悩める10人の学者が考える「学ぶ」ってどういうこと?(認知学習論)
大学院で学ぶ「学習のデザイン」、今回は認知科学の研究で、これまでに学者がどんなことを論じてきたかを人起点でまとめてみます。
4つの変遷と10人の学者
これまで過去100年くらいのなかで、大きく4つの学習観がうまれています。
行動主義 - 連合説:刺激と反応のつながり(1-3)
認知主義 - 認知説:記号と意味の認知で新しく理解しなおすこと(4-7)
認知主義 - モデリング説:観察からの学習(8)
構成主義 - 社会的構成主義学習論(9-10)
とてもざっくり書くと、行動主義は単純なインプットとアウトプットによる単純な作用、認知主義は解釈による理解、構成主義は他者との学び合い、といった分類です。
では各主義から数人ずつ、計10人の理論を紹介します。
1.ソーンダイク:試行錯誤説
エドワード・L・ソーンダイク(1874-1949)はアメリカの心理学者で、ネコの実験を行い、試行錯誤から学習の法則性を見出します。
扉が閉まった箱に入れられたネコは、最初は暴れたりするなかで偶然に脱出します。この経験を何回か繰り返すと、無駄な動きはしなくなり必要な行動だけするようになって、効率よく脱出できるようになりました。
2.パブロフ:条件反射
パブロフの犬でおなじみのイワン・パブロフ(1849-1936)は帝政ロシア・ソ連時代の生理学者です。
パブロフは犬の観察で条件反射の学習を示します。ベルの音を聞いただけではよだれは出ないけど、ベルが鳴ったあとに餌を見せることを繰り返すと、ベルの音だけでよだれが出るようになる事象を明らかにしました。(ただ、これが学習しているといえるかは個人的には、やや?もあります)
3.スキナー:オペラント条件づけ
オペラント条件づけで有名なバラス・スキナー(1904-1990)は、アメリカの心理学者で行動主義の第一人者です。
箱の中にいるお腹の空いたネズミが、ある時たまたまレバーを押したら餌が出てきました。これを繰り返すことによって、ネズミは自発的にレバーを押して餌をもらおうとするように学習しました。
4.ケーラー:洞察説
ヴォルフガング・ケーラー(1887-1967)はドイツ出身ですがナチス政権時代にアメリカに亡命した人で、ゲシュタルト心理学の創始者です。
ケーラーはチンパンジーを観察して、天井から吊られているバナナを取るために、箱を積み重ねて棒を使いました。1-3で紹介した行動主義の視点とは違って、餌などの刺激からではなく周囲をみて洞察から問題を解決する方法を学んでいます。
NHKの学習番組「考えるカラス」で、洞察する学びを観られます。
5.トールマン:記号学習説
エドワード・トールマン(1918-1954)はアメリカの心理学者です。
ネズミを迷路の中に入れると、餌にたどり着くため最適なルートを訓練から学びます。トールマンはこの研究結果から、刺激→反応による学習ではなく、手段→目的の関係性から学習する、という記号学習説(サイン・ゲシュタルト説)を提唱します。
手段(Sign):迷路の地図の行き方を理解する
目的(Significate):餌がほしい
→ 今まで適当に歩いてたけど、餌があると間違えずに歩くようになった
6.ピアジェ:スキーマと均衡化
ジャン・ピアジェ(1896-1980)はスイスの心理学者で、特に子どもの発達心理学で大きな功績を上げた人です。
子どもがものごとを理解するのには、認知構造に対して2つの過程があると考えます。この認知構造のことをSchema=スキーマといいます。(フランス語ではシェマ)
同化:既存のスキーマから外の新しい情報を取り入れる
調節:新しい情報によってスキーマを変容させる
例えば「りんご」に対しては、赤い・酸っぱい・木になる・丸いなど既存のスキーマが持っています。あるとき青いリンゴもあることを知り、スキーマが再構成されます。この過程を繰り返していくことを均衡化といいます。
7.レヴィン:場の理論
クルト・レヴィン(1890-1947)はドイツの心理学者で、ケーラーと同様に1933年アメリカに亡命しています。
場の理論は、このような式で説明されます。
人の行動は個人の性格と周囲の環境の関数で表される、という考えです。同じ環境の中でも人によって行動は変わるし、環境が変わると行動も変わるということです。こう書くと割と普通のことに見えますが、行動主義にはなかった視点です。
8.バンデューラ:モデリング説
アルバート・バンデューラ(1925-2021)はカナダの心理学者ですが、活躍した場所は主にアメリカです。
モデリング説は、子どもが大人の行動を観察するだけで、子どもはその行動を模倣してしまうことを研究した理論です。例えば暴力を振るう親をみて、子どもも暴力的になってしまうような状況です。モデリングは親や友達や先生など、近い対象の人から影響を受けやすい傾向があります。
9.ヴィゴツキー:社会的構成主義
レフ・ヴィゴツキー(1896-1934)はベラルーシ出身ソ連の心理学者です。
これまで上げた認知主義は主に個人の中で行われる過程を研究したものでした。ヴィゴツキーは、一緒に学ぶ人や道具や教室などの環境など(つまり個人→社会)に着目します。
例えば、仲間と意見を交わして学びを深めたり、先輩の背中をみて学ぶといったことや、教室の外を出て実体験から学ぶなどあげられます。近年の学習で重視されているアクティブラーニングなどに、強い影響を与えています。
10.ハッチンス:分散認知
エドウィン・ハッチンス(1948-)はアメリカの認知科学者です。
分散認知とは、知識や認知は1人の頭の中だけはでなく、仲間との協力の中にあったり環境に分散されているということを意味します。例えば船の運転に関する認知は、計器の表示だったり各クルー同士の役割の中にあるといえます。(ここは、まだ自分が深く理解できてないかも)
学んだこと
刺激と反応に着目した行動主義、意味の解釈を深めた認知主義、他者や環境との関係に広げた構成主義、この100年くらいで、学習の捉え方が大きく広がっていることが見えたかと思います。
近年に目を向けると、1970年代はコンピューターの進歩と合わせてプログラミングの認知に着目したり、1990年代には正統的周辺参加論(社会構成主義の発展)などの考えが広まります。2000年代には学習環境にも注目が集まりました。このあたりは、過去に書いた記事を参照にしてください。
プログラミングや正統的周辺参加論
学習環境デザイン
僕はここから、創造性と認知について研究をしていきたいと思います。
今日はここまでです。