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【連載:地域交通のカタチ】取り組んでいるのは「公共交通ネットワークの四国モデル」の追求〜JR四国 西牧世博氏 & 電脳交通 近藤洋祐〜

電脳交通は地域交通の維持・存続を目指し創業から7年以上経過、過去3度の資金調達を実施し、多くの企業と資本業務提携を締結しました。

わたしたちが向き合う地域交通を含めた地域経済全体やタクシー業界の課題と将来性などを株主の方々や提携企業の皆様はどう捉えているのか?弊社代表取締役社長・近藤洋祐との連載対談を通じて浮き彫りにする連載【地域交通のカタチ】

第9回はJR四国の代表取締役社長西牧世博(にしまき・つぐひろ)氏をお迎えしました。電脳交通に出資した背景や経緯、地域公共交通の現状に対する打ち手、スイスの鉄道を参考にした四国モデル構想などについて語って頂きました。課題が多いからこそ存在する「四国のあたらしい形」についても議論を深めました。

過疎地の拡大、人口減少、衰退の先端に立つ四国

電脳交通 近藤(以下、近藤):最初にお会いしたのは2018年頃だと思います。徳島県の次世代交通課とのつながりがきっかけで、本社でお打ち合わせさせていただきました。

JR四国 西牧氏(以下、西牧氏):当時、駅からの二次交通としてタクシーがなかなか来てくれないという声がありました。そこで電脳交通さんの事を知り、どんなことをしているのかと興味をもったのがきっかけです。当時は、いまでは全国で話題になっている二次交通の交通空白地帯化の問題が四国で顕在化しており、この状況で何ができるか?協議会を開いたときに電脳交通さんにご同席頂きました。

JRグループは分割民営化して30年以上経ち、企業文化や雰囲気もJR各社で違ってきています。
JR東日本さんやJR西日本さん等はシステム含めて大きな規模ですが、JR四国は比較的こじんまりとしています。以前から「DXに力を入れていこう!」という話が社内でも出ており、2023年4月にご出資させて頂くことになりました。

近藤:四国は過疎地の拡大や人口減少がいち早く進んでいます。JR四国におけるDXとはどのようなものなのでしょうか

西牧氏:四国というエリアは衰退の先端にいます。そのため、過疎地の拡大や人口減といった課題への取り組みを全国に先駆けて進めてきました。

例えば地方の過疎化。
全国的にはごく一部の地域の局所的な問題ですが、四国は全域で均等に過疎化が進んでおり、これをどうにかしなければいけません。

人手不足の問題もあります。
JR四国は高卒での入社割合が高いのですが、近年の少子化で高卒人口自体が一昔前の約6割にまで減り、さらに四国の企業を就職先に選ぶ方も年々減っています。勤務形態もいわゆる隔日勤務。長く働いて長く休む労働スタイルを受け入れてくれる人も多くありません。

近藤:お話を聞いていると人手不足の課題はタクシー会社と通ずるものを感じます。

西牧氏:地方の公共交通において、人口減少や少子高齢化はこうした労働力不足のほか、利用者の減少も招いています。近年では新型コロナウイルス感染症の影響もありました。

一方で、列車が定刻通り走るために、早朝から深夜まで線路や車両を整備しており手間暇がかかっています。この「当たり前に走っている」を提供する難しさをご理解頂きたいですね。

スイスを参考にした「公共交通ネットワークの四国モデル」を追求

近藤:そういった地域公共交通の現状に対する打ち手はどのようなことを考えているのでしょうか、昨年電脳交通に出資いただいた際のコメントでは「JR四国は公共交通ネットワークの四国モデルの追求を掲げている」というお言葉もいただきました。

西牧氏:実はスイスの鉄道の取り組みに注目しています。
スイス国鉄が掲げる「バーン2000計画(※)」というものがあるのですが、これは「より速く、より頻繁に、より快適に」を掲げて、収益よりも国民の利便性向上を優先した取り組みです。

バーン2000計画 -Wikipedia

実はスイスと四国には様々な類似点があります。
四国は人口と面積がちょうどスイスの4割程度、人口密度がほぼ一緒です。
またチューリッヒやバーゼルなど主要都市部の人口規模も松山や高松など四国の主要都市と近い。違う点としては、新幹線のような高速鉄道が走っている点、また鉄道網が国全体まで行き渡っていて営業キロが多い点です。

近藤:スイス鉄道からどのような四国モデルの構築を考えているのでしょうか

西牧氏:スイスの鉄道には四国の鉄道には無いいくつかの特徴があります。
まず決まった時間に運行する「パターンダイヤ」
またMaaSやサブスクが発達し交通機関同士の連携がスムーズであること。
そして優等列車と普通列車に明確な役割分担があること、そして国が多額の補助金を出している点です。

本来、地方ではこうしたパターンダイヤを組みづらいのですが、JR四国でも思い切って昼間だけパターンダイヤ化する取り組みなどを始めています。他にも利便性向上のために都市間輸送は高速化を図り、都市圏内輸送はパターンダイヤ化を推進して効率化する。またMaaS、サブスク、チケットレス化など使いやすさの追求を目指していきたいと考えています。

近藤:MaaSなど使いやすさの追求で、電脳交通もご一緒できそうなことが多いと感じます。

西牧氏:ぜひお願いします、MaaSは元々フィンランドのヘルシンキで始まったWhim(ウィム)という取り組みが有名で、最初見た時から印象に残っていて以前から「地方はこのモデルだ」と考えていました。

高齢化などによって公共交通のニーズが日に日に高まっているのを感じます。
しかし定時運行するバスのような公共交通は需給バランスの観点から成立させるのが難しく、実際四国ではバスの撤退が全国に先駆けて進んでいます。
もっとデマンド型の公共交通が発達するのが地方にとって望ましいはずで、その意味ではタクシーとの相性がいいですよね

近藤:タクシーは元々受給のマッチングが得意で、24時間営業や細かい案件管理にも慣れています。いま全国で拡大しているデマンド交通でも受け入れ先としてタクシー会社が請け負うケースが多いです。

街づくりと公共交通を官民一体で未来構想することの重要性

西牧氏:実は「公共交通ネットワークの四国モデルの追求」には10年以上前から取り組んでいます。
まだまだ道半ばですが、これまでも徳島バスとの共同経営による共通運賃化や、予土線でのモーダルミックスの実証実験などを進めてきました。今後は自治体や事業者とも連携・協調することでスマホ1つで手配できるプラットフォームや、運賃の共通化による初乗り運賃の値下げなどに段階的に取り組めれば、利用者も増えていくのではと考えています。

近藤:わたしも個人的に仕事で全国を飛び回っていますが、その中でもJR四国の課題に対する取り組みは先進的だと感じます。
ひと昔前から人口減少と労働力不足の問題に向き合ってきた、だからこそ難易度の高い課題に事業者間の連携や協調など「勝者が全てを手に入れる」発想ではないお話が聞けるのも安心感があります。

西牧氏:地方は公共交通や街づくりを未来構想の中でどう位置づけるのか?を真剣に考えなければいけないと思います。街づくりとバスや鉄道、その他の要素をバラバラで考えていたら結局全体で衰退してしまう。

例えば、わたしは公共施設は駅の近くに作って欲しいと以前から言っています。幹線道路沿いに大きな店が出来た結果、中心市街地が寂れ、公共輸送機関は長く持たない、街づくりの観点で本当にそれでいいのか。街づくりとして官民一体となり、行政と共に公共交通のあり方を位置づける必要があると思います。

近藤:メリハリのある街づくり、大事ですよね。駅前が賑わっていて、一方で静かに暮らせるエリアもある。

四国の移動を背負っているからこそ、事業拡大が必要

近藤:今後の話を聞かせてください。周囲との共創や連携など含め、JR四国が街づくり・公共交通のあり方をどう取り組んでいくのか

西牧氏:根幹にある思いは、「四国の足、基幹公共交通としての使命を果たす」です。
そのために、今後は別の業態にもチャレンジしたいと考えています。
JR四国が地域コングロマリットと表現するような組織になり事業拡大をしていく。親和性の高い関連事業に留まらず、全くの異業種でも構わないと思っています。

昨年10月には「四国・リレーションシップファンド」を設立しました。
当初はM&Aを中心に考え、2023年にも1件実施しましたが、四国に縁があり四国を盛り上げる企業との取り組みはM&Aだけでは実行に移しづらいと思いました。

そこでファンドを作ろうと。
必ずしもJR四国の業態と関係が無くてもいい、四国に位置していない企業でも何か四国に関連しているならいい。それによって未来の四国を底上げできればと考えています。

近藤:わたしたち電脳交通も、本社を徳島から動かさないという思いでやっています。四国は人口減少と過疎化が進んでいますがネガティブな事だけではなく、より四国を豊かにしていくためのやり方もあると考えています。

より少ない人員で、キャッシュレスなど利用者の体験を底上げするDX、乗り物にただ乗るというだけでなく、移動自体の体験も変えられると思います。目の前の課題をきっかけに、より豊かになるような変化が様々な産業で興っていくのがいいですよね。電脳交通はソフトウェアがメインですが、JR四国のような事業会社が大きな組織として周囲と協調し、人やお金を投資して活性化していく。そうした取組みでもご一緒したいです。

西牧氏:はい、少子高齢化が進む中でも生き残って走り切るフロントランナーでなくてはならない。四国の移動を背負っているので、事業拡大もしっかりやっていくつもりです。

あくまで一つの発想ですが、
四国の人口約380万人、1人年間5,000円のサブスクを展開したら、いまのJR四国とほぼ同収益です。
もし年間1万円なら年間400億円、その1万円で四国では鉄道もバスもタクシーも1年中乗り放題になったら?決して高額ではない。

当然実現するには4県すべて足並みが揃う必要があります。
でも「四国のあたらしい形」にはこうした観点からまだまだ可能性があると思っています。

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最後までお読み頂きありがとうございました。
引き続き本連載では各界のキーパーソンとの対談を軸に、未来の地域交通のカタチについて取り上げてまいります。
次回の記事も楽しみにお待ち下さい。

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対談した両社のウェブサイトはこちら↓


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