全員を疑う
朝5時、散歩に出かけた。眠気を振り払うように、イスに掛けっぱなしだったジャージを何も考えずに身につけて家を出る。
3月、早朝でも突き刺すような寒さはないが、歩いているうちに心ノ臓まで染み込む冷たさを感じる。ジャージの下、もう少し厚着をしてくれば、と後悔する。
まだ陽は登っておらず、道は暗い。人気も少ない。いつもの道ながら、普段とは異なる様子に新鮮さを覚えつつ、警戒を強める。
向こうから人がやってくる。息を切らしてやってくるその人はランナーだ。私の方は見向きもしない。すこし安堵する。
信号に人影がある。その人は犬を連れている。朝の散歩だ。どんどん先へ進みたい飼い主に反して、犬は塀の匂いを嗅ぐために立ち止まることを繰り返す。
コンビニに入って、買い物を済ませて出ると、駐輪場の人影が出てきた私の方をぼうっと眺めていた。
待ち伏せか??
目を合わせないようにその場を通り越し、コンビニの敷地を抜けたところで振り返る。私がいなくなっても、その人はコンビニ出口の方をみたまま突っ立っていた。
しかし、コンビニが見えなくなるところまで差し掛かると、糸が切れたように動き出し、自転車に乗って走り出した。
これは追ってくるのでは??と気が気でない。自転車が背後から飛び出してくる。
予想に反して、自転車は道路の向こう側へ渡り、反対側の歩道を走って私を追い越していった。
なんだ、無関係か、と少し安心して、私は2軒目のコンビニに向かう。
・・・
続けて、3軒目のコンビニに行く途中、人が至近距離で私を追い越していったが、その人もランナーだった。
向かい側から自転車が来る。ふとみると、ハンドルにミラーがついていて、コンビニの袋が下がっている。これは、さっき見た自転車の特徴だ。
私はゾッとする。追い越してきた人が反対側から回り込んできた?
その人はそのまますれ違い、すぐ後ろの角に消えた。何故回り込むようなことをしたのか?不審者なのか?
家に着く手前、交番はパトロール中の看板が掛かっており、誰もいなかった。ぼんやり歩いていたら私の脇を音もなく自転車が過ぎ去った。
さっきの人ではなかった。ママチャリだ。でも、もし今の人が私を襲うために近づいたら、間違いなく急所を狙えていただろう。
こんな朝早くに出歩く人なんて、みんな変な人だな。
私もそうだ。もし誰かが私の一連の行動を見ていたら、何故こんなに朝から立て続けに3件のコンビニに入っていくか理解できないはずだ。
私はコンビニ限定で売られているらしいお菓子を探していたのだが、見つからなかった。朝の方が入荷していると思ったのだが、そもそもラインナップになかった。
自転車のおじさんも、昼間だったらそんなに気にしなかった。私と同じで、コンビニに行って、家に帰るだけだったのかもしれない。
早朝は全員を疑いたくなる、怪奇な時間帯だ。