フォロンとの出会い | 読書の学び
フォロンの本との出会いは、僕の人生にとって、とても貴重なめぐりあいでした。
高校生の時に図書館が好きで、授業が終わると図書館に直行して、図書館が閉館時間になると家に帰るような日々が続いた頃もありました。図書館では、目的があって本を読むよりも興味がありそうな本を、ぺらぺらとめくっていました。本棚にある本は片っ端からめくっていた時がありました。そんな時にめぐり合った本がヨーロッパのグラフィックデザイナーを紹介するような本でした。その本の中に、とても魅力的に感じたイラストがありました。
図書館で出会った、その本の中のイラストはフォロンというデザイナーが描いていました。そしてフォロンが僕がデザインの分野に惹き込まれた一つのきっかけになりました。フォロンという名前を覚えていましたが、どのような本であったかは覚えていませんでした。
そして、僕はフォロンに影響されて、高校生の時や大学生の時にポスターを作ったり、IBMのプロジェクトでフォロンを意識したデザインプロジェクトも推進したことがありました。
ヨーロッパのグラフィックデザイナー
そして、最近、検索をしていて偶然に「ヨーロッパのグラフィックデザイナー」という本を見つけて、さっそく手に入れることができました。たぶん、高校生の時にこの本と出会ってから50年近くかかったのだと思います。やっと高校生の時に見たフォロンの本を手にいれることができたのです。
この本は、1970年7月に美術出版社発行した「ヨーロッパのグラフィックデザイナー」を紹介する全4巻のシリーズの本の一冊目です。僕が中学生の頃に出版された本です。このシリーズの第1巻 には、ヤン・レニッツア、ジャン=ミッシェル・フォロン、ヨゼフ・ミューラー=ブロックマン、ディック・エルファースが紹介されています。そしてジャン=ミッシェル・フォロンの代表的なポスターやニューヨーカーの表紙が掲載されていました。
亀倉雄策とクリエイション
フォロンについては、亀倉雄策氏が発刊したCreationという本の4号でに掲載されていることが分かり、さっそくこの本も手に入れました。この本は、初代の東京オリンピックのポスターなどでも有名な日本を代表するグラフィックデザイナーの亀倉雄策氏が責任編集とアート・ディレクションを担当した本のシリーズです。
1989年にリクルート社で発刊されたこのCreationという本は20号で終了する予定で、その4番目の本だったのです。1990年3月に発刊された4号は、ジャン・ミッシェル・フォロン、船越桂、オトル・アイヒャーなどの作家を掲載していました。
ジャン・ミッシェル・フォロン
ジャン・ミッシェル・フォロン(Jean-Michel Folon)はベルギー生まれのイラストレーター、グラフィックデザイナー。フォロンのイラストには、ストリーがあり、哀愁のある色と現代を批判するような矢印などの記号を組み合わせたイラストが今でも魅力的です。
この本の中に、グラフィックデザイナーの麹谷宏氏の解説があります。その解説はとても丁寧で、「フォロンの絵は究極人間讃歌の詩画にほかならない」というのに共感します。
また、フォロンはイタリアのOlivetti社のポスターなどのデザインを手がけていて、僕がIBM社のデザインヒストリーを調べていくとOlivetti社に行き着くのも不思議な縁です。なぜ、Olivetti社がフォロンを選んだのだろうか、そこにはコンピューターを手掛けるOlivetti社が人間讃歌を姿勢を伝えたかったのではないか? などと妄想してしまいます。
そして、麹谷宏氏の解説には、もう一つの重要なストーリーが語られていました。そこには「フォロンは、絵筆を持った思想家なのだ」と書かれています。フォロンが社会問題に関するボランティア活動にも捧げていたのです。フォロンの画と思想が一つになっていたのを、高校生の僕なりに何か感じとっていたのかもしれません。
フォロンの作品はベルギーのブリュッセルの近郊にあるフォロン財団が設立した博物館で見ることができるそうです。僕はまだ行ったことがないのですが、ぜひ行ってみたいと思います。そのWebサイトにある映像から、雰囲気を感じることができます。
https://fondationfolon.be/
また、作品はmetrocs社のサイトより手に入れることもできます。下記は1968年にオリヴェッティ社のダイアリーの挿絵として描かれたイラストレーション12枚セットだそうです。
オトル・アイヒャーと向井周太郎
そして、手に入れたこの本を読み返してみると、向井周太郎先生が「オトル・アイヒャー」のストリーのある作品も紹介しているのも、びっくりです。向井先生は1964年から1965年にドイツのウルム造形大学に留学してマックス・ビルやオトル・アイヒャーなどからも学び、1967年に武蔵野美術大学の基礎デザイン学科を設立いたしました。僕が以前にモダンデザインの会「マックス・ビル」の会にもきていただいたことあります。
この本で向井先生が取り上げ「オトル・アイヒャー」の作品の中でもストリーのある作品であることも興味深いです。オトル・アイヒャーはタイポグラフィーやルフトハンザドイツ航空のコーポレート・ブランディングや1972年のミュンヘン・オリンピックのビジュアルでも有名ですが、その有名な作品ではなく日本にあまり紹介されていないストーリーのある作品でした。
遠回りして
ずいぶんと遠回りをして、二つの本にたどり着きましたが、ジャン・ミッシェル・フォロンという、現在でも僕が敬愛している人と図書館で出会ったことは、とても幸せなことだった実感しています。
1970年発行の「ヨーロッパのグラフィックデザイナー」は50年以上、1990年発行の「Creation 4号」は30年以上の月日がたっていますが、どちらの本も現代でも、とても価値がある読書体験をすることができるプロダクトなのです。
[1]「ヨーロッパのグラフィックデザイナー」、美術出版社(1970-7)
[2]亀倉雄策「Creation no.4」、リクルート出版(1990)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?