現役探偵の調査ものがたり:小説
伝説の探偵、福田政史の著作「現役探偵の調査ファイル 七人の奇妙な依頼人」【第七話 盗聴(みみ)】を連載します。実在する探偵さんの実話読み物です。
伝説の探偵、福田政史の著作「現役探偵の調査ファイル 七人の奇妙な依頼人」【第四話 ヘッドハンティング】を連載します。実在する探偵さんの実話読み物です。
伝説の探偵、福田政史の著作「現役探偵の調査ファイル 七人の奇妙な依頼人」【第一話 漁火(いさりび)】を連載します。実在する探偵さんの著した実話読み物です。
伝説の探偵、福田政史の著作「現役探偵の調査ファイル 七人の奇妙な依頼人」【第五話 山中湖にて】を連載します。実在する探偵さんの実話読み物です。
「現役探偵の調査ファイル 七人の奇妙な依頼人」 福田政史:著 の各エピソードのリストです。 リンクページとしてお使いください。各エピソードの1回目にリンクが張られています。 第一話 「漁火」(いさりび) 第二話 「ペンキ」 第三話 「タンゲーラ」 第四話 「ヘッドハンティング」 第五話 「山中湖にて」 第六話 「薔薇」 第七話 「盗聴」(みみ) 以上、全七話を掲載予定です。
『現役探偵の調査ファイル 七人の奇妙な依頼人』 福田政史:著 【第七話】盗聴(みみ) 9 回数が多ければ多いほどいいと聞いた依頼人が「費用のほうは心配しないでください」と言うので、それから数回、マルヒの尾行調査を行った。マルヒは相変わらず週二、三回、笹木のマンションを訪れていた。私たちはその都度、出入りの写真を撮るのだが、何となく虚しい作業に思えてきた。 私はついにある決心をした。「二人のあいだに肉体関係がある」という決定的な証拠を掴もうと思ったのである。 読者はどうし
『現役探偵の調査ファイル 七人の奇妙な依頼人』 福田政史:著 【第七話】盗聴(みみ) 8 依頼人を伴って弁護士事務所を訪問したのは、そんなやりとりがあって三、四日したころだった。 奥さんであるマルヒが十数回も不倫相手のマンションに行き、そこでいつも数時間過ごしていること、そして不倫相手の身元調査も話した。弁護士に渡した調査報告書には、二人のデートの様子やマンションに出入りする写真も添付していた。私と依頼人は、これだけ証拠が揃えば、弁護士も太鼓判を押してくれると思ったのだが
『現役探偵の調査ファイル 七人の奇妙な依頼人』 福田政史:著 【第七話】盗聴(みみ) 7 この日の調査で、マルヒが不倫をしていることは、さらに明確となった。 ただし、昨今の法律事情や離婚裁判の判例では、ラブホテルで密会した場合は肉体関係があったとされるが、このケースのように一般住居における密会は、当人たちが肉体関係を否定すると裁判に負けてしまうケースもままある。「ええ、確かに彼の家に行きました。けれど、話をしていただけで、変なことは何もしていません」と言われればそれまでな
『現役探偵の調査ファイル 七人の奇妙な依頼人』 福田政史:著 【第七話】盗聴(みみ) 6 翌日、依頼人が事務所を訪れたので、私は正直に昨夜、尾行調査に失敗したことを告げた。 「地下駐車場か大きなビルの陰に車を停めたことなどが考えられるのですが、現在、なぜ追尾装置からの電波が受信できなくなったか、調査中です」 私がこう説明すると、依頼人は非難めいたことをまったく口にせず、 「まあ、そんなこともあるでしょう。仕方ありませんよ」 という態度なのである。大手商社の重役ともなれば
『現役探偵の調査ファイル 七人の奇妙な依頼人』 福田政史:著 【第七話】盗聴(みみ) 5(後半) 調査三日目は、三日後の月曜日。土、日は依頼人が在宅していたからだ。 前回の調査でマルヒが十時過ぎに家を出たため、念のため早めに行くことにした。調査員三名が九時半ごろ車で本人宅に向かっていたところ、追尾装置を付けたマルヒの車が移動していることを事務所から知らされる。「マルヒの車は井の頭通りの代田橋あたりを走行している」と聞いて、急いで後を追った。 依頼人とじゃ、調査開始を「午
『現役探偵の調査ファイル 七人の奇妙な依頼人』 福田政史:著 【第七話】盗聴(みみ) 5(前半) 被調査人、明子の素行調査は依頼の翌々日から開始した。 マルヒが浮気をするとすれば、夫が会社に行っている間だろうと考え、依頼人とも打ち合わせのうえで、午前十時から自宅前で張り込むことにした。 不倫相手から呼び出されたら、たぶん車で出掛けるだろう。こう予想して、車の所有者である依頼人に頼み、奥さんがいつも乗っているベンツに尾行用の追跡装置も取り付けてもらった。この追跡装置は百円
『現役探偵の調査ファイル 七人の奇妙な依頼人』 福田政史:著 【第七話】盗聴(みみ) 4 依頼者の妻に対する疑問をひととおり聞いた私は、浮気調査を引き受け、マルヒ(妻・明子)の普通のパターンを尋ねた。 それによると、奥さんは、帰国後、アメリカで夫から教えられたゴルフにのめり込み、週何回か杉並区の自宅近くにあるHゴルフ練習場に通い、その練習場のゴルフ教室にも入会しているという。 「このゴルフ関係が一番怪しいのですが、そのほかに外出するといえば、女友達と食事したり、長女と買い
『現役探偵の調査ファイル 七人の奇妙な依頼人』 福田政史:著 【第七話】盗聴(みみ) 3 依頼人、吉村武雄氏は妻の浮気調査を依頼するに至った敬意を話しはじめました。 「かれこれ十年ほどでしょうか。私は北米エリアの支社長としてアメリカに赴任していました。最初は、妻の明子(四十五歳で夫より十歳年下)も一緒に行ってくれたのですが、言葉も不自由で食事も合わない。そのうえ友達もいないから退屈だと言いはじめまして。私も気を遣って妻にゴルフを教えたりしたんですが、結局、半年もしないうちか
『現役探偵の調査ファイル 七人の奇妙な依頼人』 福田政史:著 【第七話】盗聴(みみ) 2 平成十五年五月、うちの事務所のホームページを見たという男性から調査依頼の電話があった。言葉遣いは丁寧で、会う時間の打ち合わせなどもテキパキしている。私はあえて調査の内容など聞かず、約束の日、事務所で待っていた。 ちなみに、ホームページを作るように勧めたのは事務所で働いている娘である。かつて探偵業界の唯一とも言える広告媒体はNTTが配布するイエローページ(業種別に電話番号が記載されてい
『現役探偵の調査ファイル 七人の奇妙な依頼人』 福田政史:著 【第七話】盗聴(みみ) 1 探偵として働き始め、神田駅前で事務所を持ったころ、不倫調査はほぼ百パーセント、妻からの依頼だった。依頼する妻の年齢は四十歳過ぎで、五十歳代、なかには六十歳ということもあった。 妻からの依頼が圧倒的に多かったのは、妻のほうが、夫や家庭に対する執着が強かったからなのだろう。昭和三十年〜四十年ぐらいまで、既婚女性は離婚することを恥と考えるような社会風潮があった。加えて、離婚をすると、経済的
『現役探偵の調査ファイル 七人の奇妙な依頼人』 福田政史:著 【第六話】薔薇 8 この日、愛犬のタローだけは、佐伯氏が自分たちが一緒に連れて行くと申し出たため、ケージから出されて娘のベンツに乗り込んだ。ケージから出され、嬉しそうに尻尾を振って佐伯氏にじゃれるタローの姿に、私は心底ホッとしていた。佐伯家のタローは、我が家で飼っているロンという犬に何となく似ていて、特に人なつっこく愛らしい目がそっくりだったからだ。 ロンが我が家の一員になったのは、その一年ぐらい前だった。この
『現役探偵の調査ファイル 七人の奇妙な依頼人』 福田政史:著 【第六話】薔薇 7 冒頭で紹介した「強制退去・執行日」の一週間ほど前、私は浅田弁護士に呼ばれて彼の事務所を訪問していた。事務所には依頼人の岩井社長のほかに裁判所に所属する執行業者も在席し、佐伯家の立ち退きについて話し合いがなされた。 「断行」という耳慣れない法律用語を聞いたのはこの時だった。 強制執行を行う場合、占有者の退去や明け渡しについて、裁判所は特別な理由があるとき、占有者にその日時を通知せずに執行できる
『現役探偵の調査ファイル 七人の奇妙な依頼人』 福田政史:著 【第六話】薔薇 6 私は、その日、木村とのやり取りをテープに録音していた。事務所に帰ってこれを起こすと、昨日調べた彼の素性なども加えて報告書を作り、F社の顧問、浅田弁護士に渡した。所見の最後に「今後の佐伯氏、及びその関係者である木村等の動きはなお不透明」と書いた。 最後にF社を訪れた不動産業者(これもヤクザのフロント企業の男だった)、そして今回の木村たちの背景もひととおり調査したのだが、なにしろ根はヤクザである
『現役探偵の調査ファイル 七人の奇妙な依頼人』 福田政史:著 【第六話】薔薇 5 翌日、同じ場所で再び木村と会った。私の方針は決まっている。一考の余地もなく返事は「ノー」である。このことについて、あえて岩井社長の指示も仰がなかった。仮に聞いても結果は分かりきっていたからだ。前述のように、岩井社長は経営手腕にも優れ、一代で「S沿線で彼を知らぬ者はない」というほどの会社を築いた人である。よく言えば意志が強く、一方で頑固な面も持ち合わせている。たとえヤクザが大挙して押しかけても
『現役探偵の調査ファイル 七人の奇妙な依頼人』 福田政史:著 【第六話】薔薇 4 年が変わって松も取れたころ、岩井社長から困惑した声で電話があった。 「いま会社に変なやつが来ているんですが、どうもうちの社員じゃあ手に負えないようです。そちらで窓口になって話を聞いてやってくれませんか」 聞けば、その男は佐伯氏の代理人と名乗って「こんな会社潰してやる」と大声で怒鳴っているという。 佐伯氏の調査報告書を出した私は、年末、忘年会で岩井社長と顔を合わせたときもZ町の家のことは話題