しかしあるとき突然思い立ち、軽いグロスのようなリップだけ塗ってみることにしたというお話。
それを読んで、別に勧められたわけでもないのに、それだ!とピンときた。
江國さんは、たとえ夫と別れることになったとしても夫の記憶に残る自分の姿が好印象であるように……という思いを綴られていたが、私はそんな高尚な思いからではなく、ただの直感だった。
ほんのワンポイントでいい。
なにか自分のテンションが上がるような、それでいてよそ行きとまではいかない、背伸びしない装飾って良いなぁと思ったのだ。
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試しにワンコイン+αくらいで買える、トリートメント効果があるリップクリームを買ってみた。
色はレッド。
といってもべったり色がつくわけではなく、限りなく透明に近い薄づきタイプだ。
白くて血色の悪い唇をほの明るく見せてくれるような感じ。
鏡の前でさっそく塗ってみる。
何もない更地のようなところに、艶と色が入るとこんなにも顔が明るく見えるのか。
自然と口角が上がる。
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家で顔を合わせる回数が多い夫はというと、鈍感すぎて全く気づかない。
今日顔色いいね!と言われることもない。
だとしても、自分としては「おうちでも唇はつやつや、ぷるぷる」状態に満足している。
気合を入れてメイクをした日は夫が褒めてくれないと機嫌が悪くなるけれども、これに関しては気づいてくれなくても良い。
他人にわざわざ承認されなくても満足できることがひとつ増えた。
ほんの少しの工夫で、家でも気分良く過ごせるのだなぁというのは新たな気づきだった。
唇が乾燥しやすいので、今までは薬用リップクリームを使っていたのだが、そちらは口紅用下地にして、しばらくは色つきリップを日々の相棒として使っていこうと思う。
そうして、ほんのり赤みがさした唇をときどき眺めて、ひとり愉悦に浸るのだ。