THE FIRST SLAM DUNK
*ネタバレが嫌な人は読まないでください。
賛否両論あるみたいなので見てきました。
ポスターとかビジュアルもカッコ良かったですしね。
僕、結構チラシやポスターを見て映画を見るタイプなんで。
見たのは先週ですが、ちょっと自分の中で結論の出せないところがあって、なかなか感想が書けずにいました。
でもすぐには結論が出ないってことが分かったので、こうして感想を書くことにしました。
この映画を見て気づいたポイントは大きく5つあります。
①現在の映画の見られ方を意識した作品
まず、極めて今らしい作品だなと思いました。というのは今って、すでに他分野や過去のシリーズで一定の評価を得ている作品や制作チームに関心が集まるじゃないですか。
情報が猛スピードで拡散され、トレンドが次々に更新されていく時代です。動画はYouTubeからTikTokへと尺が短くなり、映像も音声コンテンツも2倍速で再生され、高速で消費されています。
そのため、よく知らない作品が見られることは少なく、すでにある程度知っているものを確認するために見られます。何ならストーリーが分かっていても全然構いません。「原作が面白い」「誰それが監督している」「SNSで話題になっている」といったことが映画を見る動機になっているのです。
だからこの『THE FIRST SLAM DUNK』は、マンガかアニメで既に『スラムダンク』という作品を知っている人、ストーリーが分かっている人をターゲットにしていると思われます。
あまり新規のお客さんを取りにいこうという意思が見えませんでした。
何なら原作のストーリーを知らない人は理解できなくて良いと思って作られている可能性すらあるんじゃないかなぁ。
でも今は上に書いたような見られ方をする時代だから、それで良いんだと思いました。
②タイトルはこれで良いのか
そして①に関連するのですが、『THE FIRST SLAM DUNK』というタイトルは、ふさわしくないのではないかと思いました。
だって”THE FIRST”と言われると、はじめてスラムダンクを見る人も見れる作品なのかなって思うじゃないですか。でも映画を見たところ、むしろ原作のストーリーやキャラクター同士の関係性が分かっていないと楽しめないのではないかと感じました。
例えば桜木と流川の関係性を知らないと、二人がお互いにパスを出しあわないのも最後に流川が桜木にパスを出すのも、ちゃんと意味が理解できないと思います。
もしかして、この映画の主人公は宮城リョータだから、流川が桜木にパスする意味は理解できなくて良いという考えかもしれませんが、だとしたらタイトルは変えた方が良いんじゃないかなというのが僕の意見です。
まったく”THE FIRST”じゃないやんって思います。”ANOTHER”やん。
ただ、僕はストーリーを知っているから「知らない人には分かりにくいんじゃない?」って感じましたが、もしかしたらストーリーを知らなくても分かるのかもしれません。だから上記の指摘は間違っているかもしれないです。
原作を一切知らずに見た人が、どういう印象を持ったのかは聞いてみたいところです。
③1試合の展開を回想によって変化させる構成の是非
この作品の脚本面での最大のポイントは、構成がうまくいっているかどうかだと思います。
高校バスケの1試合の展開に合わせて登場人物たちの過去を回想し、その回想によって試合展開が大きく変わるという構成は機能しているのか。
脚本のセオリーから言うと、回想は多用しない方が良いんですよ。だからこの映画が採用した構成は極めて特殊です。
でも井上雄彦さんほどのヒット作を連発する人が、そんな初歩的なことを学んでいないはずがありません。「マンガではなく映画でやることの意味」や「映画というメディアでどのように表現するか」「何故自ら監督をするのか」といったことについては相当考えたことがパンフレットでも語られています。
となると、マイナス面を理解した上で、あえてこの特殊な構成を選んだのでしょう。ならばセオリーを外したことが、うまくいっているのか。要するに「正攻法を取った方が良かったんじゃないの?」という疑問に対する答えがこの映画の評価のポイントだと思うのです。
で、それに対する答えは……ごめんなさい、まだ僕の中では定まっていません。これに関してはもう一度映画を見て、一つ一つの回想の効果を検証しないと理解できないです。なので今は保留にして、また改めて検証できればと思います。
④変化はあったか
そして③に関連するのですが、試合を止めて回想を見せることで、どのような変化があるのか。これもこの作品の評価を大きく左右するポイントです。
当然、回想が主人公たちに変化をもたらしているほうが良い。じゃないと何のための回想なの?ってなりますから。
で、その都度、試合展開が変わるのは当然なんですが、試合と回想によって主人公の宮城リョータがどう変化したのか。もっと言うと、どう成長したのかを見る必要があります。
ここがきちんと検証できていないから先ほど構成の是非を保留にしたのです。だからこの変化についても改めて検証したいと思います。
⑤スピード感
『スラムダンク』という作品はマンガのクオリティが最高なので、映画やアニメにしたときに、原作のクオリティを超えられないというジレンマがあります。
中でも難しいのはスピードです。キングコングの西野さんが「結局マンガが一番スピード感がある。今回の映画がマンガのスピード感を超えられるかどうかがポイントだ」と言っていたのですが、僕も確かにその通りだと思いました。
そして映画を見てどう思ったかというと、スローモーションやストップモーションなどの映像テクニックを駆使して、うまく表現していたなという印象を持ちました。マンガのスピード感を超えていたかどうかは、僕もずいぶん原作を読んでいないので、きちんと判断できていないのですが、かなりイイ線をいっていたと思います。
この作品のクリエイティブチームは素晴らしい仕事をしたと思います。
何か僕の表現力が乏しくて上から目線の言い方になってしまっていますが、そんなことはなくて、ただただ感服しました。すごいもの見せてもらえたなと思っています。
総括
以上のように、僕自身、まだ完全には分析ができていない状態ですが、現時点での結論を書いておこうと思います。
僕と同様、原作のストーリーを知っている人にとっては、井上雄彦節の炸裂した「これを待ってました!」というような作品だと思います。とくに40代以上の男性にとっては、とんでもなくカタルシスの得られる作品でしょう。
でも原作をよく知らない人にとっては、何かいまいち理解しきれないモヤッとした作品かもしれません。
僕には基本的に映画は一本で独立した作品であるべきだという考えがあるので、その点からするともう少し工夫できたんじゃないかなと思います。けどリアルタイムで『スラムダンク』を読んでいた世代からすると、何度でも見たくなるような作品に仕上がっているのではないかなと思います。
それは原作者であり監督でもある井上雄彦さんが、メディアの特性を理解した上で、今、映画でやるのであればこの表現だということを練りに練って制作した作品だからです。
そのため映画やマンガといったメディアにとらわれず、井上雄彦さんの新しい作品が見られたという喜びに浸るのが正しい見方だと思います。
また『スラムダンク』の新しい作品が見られて幸せ!