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「わたしは最近こんな数学の本を読んだ」(2023年〜2024年)
はじめに
わたしは5年ほど前にサラリーマン生活に終止符を打ってから、「念願の」学習支援活動を始めました。家庭環境が厳しい子供たち(主に小学生、中学生)の勉強を(もちろん無料で)見てあげる活動であり、わたしの場合、主に数学、時々英語を教えています。数学は、いわゆる昔取った杵柄であり、かつ技術畑で過ごしてきた長い期間も、日々身近に接してきた道具であり、そもそも魅了される世界でもあります。
そんなわけで、乱読が基本スタイルの読書好きとは言いながら、数学関連の読書の比率は、自然と少し高めになります。
今回は、最近読んだり目を通したりした数学や算数の関連する本を簡単に紹介をしてみたいと思います。もちろんこの紹介で、具体的に数学が「わかる」ようになるわけではありません。興味が湧く数学的話題やテーマがありましたら、原書を手に取ったりネット検索したりしてみてください。
その前にちょっと寄り道させてもらいます。
わたしたちのところに来る子どもたちは、たいてい算数、数学が嫌いです。数学は積み重ねの学問です。学校の集合教育では、多くの子どもたちは、小学校の算数で落ちこぼれていきます。いったんわからなくなった勉強がどんどん先に進んでいく。そんな勉強が楽しいわけがありません。だから多くの子どもたちは勉強したくてくるわけではありません。お父さんやお母さんから、「お金がかからずに見てもらえるんだから行きなさい」と言われて渋々くる子も多いのです。「"数学"なんて何の役にも立たない」、「"数学"なんてつまらない」、「"数学"なんてめんどくさい」。"数学"が"英語"になったり"読書"になったり、時には"勉強"になったりします。時間がかかること、すぐに楽しい気持ちにならないことは嫌い、つまらない。楽しいのはいつでもどこでもできるスマホのゲームです。
人生で大切なこと、一番力になることは、「粘り強さ」だと信じているので、決してせかさないように心がけています。順位をつけるため、合否の線引きをするための試験では、30分や1時間という一定時間で「できるかどうか」”が決定的です。しかし、長い人生で直面する様々な難しい問題には、正解が決まっている問題に1時間で正解することより、1日中、1週間、時には1ヶ月でも考え続ける粘り強さの方が遥かに「役に立つ」と思います。
人類は歴史的な危機に直面しています。日本という国も社会も日本人もどんどん劣化していっているように感じます(”女性の地位”のように、改善が大きく進んできた領域もありますが、それでも世界の趨勢から圧倒的に取り残されています)。僅かであっても劣化の一端を担ってきてしまった。そんな自分に一体何ができるだろう。無力感に襲われることもあります。そしてちょっとできそうなことを考えます。すぐには楽しくならない、すぐには役に立たない”数学”(”読書"、"勉強")に興味を持ったり好きになったりする子どもが一人でも増えれば、その子の人生が少し豊かになり、世界はその分少し良くなる。ささやかながら、そう信じて、子ども達と日々付き合っています。
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「新体系 高校数学の教科書(上)、(下)」芳沢光雄 2010/3/19
https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000194638
https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000194639
学習支援で、高校生の指導もすることになったため、学び直しのために手にした。
型にハマった形式的な指導要領に基づく説明ではなく、本質的なポイントを語りかけるように説明されている。考えさせられ、気づかさせられる教科書。もはや「古典的名著」と言ってもいいのではないか。
著者の言:
「ゆとり教育による学習指導要領の形骸化や、数学I、Ⅱ、Ⅲ、A、B、Cのような細分化により高校数学は惨憺たる状況に追い込まれている。・・・」
1)数学を大きな一本の体系として捉えて説明
2)日常生活と結びつく生きた題材を多く取り入れる。
3)受験数学では軽視されがちな項目を含め、学びの楽しさを追求した。
帯のキャッチコピーに、
「高校数学を一本化 一気に読み通せる面白さ!」
さらに、
「現代社会で生き抜くために必須の数学的素養が身につく」と、少々大袈裟な言葉が並んでいる。
しかし、2010年に発行された著作でありながらも、はるか昔に学んだ高校数学を基礎にして、現代の高校数学の全体像を把握して、身につけるのに大いに効果があるように思う。上下巻を読み通して、生徒に教える自信も蘇った。
とりわけ下巻第11章「確率分布と統計」で、かつてしっかり理解できていなかった分野に関して頭の整理ができたように感じた。
余談だが、(上巻)補章「整数と数学的帰納法の応用」
が秀逸で、数学の思考法を少し学び直すことができた気がする。
そこにはこんな問題が取り上げられていて、その証明に唸らされた。
定理5
任意の自然数nと0以上の数$${a_1、a_2、・・・、a_n}$$に対し、
$${\cfrac{a_1 + a_2+a_3+…+a_n}{n}\leqq \sqrt[n]{a_1 + a_2+a_3+…+a_n}}$$
が成り立つ。
定理6
自然数aとbが互いに素とすると、
ax + by =1
と表される整数xとyが存在する。
少しでも興味が湧いた方は、手に取ってみてください。
*****
「感じる数学(Tangible Math)」数学見える化プロジェクト(北大総合博物館企画)
正宗淳 編 2022/8/10
https://www.kyoritsu-pub.co.jp/book/b10013491.html
(秀逸な解説動画あり)
北大理学部数学科の学生や北海道の数学教育に携わる人たちの勉強法から生まれたプロジェクトだという。
筆者たちを感動させてきた数学の魅力を伝えることが目的。「無色透明な数学が見えるものとして感じられるようにしたい」という意気込みが確かに感じられる。
以下のような話題が取り上げられている。
1。ガリレイの振り子
「振り子」は同じ長さであれば、振れ幅やおもりの重さに関係なく、同じ時間で振れる(等時性)ということは、今日よく知られている。この事実を、実験と観察によって発見した。さらに、高いところから低いところへ滑り降りる場合、まっすぐな斜面の滑り台よりも、2点を円で結んだ曲線、すなわち円弧を滑り降りる方が速いことを数学的に証明している。この証明を見ると、数学者としてのガリレオの偉大さが伝わってくる。
さらに、ガリレイは、円弧が一番早く滑り降りる曲線(最速降下曲線)だと推測した。すなわち、円弧は、等時曲線でもあり最速降下曲線でもあるということになり、円弧スロープでできた滑り台が一番早く滑り降りることができ、かつ、どの高さから滑り降りても同じ時間で下に到達する。ところが、この推測は、のちに間違いであることが判明する。
2。サイクロイド:円みたいな曲線
ガリレイの問題提起を受けて、オランダの数学者&物理学者&天文学者(!)ホイヘンスがこの問題を探究し、正しい解を明らかにした。等時曲線であり最速降下曲線であるのは、円弧ではなく、”円みたいな曲線”「サイクロイド曲線」だった。その後の著名な数学者によっても色々な証明がなされている。証明はそれほど簡単ではないが、事実は簡明だ。
東京都新宿区神楽坂にある東京理科大「数学体験館」に行くと、直線、円弧、サイクロイドの滑り台が並んで設置されている。この3つの滑り台に同時に球を転がして、サイクロイド滑り台では、高いところから転がした球が低いところから転がした球に一番下で追いつく(等時性)ことと、サイクロイド滑り台が、一番早く滑り降りる(最速降下)ことが目の前で確認できる。
3。微分積分
惑星の動きをニュートンの運動方程式で記述すると、微分方程式となる。ガリレイの振り子の動きも同様に微分方程式で記述すると、微分方程式となる。高校数学、大学初年度の物理学のおさらいの内容。
4。変分法と最適化
学生時代、オイラー=ラグランジュ方程式(最小作用の原理)に出会って、不思議さに感動、いや頭がクラクラした記憶がある。
「自然はすべての可能な運動の中で”作用量”が最小になるものを選ぶ」(フェルマーの法則)。
わかりやすい例で言うと、「光は最も早く到達する経路を進む」。フェルマーは、「光はあたかもその欲望と手段を持っているかのように振る舞う」という表現をしている。
カテナリー曲線は、紐の両端を持って紐を垂らした時に紐が作る曲線。構造力学的に優れていることが昔から知られていて、ガウディの様々な建築や、丹下健三の代々木第一体育館の屋根などに用いられている。この曲線を数学的に導くことや、先のガリレイの振り子の曲線、サイクロイド曲線などがオイラー=ラグランジュ方程式で導かれている。
カテナリー曲線:
$${y=\cfrac{e^x + e^{-x}}{2}}$$
(見た目は放物線)
5。不変量
多角形、多面体、曲面に関する「不変量」のお話(わたしはこの世界はとりわけ苦手です)。
第一に、多角形や多面体を切ったり貼ったりしても「変わらない何か」。
第二に多面体や曲面を引き伸ばしても「変わらない何か」。
「多角形AとBは、面積が同じなら、どんなに形が違っていても、有限回の切り貼りで同じ形にすることができる」
のだそうです。その手順を示したのが、「デュードニーの分割」。
1900年に当時の数学会の大御所ダフィット・ヒルベルトが示した有名な「ヒルベルトの23の問題」のうちの第3問題:
「体積の等しい多面体は、切り貼りによって移りあうか?」
この問題が提起されてすぐに、マックス・デーンが、
「正四面体を平面で有限回切り貼りしても立方体にできない」
ことを証明した。
この証明を、「デーン不変量」を導入して解決した。説明はややこしいので省略しますが、なんでこんなこと思いつくんやろかと唖然とします。
もう一つ、世界で2番目に美しい数式と言われている(らしい)「オイラーの多面体定理」:
多面体Pの頂点の数V、辺の数E、面の数Fとする。
X(P)=V-E+F
をオイラー標数という。
この時、どんな凸多面体に対しても、
X(P)=2
になる!
この定理の証明は感動的だ。紙面が足りないのでここには記せない(笑)。
6。三体問題とカオス
「宇宙に天体が3つあるだけという状況を考えた時に、天体の軌道を求めなさい」
これが三体問題。多くの数学者が取り組んだが、解決できなかった。アンリ・ポアンカレが、「三体問題は解けない(解となる関数が書き下せない)」ことを明らかにした。なんだか感覚的には不思議です。あるいは、宇宙の法則は、まだまだ人智では説き明かせない幼稚なレベルだということでしょうか。
すぐに疑問に思うのは、それではどうして、何年後のいついつに日食が起きるなどいう天体の運行が100年先まで予測できているんでしょう。調べてみると、関数的に求められなくても、圧倒的な影響力のある太陽だけ考えて地球との2体問題を解いて、他の天体の影響は、摂動法という、少し3体目の天体の影響を加えてみて(±に揺する感覚)修正するという方法や、コンピューターシミュレーションで複数の天体の影響を最初から数値計算するという方法が用いられているようです。
結局、三体問題については、ポアンカレが平面制限三体問題のみ解いた。その後、位相幾何学へと発展させたのだという。これは今のところ(間違いなく今後も😅)手が出ない分野だ。
あとがき ヒルベルトと数学の問題
解決までにかかった時間の世界記録は、かの有名な「ギリシャ(紀元前4−5世紀)の三大作図問題」だった。19世紀にやっと解決したのだった。
1)与えられた円と同じ面積の正方形
2)与えられた立方体の2倍の堆積をもつ立方体
3)与えられた角の三等分
どれも作図(コンパスと目盛りの無い直線定規のみ使用)不可能ということが証明された。
*****
「まんが アトム博士の数学探検①基礎知識編」監修 新井直也 著作 福島葉子
![](https://assets.st-note.com/img/1722860305197-nPNnnDUxei.png?width=1200)
タイトルから分かるようにシリーズもの。 これは目から鱗の、数や計算にまつわる歴史的事実に多数出会える本。こんなに身近なところにこんなに知らないことがあったんだという感慨にも襲われる。 ただし、知的に興奮する面白さはあっても、知って役に立ったり、利益になるという内容ではありません。
例えば;
1)数字の読み方
1 2 3 ・・・ 6 7 8 9
訓読み ひ ふ み ・・・ む なな や ここの
音読み
漢読み イチ ニ サン ・・・ ロク シチ ハチ ク
呉読み イツ ジ サン ・・・ リク シツ ハツ キュウ
2)小数の表記
中国式漢字小数 日本式漢字小数
0.1 分 割
0.01 厘 分
0.001 毛 厘
0.0001 糸 毛
だから、五分五分、七分咲き、九分九厘など、どれも中国式漢字表記で解釈しないと意味が通じない。
そのほか、
・マヤ文明の不思議な20進法
・各国の筆算方法の違い
などが紹介されている。
*****
「2桁のかけ算もスラスラできるインド式魔法の暗算術」ペマ・ギャルポ監修 2007/11
![](https://assets.st-note.com/img/1722860460450-J0UlqyKn08.png)
インドは、
お釈迦さまの国
ゼロを発見した
世界人口の6分の1で第二位でもうすぐ第一位になる
5千万人以上の高学歴者
ヨガの国
99x99までの暗算算数術
対して、日本は、
数学レベルが高い!
インドで上位の生徒(著者)が、日本の高校では追試を受けるハメになる!
2桁の掛け算を、さまざまなタイプに分類して、タイプごとに暗算の仕方を適用する。その方法と仕組みをわかりやすく説明しています。いくつか紹介します。
①2x5の形を使う
35x18 → 7x5x2x9
②25x4の形を使う
36x75 → 9x4x25x3
③1の位が1または9の数を掛ける場合
44x19 → 44x(19+1)−44 → 44x20−44 → 880−44
以上の工夫は、身につけるほどのことはなくて、実際の計算で出逢った時に工夫できるでしょう。しかし、次の3つのパターン場合は、計算方法をスキルとして身についておくと便利だと思います。
④10の位の和が10で1の位が同じ数の掛け算
78x38 →7x3+8=29 、8x8=64 → 2964
⑤1の位の和が10で10の位が同じ数の掛け算
83x87 → 8x(8+1)=72、 3x7=21 → 7221
⑥10の段(11〜19)の掛け算
16x17 → 16+7=23、 6x7=42 → 230+42=272
⑦応用問題
28x17 → 2x14x17として、10の段の掛け算のルールを使う
インド式算術の仕組みはシンプル。しかし、こうやって実用になる技の開発・発見・習得に努力しているインド人、恐るべし!
おまけ
先日ある新聞に、「あなたはこの計算が暗算でできますか」という問題が載っていたらしいです。
78+75x94
あなたもできます!
(ヒント:⑤を使います)
*****
「数学セミナー 2023年4月号」
雑誌「数学セミナー」のバックナンバーの背表紙を眺めていて、
特集 数学とのつきあい方
ということばが目に止まり手に取ってみた。
この中で、「数理女子」というウェッブサイトを知った。
http://www.suri-joshi.jp/
とてもカラフルで、お堅い数学のお勉強サイトの雰囲気は全くない。パラパラ見るだけでウキウキしてくる。とってもイイ。
女性の比率が極端に低い日本の数学界のことは、他でも時々取り上げられているように思うが、こんな数字がある。
数学分野の博士課程学生に占める女性比率:
日本 9%
米国 31%
数学分野の博士号取得者の女性比率:
デンマーク 48%
イタリア 43%
スペイン 34%
UK 26%
フランス 26%
ドイツ 24%
US 30%
日本 6%
https://www.math.keio.ac.jp/~bannai/Report_MathGender.pdf
日本の惨状、何をか言わんや・・・
「日本の未来は、女子・女性の活躍にかかっている」のです。
4月号から年度が始まるため、4月は1年間12回の連載記事が始まる号でもある。その中の次の3つの連載が、専門家でなくても興味があればついていける内容のようなので、1年間分フォローしようと決めた。
「線形代数に開眼する12の道」 嶺 幸太郎
「中高数学に一味添える大学数学」 牛瀧 文宏
「アルゴリズムを勉強する前に読む12章」 岡本 吉央
*****
「せいすうたん1 整数たちの世界の奇妙な物語」 小林銅蟲、関真一郎
![](https://assets.st-note.com/img/1722860538484-fdHAQgeFCO.png?width=1200)
「数学セミナー」の2020年4月から2021年3月まで連載された、整数をテーマにした漫画「せいすうたん」を単行本化したもの。1話完結の12話から成る。どのテーマも整数の驚くべき性質に出会うことになる。全く知らなかった、あるいは知られざる「かず」の不思議に何度も眩暈を感じさせられる。
漫画で説明されているのだが、内容は極めて高度。だからなんなのという数や定理の数々。
いくつか紹介すると;
1。サブライム数
12の正の約数の個数は6、正の約数の総和は28。どちらも完全数(※)。こういうかずをサブライム数という。サブライム数は現在2つ知られていて、12ともう一つは76桁の数!
※完全数は現時点で51個知られていて全て偶数
2。ゲーベル数列
$${a_n=\cfrac{1+a_0^2+a_1^2…a_(n-1)^2}{n}}$$
この数列、$${{a_1}{から}{a_{42}}{まで整数で}{a_{43}} {が突然非整数になる。}}$$
3。シェルペンスキー数
全ての自然数 n に対して k × 2n + 1 が合成数(素数ではない 2 以上の整数)となるような正の奇数 k のこと。”78557” がシェルピンスキー数であることは証明されているが、この数が最小のシェルピンスキー数であるかどうかはまだ分かっていないという。
4。アペリー数
難解なので省略😅
6。弱い素数
294001は素数だが、どの桁の数を一つ変えても合成数になってしまう。
7。鈴木の定理(1987)
「任意の整数は、ある円分多項式の係数に現れる」という恐るべき定理。そんなばかな!という内容だが、説明は大変なので省略
12。絵になる素数
・ある216桁の素数=12行x18桁で数を並べると、真ん中に2で作られた大きな2の絵文字が現れる。
・1089桁の素数=33x33桁の素数
どの行、列の数も上から読んでも下から読んでも素数。
右から読んでも左から読んでも素数。
斜めに上から読んでも下から読んでも素数。
このオリジナルの1089桁の素数を「強烈に強い」素数という。
ーーー
この記事を書いている最中に、「せいすうたん 第二部」が、2022年4月から2023年4月まで連載されていた(単行本化はまだされていない)ことに気づいた。さあこれから確認しよう。
*****
「とてつもない数学」永野裕之 2020/6
![](https://assets.st-note.com/img/1722860580825-KKNx9lrYTl.png?width=1200)
実にさまざまな数学、数の話題が紹介されている。
数学の「美」の本質は、対称性、合理性、意外性、簡潔さにある。
Mathmaticsは、ギリシャ語で「学ぶべきもの」という意味。ギリシャでは、算術、音楽、幾何学、天文学が含まれていた。音楽が含まれている点が面白い。実際ピタゴラスは音楽の仕組みを研究してピタゴラス音階を生み出している。
以下のような話題を考えると、数学がいかに我々の社会や生活になくてはならないもの、理解していると役に立つものかが感じられるだろう;
クロソイド曲線(オイラー螺旋)は「人に優しい曲線」。高速道路の出入りの道路の曲線に使われている。
ゴールドバッハ予想:「4以上の偶数は全て2つの素数の足し算で表せる」はまだ証明されていない。
calculation(計算)のcalcは石のこと。「数えるということは小石と小石を1対1に対応させること。」秀吉はこのことをよく理解していて、裏山の木の本数を数えるのに、1000本のヒモを用意して木に巻き付けさせ、残ったヒモの数を数えた。
ベンフォードの法則:身の回りの数字を見渡すと、1から始まる数値の割合は全体の30%ある!
「世の中には3つの嘘がある。普通の嘘と真っ赤な嘘と統計だ」。統計には、データの偏り、不適切な処理、改竄などが満ちている。
「大きな数を数えられるというのは知性の成熟だ」:公務員試験に「場合の数」の問題が頻出する。
ネイピア数:$${y=(1+\cfrac{1}{n})^n}$$ =2.7182818…(似ないワニは嫌)
1年の利息をn等分し展開に分けて受け取り複利で預ける時の年間の合計金額。利息1(100%)とすると、単利だと2倍、複利だと限りなくネイピア数2.718…倍になる。
秘書&恋人問題:
面接(お見合い)予定の人数の最初の1/e(=0.368)は、無条件に見送るのが確率的には最も良い結果を得られる! つまり10人と面接(お見合い)する場合、最初の3人は、いいと思っても見送るのが良いということ。
万能天秤:複数枚のコインの中に偽物(重さが違う)が混ざっているとき天秤を最小回数使って偽物を特定する問題
$${3^n}$$枚までのコインは、天秤をn回使えば偽物のコインを言い当てることができる。
例えば3枚だったら天秤を一回使えば言い当てることができ、9枚だったら、天秤を2回使えば言い当てることができる。これは、頭の体操になるのでぜひ挑戦してみてください。
雑知識:
・九九を暗記する国は少ない
・四六時中とは4x6=24時間のこと。昔は二六時中といった。三島由紀夫の小説で出会ったことがある。かつては12時間制だったから。
・割り算を表す記号
÷を使う国は少ない。/が多数派だ。実際、国際規格ISO8000−2では、割り算季語として÷は使うべきでないとされている。
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「雑誌 ニュートン 2023年9月号」 2020/6
特集 もっと!感動する数学
![](https://assets.st-note.com/img/1722860610959-LeDi7VyNlW.png?width=1200)
知る人ぞ知る、長寿を誇る科学啓蒙雑誌。長寿の秘訣はカラフルな大判で、見やすく美しい図や写真を多用した版面作りにあるだろう。
もっと!という特集タイトルから推察できるように、以前に「感動する数学」特集があったようだ。この号では、次のような話題が紹介されている。
放物線はすべて相似:
そうだったのねという気づきを与えてくれた。直感的には相似(=同じ形で大きさだけが違う)ようには見えないですよね。
パスカルの「神秘的な六角形」:
円に内接する六角形の持つ性質。対面の辺を延長して交わる点は、一直線状に並ぶ。
ピックの定理:
任意の多角形の面積を求めるのに、方眼紙を重ねて、多角形の中にある格子点の数と多角形の返上になる格子点の数を数えるだけで、面積が計算できる。
ガブリエルのラッパ:
最も簡単な双曲線
$${y= \cfrac{1}{x}}$$
をx軸の周りに回転してできるラッパ状の立体の体積と表面積を(x≧1の範囲で)考える。
この時、体積は有限だが、表面積は無限になる。なんか不思議です。
平面充填:
平面を充填できる単一の多角形(タイル)は、17種類知られている。一方、周期性がない充填ができるタイルは2つしか見つかっていない。
これに対して、1種類のタイルで周期性なく(裏返しもせずに)平面を覆うことはできるかという「アインシュタイン問題」(アインシュタインとは”一枚のタイル”という意味)が出され、2023年5月に「The spectre」という14角形のタイルが発見された。
ペラン数列:素数製造機
p(0)=3, P(1)=0, P(2)=2
P(n)=P(n-2)+P(n-3)
この時、P(n)がnで割り切れる時、nは素数!
こんなものがあったなんて、初耳でした。
カプレカ数:
4桁の自然数をにカプレカ操作(大きい順番に並べた数から小さい順に並べた数を引く)を行う。これを繰り返していくと、どんな4桁の数ではじめても6174になる!これを4桁のカプレカ数という。3桁の場合は、459になる。
ベンフォードの法則:
これはすでに、「とてつもない数学」で出てきた。
などなど・・・
*****
「数学者たちの楽園 『ザ・シンプソンズ』を作った天才たち」Simon Singh(青木薫訳)
原題:The SIMPSONS and their Mathematical Secrets
![](https://assets.st-note.com/img/1722860641511-HSeaqsBGIt.png?width=1200)
タイトルだけでは馴染みがなく、手に取ることはなかったであろう。しかし、サイモン・シンの名前を見つけてしまったので、逆に手に取らざるを得なくなった書。彼の次の3つの作品はいずれも、科学啓蒙書の範囲を超えて、この世界を探求する人類の知的好奇心の大きさとそれによって解明されてきた目眩く世界の仕組みに誘ってくれる傑作中の傑作。限りなき知的好奇心を刺激し、最後には幸福感にどっぷり浸ることができる。そんな作品群だ。
「フェルマーの最終定理」
「暗号解読」
「宇宙創成」
余談になるが、サイモン・シンと並んで、目眩くこの世の不思議を紐解いてくれる名著とその著者の名前を挙げておきたい。
マリオ・リヴィオ
「神は数学者か」
「黄金比はすべてを美しくするか」
さて、「ザ・シンプソンズ」とは、物語の主人公となるお笑い一家の名前であり、この一家が引き起こす騒動を描いたアメリカの大ヒットアニメーションシリーズだということを読み始めて知った。全米で最も長く続いている(15年間)アニメ番組でもあるという(※)。興味深いのは、この番組の制作スタッフチームが、MITやスタンフォード大などアメリカのトップクラスの大学で数学分野で学位をとったり論文を書いたりした人たちによって構成されているということ。そのため、一見単なるくだらないお笑いの裏に、数々の高等数学が隠されているということ。数学を愛するこうした脚本家たちの熱い思いから生まれたこの作品群は、他のアニメ作品との質的な違いが明らかだ。
この本では、制作スタッフたちの興味深い経歴、番組が生まれるまでの数々のエピソード、さらにその後継番組として生まれた「フューチュラマ」の誕生エピソードまで紹介されていて、それだけでも、十分面白い。その上に、番組で使われている数々の数学の話題が”名サイエンスライター”サイモン・シンの手腕でわかりやすく満載されているので、少しでも数学に興味がある人間には、最高のエンタテイメント作品になるだろう。
(※)ちなみに、最も長く続いているアニメ番組としてギネス世界記録を持つのは、55年間いまも続いている日本のアニメ番組「サザエさん」のようだ。
取り上げられている数学のトピックスをいくつか紹介したい:
1)偶数の完全数は、三角数であり、連続する奇数の3乗の和でもある
28=$${1^3+3^3 }$$
496=$${1^3+3^3+5^3+7^3}$$
8128=$${1^3+3^3+5^3+7^3+ … +15^3}$$
6=1+2+3
28=1+2+3+ … +7
2)ナルシスト数
8208=$${8^4+2^4+0^4+8^4}$$
153=$${1^3+5^3+3^3 }$$
8208=$${8^4+2^4+0^4+8^4}$$
全部で88個しかない。
3)じゃんけんはパーを出すのが一番勝つ確率が高い
実際に統計的に調査した結果、こうなるという。要するに無意識に手を出すとグーを出す確率が高いということ。
4)パンケーキ・ソート問題
「あるシェフが複数のパンケーキを焼くが、腕が悪いために、大きさがまちまちになる。 しかも、それをひとつに積み重ねてしまう。 これを上から小さいもの順に並べ替えたいが、n枚のパンケーキを並べ替えるのに、何回操作を行えばいいか?」
かなりの難問で、完全な解がもとまるまで、一定の制約条件のもとで解を求めるアプローチが行われたようだ。
あのマイクロソフトのビルゲイツが、ハーバード大学の学生だったときに書いた唯一の論文が、この問題を解くアルゴリズムであった。
5)カントールの対角線論法
自然数も実数も無限個存在するが、同じ”無限個”といっても、大きさが異なるということをわかりやすい数学的な論証で示したのが、カントールの対角線論法。最初に出会ったときには、目が眩むほどびっくりした。
興味がある方は、例えば以下を参照;
https://ameblo.jp/interesting-math/entry-10679227143.html
https://note.com/suujyou3/n/n5494792161ac
***
この「ザ・シンプソンズ」は、劇場版アニメにもなっていることにも気づき、そのうち、普段利用している図書館が所蔵していたものを借りて観ることができた。
「ザ・シンプソンズ MOVIE(The Simpsons Movie)」デビッド・シルバーマン監督
ただし、この映画版には、数学の話題は出てこないし、埋め込まれてもいないように見える。とにかく、お下劣、徹底的に権威や社会秩序や常識を無視、破壊するギャグ、お笑いの連続。日米のコミック、アニメの文化的な質の決定的な違いに気付かされる。
特典映像で、2007年に東京国際映画祭で日本語版が披露されていたことを知った。所ジョージ、和田あきこ、ベッキーなどが声を担当している。
*****
「無限とはなんだろう」玉野研一
副題:限りなく多く大きく遠いふしぎな世界 講談社ブルー・バックス
広く浅く”無限”が数学の世界でどのように捉えられ扱われてきているか、時に直感と大いに異なるその不可思議な姿、性質について俯瞰することができる。
著者の専門が集合論、トポロジーのようなので、その分野になるとやや難解。
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「群論入門」芳沢光雄
講談社ブルー・バックス 2015/5
副題:対称性をはかる数学
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”群論の世界を視覚的に捉える”と謳っている。
かねてからの課題でもあり念願でもある群論理解へ、何度目の挑戦であろうか。吉澤さんの著作なので期待して手に取ってみた。
前半のあみだくじによる置換、互換、偶置換、奇置換による置換群の導入まではとてもわかりやすく進行する。しかし、本論の始まりとも言える第5章の「群と置換群の基本的性質」に入ると途端に剰余類の話にっ入ってしまい、イッキに”置いておかれる”感あり。6章に入るとオイラーとラテン方陣の話になってしまい、本論から脱線しているのではないかという気持ちにさせられる。ただしこのオイラーがラテン方陣に関する研究で1779年に出したという「36人士官の問題」を知ることができた。全くもってオイラーの超天才ぶりには目が眩む。
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最後に紹介するのは、
”独立研究者”森田真生の世界
「現代思想 2023年7月号 <計算>の世界」 2020/6
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<計算>の世界という特集テーマが気になってバックナンバーの中から手に取った。そして、巻頭インタビュー「森田真生(マサオ) 計算から修復へ」の内容に驚かされた。森森田真生という名前を聞いたことがなかった。そして、そこに表現されていたこの人の思考と思想に強く惹きつけられた。何やら別次元に住んでいるような感じがする。”独立研究者”という今まで聞いたことがなかった奇妙な肩書きにも異次元さを感じる。(具体的な内容はうまく紹介できないので、興味が湧いたからはぜひ原本に当たってみてください。)
「たくさんのふしぎ傑作集」というお気に入りのシリーズ絵本があるのだが、ちょうどこのタイミングで借りてきていたこのシリーズの中の一冊に、
「アリになった数学者」
という本があった。この絵本に、
森田真生(文)
とあってびっくり。アリにも「数」があるはずだ。でもアリの「数」と人の「数」は違うだろう。その違いを感じ取る感性と知性。ここでも全く意表をつかれた。
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話はこれだけで終わらなかった。長年岩波書店の発行する雑誌「図書」を定期購読してきているが、ある時期から封も切らずに、あるいは封を切っただけで積読する状態が発生していた。これもたまたま一念発起してその積読雑誌の処分をパラパラめくりで始めたところ、2014年9月号に、
岩波新書 温故知新<創刊3000点突破記念>
として7人が寄稿していて、一番目に、
「通俗的読み物」の矜持
ー吉田洋一『零の発見ー数学の生いたち』 森田真生
が掲載されていたのを見つけた。
冒頭の文章:
数学には「0」という記号がある。「不在」に存在感を与える、数学の中でも最も重要な記号の一つである。「不在」を「不在」のままにしておかずに、「ああここには何もないね」と、「ない」ことに存在感を与える。それは何気ないことのようで画期的な着想であった。
読み手を引き込む文章だ。本論では、わかりやすい例を使って、零の発見がどれだけ革新的な出来事であったかを解説している。
そして、締めくくりに、古典的名著となった著作を、自らは「通俗的読み物」と極めて控えめに表現した吉田洋一に堂々たる矜持を感じ深い敬意を表している。
継続してフォローしていきたい人である。
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おまけ:数学啓蒙番組
1)「笑わない数学」
NHK制作の数学エンタテイメントシリーズ番組。2022年に10回。2023年に第2シリーズとして10回放送された。お笑いタレントが”笑わずに”、現代数学が取り組んできた数学の難問をわかりやすく解説した番組。「素数」から始まり、「無限」、四色問題、P対NP問題、ポアンカレ予想、虚数、abc予想、などを取り上げている。第2シリーズでは、「ガロア理論」、「コラッツ予想」、「非ユークリッド幾何学」、「超越数」、「結び目理論」、「級数」など。およそ現代数学の難問、あるいはやっと解けた歴史的難問が、ほぼ網羅されているのではないだろうか。
NHKオンデマンド(有料ネット配信)で一部まだ見られるようだ。
https://www.nhk.jp/p/ts/Y5R676NK92/
2)「3か月でマスターする数学」
キャッチコピー:オトナになって学ぶからこそ、おもしろい。楽しい発見に満ちた、数学の世界にようこそ!
これも、NHKの制作番組で、名前の通り3ヶ月のシリーズ番組。こちらは、初等数学、すなわち中学校レベルの数学を対象にし、”数学なんか役に立たない”生活を送っている大人、社会人に、数学は”実は面白く”、”実際役に立っている”ことを伝えようとするエンタテイメントがかった教育番組。東京理科大の数学体験館を舞台に秋山仁(東京理科大学栄誉教授)さんがホスト役として、中学校レベルの数学を模型や図、グラフを用いて解説する。こちらは、2024年7月時点で放送中。
https://www.nhk.jp/p/ts/E9YXP3VJ17/
おわり