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素直になる勇気(坂口安吾 『勉強記』を読んで)

僕は学生時代から坂口安吾がわりと好きだった。

変な格好つけや理屈のこねくりまわしをせずに、物事を真正面から捉えようとするストロングスタイルに頼もしさを感じていた。

その中でも特に印象に残っているのが『勉強記』だ。

『勉強記』の主人公、栗栖按吉(くりすあんきち)は涅槃学校のインド哲学科に入学し、悟りを開くために勉強に没頭する。

ただ最終的には、電車の中でみた美しい女性の影を追っていき、悟りを諦めてしまう。

その女性を追っていく際の按吉の心情が印象的で、今まで悟りを開くために勉強に全てを捧げてきた按吉の心に「生まれてはじめて本当のことをした!」と晴々しい気持ちが生まれているのである。

悟りを開こうとは思ってなかったが、按吉と同じように大学院で勉強に明け暮れていた当時の僕は、この勉強記の按吉の心情に、はっ、とさせられたのを覚えている。

結局、悟りを開こうにも女に迷ううちは迷うしかない、という実に坂口安吾らしい心情があらわれているのだと思うが、僕はこの按吉の心情に「自分に素直になること」の大切さを学んだ。

特に僕は昔から自分自身の心情に素直になったり、素直な自分を他人に見せるのが難しいと感じていたので、勉強や読書など自分の中で完結しやすいもののほうが気楽だった。

ただ按吉と同じように自分の心情に素直になって行動した時の、本当のことをした!、という気持ちは格別なんだろうな、と思う。

自分に素直になって生きることは、悟りを開こうとすることくらい難しいのかもしれない。


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