ロートレックと印象派 -『ロートレック展 時をつかむ線』をより楽しむ
ロートレック(1884-1901)は19世紀後半のパリで活躍した画家である。
今年はSOMPO美術館で『ロートレック展 時をつかむ線』、三菱第一号美術館で『再館記念ートゥールーズ=ロートレックとソフィ・カル』の開催されるということで、さらに注目を集めている。
展覧会をより楽しむために、ロートレックの生い立ち、そして画業について調べてみよう。
ポスト(後期)印象派とは?
時にロートレックはポスト印象派と呼ばれる。ポスト印象派は、1886年から1905年にかけて主にフランスで行った美術の流れのことである。それぞれの画家は印象派の画風にとらわれず独自のスタイルを模索し、後のキュビスムをはじめとした前衛芸術に大きな影響を与えた。
一般的にセザンヌ、ロートレック、ゴッホ、スーラらがポスト印象派に含まれるらしい。印象派の影響は受けているとはいえ、彼らの作品を思い浮かべるとそれぞれが独自の画風を生み出しており、一つのスタイルとしてくくることはできない。
ちなみに1886年といえば、最後の印象派展(第八回目)がパリのラフィット通一番地で開催され、ルドンやスーラ、シニャックなどが参加した年だ。初期メンバーのモネ、ルノワールは離脱しており、次の時代を問う前衛芸術が並んだのである。(ロートレック、ゴッホは一度も印象派展に参加したことがない。)
ロートレックと画業
「もう少し自分の足が長かったら自分はけっして絵なんぞ描かなかっただろう」。ロートレックの言葉である。
彼は13歳のときに左足、14歳のときに右足を骨折してしまい、その後脚の成長がとまってしまったのである。南フランスの貴族出身の彼は、順調にいけば伯爵家の跡取りになるはずであった。
彼は17歳のときにパリに移住し、本格的に絵を学び始める。画塾ではルネ=グルニエ、エミール=ベルナールと出会い、芸術家の街"モンマルトル"にも足を生みいれるようになる。当時全盛期のモンマルトルには、バー、キャバレー、カフェなどが立ち並んでいた。夜になるとロートレックはそこへ出向き、絵を描いたのである。芸術志向や発展途上の人(詩人、芸人、娼婦、画家..)が集まる歓楽街は、肩書にとらわれずいい意味でお互いに無関心(普通に接してくれる)であり、貴族として期待された将来を歩むことが難しい彼にとって一番の場所だったのかもしれない。
「勉強中彼は、機智と歌でアトリエに活気を与えた」ということから、彼の性格も垣間見ることができる。彼は人前に出ることが好きで、パーティに参加したり、食事を振りまったりと彼自身の魅力もあり、モンマルトルに馴染んでいったのかもしれない。
人間を描く
ロートレックを語る上で、ドガとの関係は外せないだろう。ドガは印象派の画家で、人物、それも一瞬の動きをとらえる画風を確立した。(彼自身はデッサンを重視しており、印象派と呼ばれるのを嫌っていた)。代表作は踊り子の一瞬の動きを切り取った《バレエの舞台稽古》だろう。
ロートレックは人々の生活を描くことに関心があり、人物画を得意とした30歳年上のドガを生涯尊敬したのである。彼なりの接近だったのかもしれないが、ドガの好んだモデル、ヴァラドン(一時ロートレックと愛人関係になった)やディオを描いた。ドガ自身は孤高の画家として、仲間や弟子をもつことにも興味がなかったようだ。ドガはロートレックを画家として認めつつも風刺的な態度をとり、両者の関係がロートレックの望むようになることはなかった。
ポスターの仕事
ところでロートレックはデザイナーなのだろうか?彼の一番有名な作品は《ムーラン、ルージュ、ラ=グリュ》であることは間違いないだろう。
彼は間違いなくポスターを制作したが、芸術家にとってポスターは全く別の領域ではないのだろうか? それも、当時ポスター界の巨匠であったジュール=シェレが2年前にムーラン、ルージュのポスターを既に作成していたということが驚きである。
なぜロートレックが改めて描く必要があったのだろうか?そのカギを握るにはムーラン、ルージュのトップダンサー、ラ=グリュだろう。
『ロートレックの謎を解く』によると、ラ=グリュがロートレックに自分を(美しく)描いてほしいと依頼した結果、ロートレックはポスターとして描きたいと答えた。このとき彼がポスターに興味を持っていた理由としては、当時憧れたドガに冷たくされ、一時的に絵画絶望したということがあるかもしれない。さらには当時日本の浮世絵が流行しており、洋画と日本画の橋渡しをする新たな表現を模索しようとしたのかもしれない。
しかし、制作には多大なスポンサー費用が必要だったため、ラ=グリュはムーラン、ルージュにも支援を求めたことにより、「ムーラン、ルージュ」の要望も踏まえた作品を作る必要がでてきたのである。よって、作品の上部に店名「ムーラン、ルージュ」が後から追記された。(店名あり/なしそれぞれ存在する)
まとめ
以上ロートレックについて、書いてきた。知るほど奥深く、今年の回願展も非常に楽しみである。次回のテーマは「シュルレアリスムとダリ」。ではまた!
参考文献
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