図書館と学ぶ権利(教育サービスの現状と未来)
大学院で学ぶ「学習のデザイン」。今回は図書館についてです。
真理・自由・人権と図書館
日本の図書館は戦後の1948年、国立国会図書館法のなか
という考えのもと、図書館サービスが打ち立てられました。
図書館は基本的人権のひとつとして、個人の自由のプライバシーを尊重しています。例えば、0歳でも(!)本人の図書カードをつくって借りることができます。逆にどのような理由があっても借りた本の履歴を他人に知らせることはしません。
日本図書館協会では、自由の権利をこのように定めています。
図書館は資料収集の自由を有する
図書館は資料提供の自由を有する
図書館は利用者の秘密を守る
図書館はすべての検閲に反対する
この信念、めちゃめちゃカッコいいと思いませんか?
子どもと図書館
図書館は子どもにも個人の尊重を適用しています。
成人コーナーとは別に、乳幼児に対しては紙芝居や図書館内で過ごせる場所を提供し、児童に対しては絵本や調べ物のための本、ヤングアダルトに対しても適した本や学習環境などを提供しています。図書館の本の5冊に1冊は児童書だということです。
2015年に旧twitterでこんな投稿が注目を集めました。
これは図書館が、ただ本を読むだけの場所ではなく、子どもの人権を尊重して、安心できる居場所を提供しているサービスである立場を象徴している例だといえます。
読書習慣と図書館
小学生を対象とした調査では、読書で次のような傾向が見えています。
データからは、小さいころは図書館を利用する機会がそこそこあるけど、小学生になるにつれて図書館との距離が遠くなる家庭が増えていることがわかります。読書の習慣がない小学生は半数近くいて、家に本がほとんどない家は約25%です。
要因の1つに、スマートフォンやテレビなど情報メディアの多様化による影響があげられます。しかし、本と接する時間の減少は、物事に深く向き合う機会が失われていると考えることができます。
そのような背景から、朝に読書時間を推奨する学校も増えています。
ただ、より根深い問題は、大人である親が本を読まないこと、ではないでしょうか?大人が家で本を読む習慣を身につけることが、結果として子どもの読書週間にもつながるのではないかと考えます。
本以外のメディアと図書館
図書館のカバー領域は紙の本だけではありません。インターネットの普及にともない、電子書籍やネット上の記事やオンライン作品などを読む人も増えてます。
中学生を対象とした調査では、上位ランキングに、話題の小説、ライトノベル、児童書、漫画などいろんな分野が混在しています。例えば中2だとこんな感じ。
時代にあわせて、図書館でも電子書籍やウェブサイトの利用などを提供しています。
学校と図書館
学ぶ場として直結しているのが学校図書館ですが、体制が万全とはいえません。学校に司書がいる割合は50%程度にとどまり、予算の中でも学校図書購入費は57%しか使われない傾向にあるということです。
学生自体の利用率も年々低下しています。なので学校は、使い方を学生に委ねるのではなく、授業やオリエンテーションなどで活用方法を積極的に教える必要があります。また、若者はデジタルでの読書に慣れているため、紙の本だけではなく年齢に応じた多様なメディアの提供が求められます。
文部科学省は、国語力を構成する4つの力を次のように示しています。
論理的思考力(物事を道筋立てて考え説明できること)
感じる力(他者の立場になって芸術・文学・自然を感じとること)
想像力(実際に経験していないことでも考えられること)
表現力(自分の考えをわかりやすく言葉で伝えること)
成長段階に応じた学び方は、3歳までは感じる力や想像力の割合を高く、そこから論理的思考力を少しづつ取り入れて、語彙力を含む表現力を増やしていくことが適切とされています。
学校図書館を積極的に活用することは、先生から一方的に教えてもらうのではなく、学習者が主体的に学べるようになる場としても期待されます。
インクルーシブと図書館
2023年、難病による重度障害を抱える市川沙央さんが芥川賞を受賞したことで、本のあり方や可能性についての関心が高まっています。
図書館は、本の利用が困難な障がいを持っている人、図書館にアクセスできない事情を抱えている人(例えば受刑者でも)に対しても、本を読む機会を提供をするための取り組みを行なっています。
また、図書館は本を読むための場だけではなく、調べ物をしたり、何かをつくったり発表をするための場でもあります。
例えば、乳幼児には親子で過ごせるスペースや読み聞かせ会などを提供していますし、中高生が集中して勉強できる場、映画や音楽を鑑賞できるサービスも提供しています。
日本ではまだ少ないですが、アメリカ・ニューヨーク市の図書館では音楽イベントや結婚式なども行われています。映画にもなりました。
図書館はこのように、市民にとって近づきやすく、多様な学ぶ機会が得られるための場所として進化を続けています。
便利な図書館
図書館を利用している人は多くないと思います。僕も20代なかばまで、図書館に行くことはなく、ほとんど本も読まない人でした。
あるとき(市役所によるついでだったか)何気なく寄ってみたら「最近の本がたくさんある」「デザインの本こんなにあるのか」「館内がめちゃめちゃ心地よい」と感動しました。
それ以来、図書館には平均週1で通うし、年間に読む本は雑誌とかも含めて200-300冊です。これを無料(正確には住民税だと思う)で利用できるのに使わない手はないと思います。
今の図書館はネットで本を検索できて予約もできます。こちらのサイトは全国の図書館の本を検索できる、めちゃ便利なサイトです。
建築に興味がある、というだけの動機でも十二分に行く価値はあります。海外も素晴らしいけど、日本の図書館もかなりいいですよ。
図書館サービスは独立して誠実な立場をとってるので、PRは正直あまり上手ではないと思います。利用のキッカケづくりがもっと増やせれば、読書する習慣と学ぶ機会が増やせると思います。
学んだこと
図書館の「政策や経済などに依存せず、真理と自由に基づく独立した機関」という立場は、人が学ぶことや人権ということの結びつきを強く考えされられました。これは、民間や地方の枠組みではできないことです。
また、国語力の4つ(論理的思考力、感じる力、想像力、表現力)は、自分の研究テーマである創造性に強くつながることに気づきました。読書=真面目で固い人という印象を思い浮かべてしまいますが、実際は逆で、読書は創造力を高めることに直結する学習方法だといえます。
これを機会に興味を持った人は、まずは近所の図書館に足を運んでみてはいかがでしょう?
今日はここまでです。