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現役探偵の調査ものがたり:小説
2020年12月2日 07:00
『現役探偵の調査ファイル 七人の奇妙な依頼人』 福田政史:著【第六話】薔薇8 この日、愛犬のタローだけは、佐伯氏が自分たちが一緒に連れて行くと申し出たため、ケージから出されて娘のベンツに乗り込んだ。ケージから出され、嬉しそうに尻尾を振って佐伯氏にじゃれるタローの姿に、私は心底ホッとしていた。佐伯家のタローは、我が家で飼っているロンという犬に何となく似ていて、特に人なつっこく愛らしい目がそっく
2020年12月1日 07:00
『現役探偵の調査ファイル 七人の奇妙な依頼人』 福田政史:著【第六話】薔薇7 冒頭で紹介した「強制退去・執行日」の一週間ほど前、私は浅田弁護士に呼ばれて彼の事務所を訪問していた。事務所には依頼人の岩井社長のほかに裁判所に所属する執行業者も在席し、佐伯家の立ち退きについて話し合いがなされた。「断行」という耳慣れない法律用語を聞いたのはこの時だった。 強制執行を行う場合、占有者の退去や明け渡
2020年11月30日 07:00
『現役探偵の調査ファイル 七人の奇妙な依頼人』 福田政史:著【第六話】薔薇6 私は、その日、木村とのやり取りをテープに録音していた。事務所に帰ってこれを起こすと、昨日調べた彼の素性なども加えて報告書を作り、F社の顧問、浅田弁護士に渡した。所見の最後に「今後の佐伯氏、及びその関係者である木村等の動きはなお不透明」と書いた。 最後にF社を訪れた不動産業者(これもヤクザのフロント企業の男だった)
2020年11月29日 07:00
『現役探偵の調査ファイル 七人の奇妙な依頼人』 福田政史:著【第六話】薔薇5 翌日、同じ場所で再び木村と会った。私の方針は決まっている。一考の余地もなく返事は「ノー」である。このことについて、あえて岩井社長の指示も仰がなかった。仮に聞いても結果は分かりきっていたからだ。前述のように、岩井社長は経営手腕にも優れ、一代で「S沿線で彼を知らぬ者はない」というほどの会社を築いた人である。よく言えば
2020年11月28日 17:00
『現役探偵の調査ファイル 七人の奇妙な依頼人』 福田政史:著【第六話】薔薇4 年が変わって松も取れたころ、岩井社長から困惑した声で電話があった。「いま会社に変なやつが来ているんですが、どうもうちの社員じゃあ手に負えないようです。そちらで窓口になって話を聞いてやってくれませんか」 聞けば、その男は佐伯氏の代理人と名乗って「こんな会社潰してやる」と大声で怒鳴っているという。 佐伯氏の調査報
2020年11月27日 18:00
『現役探偵の調査ファイル 七人の奇妙な依頼人』 福田政史:著【第六話】薔薇3 競売にかけられた家の所有者は佐伯祥一(さえきしょういち)という名前で、渋谷区にある健康食品販売会社を中心に関連会社数社を経営する社長だった。 とりあえず会社の経営状態を調べてみると、家を競売に出すほど悪いわけではなかった。売り上げが前年と比べて格段に下がった様子もなく、それほど資金繰りが逼迫しているようでもない。
2020年11月27日 14:55
『現役探偵の調査ファイル 七人の奇妙な依頼人』 福田政史:著【第六話】薔薇2 これに先立つ半年ほど前、私は埼玉県T市にあるF建設工業を訪れていた。 同社に出入りするようになったのは、その三、四年前からで、前述した浅田弁護士の紹介で、ある調査をしたことがキッカケだった。F建設工業も私の探偵としての手腕を認めてくれたらしく、その後何度も業務関係の調査を発注してもらい、ついには年間契約をしてもらう
2020年11月25日 18:31
『現役探偵の調査ファイル 七人の奇妙な依頼人』 福田政史:著【第六話】薔薇(ばら)1 平成九年五月某日、午前十時。杉並区Z町一丁目界隈は異様な空気に包まれていた。杉並区Z町は田園調布や成城学園ほどではないにしろ、都内でも有数の高級住宅街で、普段は静かで落ち着いた町である。ところが、この朝は街路に大型トラック八台が停車し、紺色の作業服を着た百人近い男たちが集まっていた。付近の住人たちは一体何事