毎朝、書く。
朝、めざめるとそのまま机に向かう。
その足音に気づき、喜びまとわりつく愛犬たちを軽くいなし、クリーム色をしたA4判の紙一枚と万年筆を目のまえに並べる。静かなピアノの曲を、さらに静かな音で流してみる。あとはひたすら手を動かす。そんな朝をもう、しばらくのあいだ、つづけている。
書くことは一切決めていない。
前の日の出来事を日記のように綴ることもあれば、その日にやらなければならない予定について、腰が重い理由をじめじめと書き連ねることもある。
ふと思いついた野望や欲望を勇ましく書きつけた朝は、終日意気揚々と過ごす。気まぐれで買った万年筆の書きづらさをこぼした朝は、夜になっても自分の軽はずみなおこないを悔やんでいる。
それらを、淡いグレーの罫線にそって文字を連ねていく。はやいときは20分ちょっとで最終行を書き抜ける。おそいときは30分をすぎても空白の行が残っている。それでも一枚すべて言葉で満たす。
インクが乾かずに紙と文字を汚してしまうから、朝のこのときは横書き。以前はずっと同じ万年筆で書いていた。最近は慕っている丸谷才一さんをまねて、いろんな色のインクで日替わり使っている。ブルーが中心だが、淡い青墨のような、灰色がまじった碧が好きなのだと、あらためて気づいた。
ひそかに愛読しているエッセイストの石田千さんは、毎朝起き抜けに原稿用紙三枚を書いているという。彼女のやわらかい文体に心が動き、真似をして書いてみたことは一度や二度ではない。まず原稿用紙に手書きして、あとからパソコンに字をおこして手を加えるという書き方は、彼女から学んだ。
文字数は決めない。書く内容も固定しない。ただ心に思い浮かんだことを、そのままA4一枚の紙が埋まるまで、ひたすら書き続ける。そんな朝の日課を、ちょっとだけ変えてみようかと考えはじめている。縦書きで原稿用紙三枚。万年筆はそのまま使い続ける。
冬はもう目の前。朝起きるのがますますつらくなる。ひざ掛けはすでに手放せない。ひとり暮らしをしていた学生時代から使っている、赤く鈍く光る電気ストーブに、そろそろご登場願おうか。