半年間の育休、それは
半年間、仕事を休める。なんだか夢のようだ。
あれもしたい、これもしたい。
ここへ行けるし、あそこでも遊べる。
もう、なんでもできる気がする。半年なんにも予定がないなんて、いつぶりのことだろう?
育休という言葉のマヤカシ
かなり浮かれながら半年間の育休に突入したことを、わたしは告白する。
今年の6月から、半年間の育児休暇をはじめた。前々から子どもが生まれたら育休を取得し、わが子とガッツリ過ごす時間を持ちたいと願っていた。ありがたいことに会社も、快く半年間とることを受け入れてくれた。
育児のためとはいえ、半年間の休みである。いよいよ育休に入ったわたしは冒頭のように心躍らせていた。
子どもと過ごせる自由な日々。
育休。耳にここちよいその響き。
が、しかし。
その実態は、休みなんてとんでもない。
育休ならぬ「育業」であった。それもかなりブラックな。
容赦ないリトルボス
まず第一に、休みがない。
1日は24時間営業。小さなボスはわれわれ夫婦に対して、1〜2時間の細切れ睡眠しか許さない。夜になると決まって渾身の力で叫び、ささやかな眠りすら妨害してくる。その理由なき叱咤に疲れ果て、「もう勘弁してください…」。われわれが泣きを入れるや、
「オガーーーー!!!!!!!」
逆上である。理不尽すぎる。
昼夜かかわらず、ボスは1時間ごとに空腹を示してくる。毎回食事をもっととれば数時間に1回で済むはずだ。勇気を出して忠告してみる。
「1回の食事で、もう少し召し上がっていただけませんか?」
残念ながら彼は部下の進言に耳を貸すことはない。「あの人は話が通じない」と言うが、生後1ヶ月のボスはシンプルに言葉が通じない。ふたたび全身を振り絞って叫び出すのみ。食べたいときに食べ、泣きたいときに泣く。ジャイアンも裸足で逃げ出す豪傑である。
ボスは常に近辺でのお世話を要求し、リモートワークは許さない。ある日、少し目を離したすきに、手が届かないはずのタオルが顔全体にかかっていた。慌ててひっぺがすと「ほら、目を離したらこうなるんだよ。危ないだろ?」と言わんばかりに目を輝かせている。
半年の育休 = 4320時間勤務
夫婦はクタクタになり、慢性的な睡眠不足に悩まされている。判断力は鈍り、ボスの抱っこで体の節々が悲鳴をあげている。
うちの職場だけがこんなにキツいのか? “競合他社”の先輩に話を聞くと、「睡眠不足の世界へようこそ」と嬉しそうに微笑みかけてきた。もはや業界全体がおかしいのだと空恐ろしくなる。
そんなボスはときどき、信じられないようなあどけない笑みを浮かべる。「見た!? 今の?」。たちまち夫婦はその表情に魅せられてこれまでの仕打ちを忘れ、いそいそと彼のお世話係を続けるのだ。部下も部下である。
半年間の育休。
その実態は、24時間×半年(180日)=4320時間勤務であった。それを妻とわたし、2人体制で回していかねばならない。業務内容は、ボスの秘書、そして、ボスの命をなんとしても守ること。
どうやら、とんでもない世界へ足を踏み入れてしまったらしい。