メタバースと出会い、変わらないはずの未来が変わった
「これが、新しい私——」 思いがけない場所で、人生を変える扉が開きました。
インターネット上に存在する仮想空間、あるいはバーチャル空間と呼ばれる新たな世界。ここでは端的に「メタバース」という表現をしますが、その世界に飛び込み、人生が変わっていった私の話をさせてください。
「もう私の人生は大きく変わらないだろう。」
ずっとそう考えていました。会社員と並行しながらゲームライターとして活動するという2足のわらじ。会社員としては毎日を同じ電車に乗って通勤し、ゲームライターとしては取材をして、新作ゲームを触り、記事を書く。
会社員としては出世する未来は見えませんでしたし、ゲームライターとしても吹いて飛ぶような弱小ライターとしての枠から出られないんだろうなと思っていました。
それが当たり前の未来だと思っていましたし、ポジティブともネガティブにも思っていませんでした。
大きな転機が来たのは2020年のクリスマス、私がメタバースに初めて出会った時でした。
その頃はメタバースという表現ではなく、バーチャルSNSと表現されていた「cluster」というアプリ。そのアプリの先にはバーチャルな空間が広がっています。そのバーチャル空間で開催されたDJイベントに参加したのがすべての始まりでした。
そこで目にしたのは、この仮想世界で自分のアバターを纏った多くの人々の姿でした。年齢も性別も職業も関係なく、自分の理想の姿で自由に踊る。
はじめてこの光景を見た時の衝撃を表現する言葉をずっと探し続けていますが、その言葉は未だに見つかっていません。
「私もこの世界で活動したい。そのために自分だけの身体が欲しい」
そう思うのは自然の流れでしょう。凝り性かつ、思い立ったらすぐに行動をしてしまうのが私の悪い癖。翌月にアバターを作りました。
そして、メタバースの世界に飛び込み、その中の鏡で新しい自分の姿を見た私は「新しい人生が始まる」そんな予感を感じました。
そんな言葉を、どこかで見たことがありました。言うのは簡単で「それができれば苦労しないんですよ」と思っていました。
ですが、現実世界と切り離されたメタバースの世界は何かが異なりました。肩書きも歳も関係ない。現実とは異なる見た目で過ごす。色んな理由が重なっていると思うのですが、「この世界なら始められるかも」と思わせる力がありました。
「私もDJをやってみたい」
最初に見たDJイベントをきっかけに、胸の奥底にあった思いがじわじわと浮上してきました。
メタバースに触れるずっとずっと前から、DJへの憧れがありました。ですが、機材は必要だし、練習して仮に上手くなっても、どこでそのプレイを披露するのか、そんな状態で練習のモチベーションが保てるのかーー、言い訳は無限に沸いてきます。
ですが、私がメタバースに出会ったその時に見たバーチャルの世界で活躍するDJの姿を見ると、そんな細かい言い訳は吹き飛びました。
そして、私がメタバースに飛び込んだ日にやっていたDJイベントの主催者に連絡を取り、私はこのメタバースという世界でDJとしてデビューしました。その時の高揚感は今でも忘れられません。
ぼんやりとした夢だったDJとしてプレイするという夢が叶い、「この世界なら自分も変われる」と思いました。
それをきっかけに、私はメタバース内での活動の幅を広げ、地上波の取材を受けたり、NEXCO西日本のネットラジオに出演したこともあります。
ライターとしての活動でも、扱うテーマが広がり、メタバースのヘビーユーザーとしての視点で記事を書くようになりましたし、商業メディアでメタバース連載を持つこともできました。
仕事の打ち合わせは可能な限りリモートのビデオ会議で、アバターで出席させていただいています。
メタバースという世界に出会い、バーチャルな肉体を手に入れた私は、想像もしなかった様々なチャレンジをする機会に出会い、人生が大きく変わりました。
今の自分なら、ベンジャミン・バトンの言葉もすんなり受け入れられる気がします。
メタバースという新しい世界は、私が漠然と考えていた未来を塗り替えて、私に新しい可能性を見せてくれました。これは間違いなく、私が想像していなかった未来で、メタバースにはそういった可能性があると私は感じています。
そして、このメタバースという空間がもっともっと広がって人々の可能性が解き放たれる未来がもし来たとしたら、それもまた、今の私たちが想像していなかった未来でしょう。
ジャーナリスト / ライター:咲文でんこ