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実践するための理論(実践と理論の融合)

大学院で学ぶ「学習のデザイン」。今回は、前期に受けてきた授業の1つ「実践と理論の融合」の総仕上げ的な内容です。

この授業、これまで段階的に整理をしてきました。

  1. 理論と実践の違い(粘りと染み込みが大事な、暗黙知と形式知

  2. 実践の知識とは(実践知ってなんだ?

  3. 理論とは(実践なき理論は役に立つのか?

  4. 理論と実践の関係(「あいだ」こそが大事だとわかる中範囲理論

で最後に、理論と実践をつなげるための「実践の理論」をまとめます。濃密なのでじっくりと付き合ってください。

実践の理論とはどういうもの?

まずは「実践」のおさらいから。人は何のために実践しているかというと、次の2つに基づいています。

  • 理想像がある

  • よりよいことを再生産する

例えば、選挙の投票率を上げるためにCMなどで呼びかける行為は、投票率が高くなることが理想であるという前提に立ち、そのために持っている知識を使って効果的な方法を実行し続けている、という実践です。

知識を持たずに、ただ場当たり的に対応するのは実践ではありません。何らかの理論に基づいた仮説を適応することが実践です。

この理論は、実践のための理論だといえます。

実践するとき理論はどう関係する?

実践では、その現場や領域でしか通用しない知識があります。

例えば、日本で一般的なことは海外では通じないとか、会社によって常識が違っていたりとか、昭和だったら受け入れられていたとか。知識には汎用的なイメージがありますが、時代や環境次第では役に立たない知識もたくさんあります。

でも、だからこそ実践の知識を社会で使えることが大事だと考える識者は、実は昔も今もたくさんいます。

ダランベール「徒弟制でなくても、知識や技能を形式知化すれば、職業に就くことができるようになれる」

百科全書(1751-1772)より

アダム・スミス「職業に付随する知識が、経済に寄与する」

国富論(1776)より

パース「役立つならその知識は社会で認めてよい」

プラグマティズムの考え方より

ドラッガー「知識を組み合わせて成果を出すマネジメントが重要になり、企業は学習機関になる」

断絶の時代(1969)より

レヴィストロース「ありあわせのものでどうにかすることが大事」

野生の思考(1976)より

ギアツ「学者よりも実際に見て知っている人の方が詳しい」

ローカル・ノレッジ(1991)より

ギデンズ「人への投資は福祉だけでなく経済発展につながる」

第三の道(1999)より
一応いくつかの本は読んだよ(流し読みだけど)を言い訳するための画像

以上、偉人・賢人の思想を雑にならべてみました。

実践の知識をどう理論化するか?

では、実践の知識をどうすれば役立てられるのか?ここに理論が登場します。次のステップを見てみましょう。

①実践の場で知識を得る
②得た知識を記述などで外化する
③知識を文脈から切り離して理論化する
④理論化した知識を実践で使えるようにする

川山竜二先生のモデルを僕なりに意訳した図(正しく理解できていないかも?)

ポイントは知識の「脱埋め込み化」「再埋め込み化」です。具現化↔︎抽象化、専門家↔︎汎用化、といったような行き来によって、実践が理論に発展したり、理論を実践に適用できるようになります。

これが実践するための理論です。

理論を実践に適応できるか?

これまでは、実践→理論のながれを見てきました。じゃあ逆はないのか?

あります。

星野リゾートの経営の種明かしをした本が象徴的です。

この本の考えは「教科書経営」、つまり理論通りにやってみようということです。世の中には緻密な研究によって認められた理論が数多くあるのに、みんなそれを使わずに自己流で考えてしまう。そうではなく理論をお手本にして実践すべきという考えです。

過去に書いてみた記事がありますので、詳細はこちらご覧ください。

例えば経営学では、ファイブ・フォースやプロダクトポートフォリオ・マネジメントなど、事業戦略に使える理論が数多く知られています。星野リゾートはこの理論通りにやって経営を立て直した、ということです。

これが、理論→実践のながれです。

実践者は傾向的に理論を軽視しがちですが、本当にすぐれた理論は実践に適応できる素晴らしい知識が内在しています。問題は、実践者が理論を表層的にしか理解していないことや、現場に過剰適応させようと理論をねじまげてしまうことです。(そのままでは使えないからアレンジしよう←これみんなやってしまいますよね、ええ自分も。)

それでは、自身が経験する範囲でしか知識は活用できず、理論がもつ広いスケールで知識を活用できません。多くの実践者はもっと理論を丁寧に扱うべきなのだと思います。

理論実践者に必要なこととは?

さて、大学院での僕の所属は「実務教育研究科」です。この科がめざしている姿は、実務の知識を理論的に教えられる人です。

そのためにはどんなスキルが必要なのか、これまでの整理から次のようなことがわかります。

  • リフレクションできること(省察)

  • 知識の範囲を見極めていること(メタ認知)

  • 実務を説明できること(実践の理論化)

1つずつ見ていきましょう。まず「省察」について。義務教育の先生であれば実践をともなわない知識を伝達しているので、省察は不要です(教え方に対する内省はあると思います)。でも実務家は、後輩に教えていることが、今の時代やこの領域にも通用するのか?などを常に自問自答する必要があります。でないと実務で使える知識を教えられないからです。

次に「知識の範囲」について。範囲や限界をわかっていれば「この状況下でこの理論を用いるとこういった成果につながる」といえますが、わからないと的外れな対応をしてしまいます。すぐれた野球監督は状況に応じた采配ができるように、知識に対するメタ的視点は欠かせません。

そして「実務の説明」について。成果を出せていても説明できない人の能力は暗黙知です。暗黙知にとどまった状態では理論になりません。何に使えるのか?なぜそうするのか?に答えられるようになると、実践で得た知識を理論に再構築できている、といえます。

理論と実践どちらかだけではダメ。両方を行き来できるために、省察すること・メタ認知すること・実践を理論化すること、この3点は実務を教える人にとって欠かせないスキルです。

学んだこと

というわけで、5回にわたって知識にまつわる実践と理論を、多角的に見てきました。難しかった…でも知識の奥深さには気づけたのではないかと思います。

僕はこれまで、「理論だけで現場を知らない」と言われたり、現場に入っていけば今度は「自己流でやってて本当によいの?」なんて言われたりしてました。理不尽ではありましたけど、これって理論と実践をつなげられてこなかったことが理由なのだと、今だとわかります。

この理不尽な状況を終わらせるためにも、自分の領域での「実践の理論」を持つことと「理論を実践で活かせる方法」を磨きたいと思います。これをできる人が実務家教員であり、僕がいま取ろうとしている資格の社会教育士が備えるべきことです。

次は、これまでのまとめを受けて、僕が考える、デザイン領域における「実践の理論」を紹介してみる予定です。

今日はここまでです。

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ジマタロ
デザインとビジネスをつなぐストラテジーをお絵描きしながら楽しく勉強していきたいと思っています。興味もっていただいてとても嬉しく思っています。