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トンビと戦闘機とスタバ

広島のJR宮島口からフェリーに乗って約10分ほどで宮島に到着します。
そこから桜だらけの道を歩いて、港からすでに遠くに見えてる巨大な朱色の鳥居を目指して歩きます。道中そこらに鹿がウロウロ。のどかな雰囲気。
2023年4月、家族と広島へ旅行へ行ってきました。

5月下旬には広島でG7サミットが開かれます。これは、広島湾に浮かぶ小さな島「宮島」にある「厳島神社」へ行った時のお話し。
僕が見て感じたこと、ちょっと皆さんとは視点が違うと思います。


1. トンビ

瀬戸内海につながる晴れた広島湾。波もなくおだやか。人が歩いてる音と話し声しか聞こえません。お土産屋や定食屋など多く並んでいますが、うるさい音楽が流れてるわけでもなく、騒いでいる人がいるわけでもなく。満席のフェリーが15分間隔でたくさんの人を送り込んでくるのに、島全体は静かなんです。これはTwitterにも投稿しましたが、広島駅を出た時に感じた静けさがここまでつながっているようでした。

海沿いにその巨大な鳥居を目指して歩いている時、大きなトンビが飛んでいるのが目に入りました。鳩やスズメのように羽をバタバタさせるわけでもなく、グライダーのように風に乗ってる。羽をまったく動かすことなく。エンジンがついているわけでもないのに、ただただ羽を広げているだけでずっと空に浮かんでいられる。燃料なしにただ風にのって延々と滑空を続けている。すごいなぁ。その技術にただただ感嘆。しばらく見入っていました。飛行機を飛ばしている人たちは、風の強さや向きのことを考えてどれだけ真剣に燃料の計算をしていることか。自分がふだん一生懸命に考えていることがバカバカしく思えてきます。


2. 戦闘機

ゆっくり15分ほど歩いて、広島湾をバックにドーンと立ってる鳥居を海岸から少し高い所から眺めている時でした。突然、海の上の方で轟音が。瞬間的にみんなが空を見上げます。戦闘機が2機、急上昇していました。瞬時にすぐそこの岩国基地の存在を思い出しました。

晴天で波のない海、静かで平和だなぁなんて思っていたら、突然いつでも戦闘できる世界に連れて行かれて衝撃を受けました。


3. 岩国

一般の方にはあまり知られていないのですが、すぐそこに米国海兵隊と海上自衛隊が共同で使用している岩国基地があるんです。山口県と広島県の県境、海沿いに。広島を訪れる米国の首脳陣は必ず岩国基地を使います。自国の基地があるので、わざわざ成田や羽田を経由する必要がないんです。5月のG7サミットに出席する際にも使われるはずです。

そこから瀬戸内海をはさんだ対岸に、愛媛県の松山空港があります。ここに離着陸する飛行機は必ず岩国基地の管制空域を通ることになり、日本にいるのに米軍の管制官と通信を行うという、ちょっと特殊な場所。

瀬戸内海の上を通るルートを飛行する際には意識することなんですが、地上にいるとすっかりその存在を忘れていました。仕事で年中通っている場所でありながら、意外にも、岩国の戦闘機のこの特有のピッチを自分の耳で聞いたのはこの時が初めてだったんです。


4. 音

飛行中には他の飛行機の音はいっさい聞こえません。コクピット内の液晶画面には、自分の周りを飛んでいる飛行機のアイコンのようなものが表示されそれらの位置をある程度把握できるものの、その音というのは機内では聞こえません。

また戦闘機は民間旅客機に比べてはるかに小さいので、その時の高度やお互いの位置にもよりますが、目で見えることも少ないです。何度もこの辺りを飛行しているのに、岩国からの戦闘機を自分の目で実際に見たことも、音すら聞いたこともなかった事実にこの時気づきました。

この辺に住んでいる人にとっては、岩国を出入りする戦闘機の音は日常の生活音の一つに違いありません。広島=平和の象徴、という勝手なイメージがあっただけに、広島湾の上を戦闘機が轟音とともに消えていく風景が頭の中で処理されるのに時間がかかり、しばらく変な気持ちでした。


5. 在日米軍基地

国内において自衛隊の戦闘機が離着陸するのが見える空港はいくつかあります。メジャーな空港でいえば、札幌・千歳。北海道への旅行者は、JRの駅のホームまでも聞こえてくる轟音に驚かれるのではないでしょうか。

米軍の戦闘機となると、岩国以外では沖縄・那覇です。空を飛んでいる我々にとっては何よりも那覇空港周辺の空域のことを考えるのがめんどう。なぜこんな所でこんな低い高度を飛ばないといけないんだとか、なぜこの間を通らないといけないんだとか、注意しないといけないことが多数。米国空軍の嘉手納基地が那覇空港の少し北にあり、民間航空機が入ってはいけない米軍の空域があちらこちらに。とても気を遣います。米軍の存在をこれほど強く感じる空港はありません。いろんな意見があるでしょうが、米軍の占領下にあるのではと感じる人がいても不思議ではありません。


6. カウントダウンボード

ここへ来る前に広島駅で、5月下旬(5月19日-21日)に開かれるG7サミットへ向けてのカウントダウンボードが設置されていたのを目にしました。しかしこれだとサミットを「3日間やって、はい、終わり。お疲れ様でした!」というイベントのような感じが出て少し違和感を覚えました。ホストする広島側としては間違いではないのでしょうが。

日本はG7の議長国。この1年ずっと議論を引っ張っていくのが議長国としての仕事です。サミットをやることが目的ではないのです。今回は特に、ロシアのウクライナへの侵攻を許さないという姿勢を見せ続けないといけないんです。ましてや広島でやるわけです。核拡散に反対する実効的で強い声明が出ることが期待されています。世界の目が日本に向くことを忘れてほしくないです。普段から日本にはもう少し世界を引っ張っていくという意識を持ってほしいなと感じています。どうしてこういうことを言うかというと・・・


7. 拍子抜け

日本と海外を行ったり来たりしていた時期、帰国する度に感じていたことがあります。今でも大きく変わらないのですが、日本で放送されるテレビ番組の内容です。食レポが溢れ、海外のニュースが皆無に近く、なんて平和な国なんだと拍子抜けしてしまいます。これは今でも、海外に住んでいる・住んでいた日本人と話しをするとよくあがる話です。もちろん平和であることに越したことはないです。

イギリスにいた頃の例をあげると、毎日アフリカの飢餓問題やヨーロッパの移民問題が絶えずテレビで流れていました。日本でもウクライナのニュースやってるよ、と言われるかもしれません。そんな少し流れるレベルではないんです。もっと日常生活に直接問題が入り込んでいるので、人々は日々周辺諸外国のことを真剣に考えざるを得ず、そのようなニュースが本当に生活に必要だからなんです。もちろん地理的な要因は大きいです。島国である日本ではどうしても海外で起こる多くのできごとが、対岸の火事であるかのように終わってしまっています。そしてそのせいで残念なことに、どうも世界から切り離されているような感じがするんです。


8. 存在感

多くの外国人が世界から広島を訪れて、原爆ドームや原爆資料館を見て行ってくれるとホッとします。少しでも世界は日本を見てくれているんだと思えるからです。日本人としてそういった意味でも、広島を大事にしていかないといけないと思います。せめて議長国であるこの1年、政府には世界に平和の大切さを年間通して、今までより強く発信し続けていってもらいたいですし、その責務があると思います。世界に置いていかれない存在感を見せてもらいたいです。外から見ると日本の存在感ってとても薄いんです。日本人が思っている以上に日本のことは世界に知られていません。

一つ例をあげます。阪神淡路大震災があった時の1995年、僕はイギリスにいました。神戸の倒壊した建物や崩れた高速道路の写真・映像がメディアで報道され、あるイギリス人に何と言われたと思いますか?日本って壊滅したらしいねって。大真面目に。神戸が日本の全てだと思ったようです。そんなちっぽけな国だと思われているんです。今はさすがにそんなこと言われないと思いますか?僕は自信ありません。極端な例ではないんです。世界が知ってる日本ってそんなものなんです。


9. 船で行くスタバ

そんなことをあれやこれやと考えていると、子供がのどかな風景に僕を引き戻してくれました。

「京都と奈良が一緒にあるみたい。」

なるほど。ここに来るまでは知らなかったんですが、この宮島には京都のように神社仏閣がたくさんあるんです。奈良公園の中を歩いているかのようにそこらじゅうに鹿がいるんです。確かに京都にも奈良にも見える。的を得てて良い表現です。

この日、子供には説明が難しいので

「船に乗ってスタバへ行こう」

と言っていました。この小さい島にスタバがあるんです。日本で唯一船で行く店舗だそうです。なんとも優雅な言い方ではありませんか。子供たちは大好きなフラペチーノが飲めるお店がここにもあると大喜び。

このスタバはアメリカから入ってきたもの。子供にはそこまで理解できていません。日本がアメリカに降伏して間もなく78年になります。日本中に神社仏閣がありながらも欧米文化が散りばめられている。スタバがあり米軍基地があり、今も米軍戦闘機が日本の空を飛んでいる。自分の子供は英語を理解し話す。78年前は敗戦国だったのに、今はいろんな問題を抱えながらも、とても文化的で豊かな生活を日本人は送っています。なんとも不思議な光景。

日々の報道を見ていると、日本もいつ諸外国の戦争に巻き込まれてもおかしくない気がしてきて不安になります。でも子供が側にいると未来を感じます。未来に目を向けると平和の大切さを意識するようになります。いつの世もそうなのかもしれませんが、子供が、希望が、平和をもたらそうとする原動力になってくれるのかなと思います。この日だって戦闘機を見て思い出す過去の悲しい記憶から、子供が一瞬にしてのどかな鹿の風景が見れるチャンネルに切り替えてくれました。

***

そしてふと空に目をやると、まだトンビが音もなく空に浮かんでいました

帰りのフェリーに乗るため港へ向かって歩いてる時、海岸沿いのベンチでお弁当を食べていた男の人が突然叫びながら立ち上がったのが見えました。
トンビがアタック。弁当をつつかれたみたいです。ずっと空から品定めをしていただけだったんですね。やはりトンビにも燃料はいるよう。アタックされた方には気の毒ですが、少しトンビに親しみすら感じました。


10. トンビ vs 戦闘機

静かに空に浮かぶトンビと、爆音を残して消えていく戦闘機のコントラストが、まるで平和と戦争が存在する世界を表している縮図のようでした。神社仏閣の隙間にスタバや米軍基地や英語、良くも悪くもみんな共存してるんです。この日本のアンバランスさ。それももうすぐG7サミットが開かれる広島で。とても印象的な風景でした。

僕は聖人君子みたいな生き方をしていません。ふだん平和運動を行っているわけでもありません。たいした人間ではありませんが、こういうことを考える機会ができただけでも広島に行って良かったなと思います。

天気が良く静かなところだったから、余計にあの巨大な厳島神社の朱色の鳥居をバックに平和について考えさせられました。どうか長く、永く、平和が続きますように。

最後まで読んでいただきありがとうございました。
ただいま次回作を執筆中です。
またお立ち寄りください、ぜひ!
Happiness is like a cloud, staying up there, no matter it rains or shines. 
Thank you for lifting my spirits.
寺ピー

最後に、ちょっとした自己紹介ものぞいて帰って下さい。


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