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書評

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ヨミタイモノ、ココニアリマス。
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#哲学

齋藤美衣『庭に埋めたものは掘り起こさなければならない』

大きく息を吸い、とめて、潜る。水底へ。記憶の底へ。意識の底へ。深く潜るには、ゆるやかに息…

既視の海
2か月前
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アントワーヌ・コンパニョン『寝るまえ5分のモンテーニュ 「エセー」入門』

アントワーヌ・コンパニョン『寝るまえ5分のモンテーニュ 「エセー」入門』を読み終える。も…

既視の海
9か月前
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大谷崇『生まれてきたことが苦しいあなたに 最強のペシミスト・シオランの思想』

ある写真家についての随筆を読んでいたら、その写真家の思想はシオランに通じるという。 シオ…

既視の海
1年前
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池田晶子『残酷人生論』を読む。言葉、神、死、魂などを主題に「哲学する」すなわち「考える」ことへの旅へといざなう。1995〜97年の雑誌連載なので、彼女の思想がまだ整理し切れていない部分もある。人生なんて残酷さ、甘く見るな、という書ではない。なぜ「残酷」なのか考えるのもおもしろい。

既視の海
1年前
13

池田晶子『14歳の君へ どう考え どう生きるか』を読む。幸福とは何か、なぜ人は戦争するのか、言葉の力とはどのようなものか、哲学という言葉や術語をまったく使わず語りかける。これぞ哲学エッセイであり、池田晶子エッセンス。受験には役立たないが、人生には役立つという言葉に偽りはない。

既視の海
1年前
8

池田晶子『人生のほんとう』を読む 。先日読んだ『あたりまえなことばかり』所収の講演録が分かりやすく、講演だけの単著を再読する。初読では気にとめなかった「言葉は沈黙を伝える」という考えに大きく納得。哲学は「学ぶ」ものではなく「哲学する」ものだと、あらためて実感する。もっと考えよう。

既視の海
1年前
9

永井玲衣『水中の哲学者たち』を読む。哲学研究者による「哲学対話についてのエッセイ」。哲学者・池田晶子による「哲学エッセイ」とは異なる。詩情ある第一章は、水中というよりプカプカ水に浮いている感じ。初出が異なる第二章と第三章は、もがいているのだけれど沈んでいくカナヅチのよう。

【書評】エリック・ファーユ『プラハのショパン』

チェコやプラハときくと、訪れたこともないのに、懐かしくて、胸騒ぎがする。 まっさきに思い…

既視の海
2年前
16

【書評】ドン・デリーロ『ボディ・アーティスト』

静かな物語。そして切ない。登場人物は少なく、情景を描くのも最低限に絞られているが、心理描…

既視の海
2年前
11

【書評】エリエット・アベカシス『30年目の待ち合わせ』

登場人物の感情移入と物語への没入だけが読書の楽しみではない。運命であれ因果であれ、人間関…

既視の海
2年前
5

エスプリのきいた愛の物語——ダヴィド・フェンキノス『ナタリー』【書評】

拝啓 足早に2月が逃げ去っていきます。忙しいとは心を亡くすことだとは、よく言ったものです…

既視の海
2年前
6

“Annam”をフランス語で読む

正月早々、荷物が届いた。発送元はフランス。 クリストフ・バタイユ著、辻邦生訳『安南 愛の…

既視の海
2年前
5

「私」を消し去る「線」とは——大竹昭子のカタリココ『高野文子「私」のバラけ方』(…

(承前) この対談のはじめから、大竹昭子は高野文子の「線」に着目している。 大竹のこの指…

既視の海
2年前
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どのように欲望と向き合うか——大竹昭子のカタリココ『高野文子「私」のバラけ方』(その2)【書評】

(承前) 自伝の要素が濃く、事実とは異なりながらも「思い出す」ことで「記録」した高野文子の作品が、雑誌の初出が1999年、単行本が2002年刊行の『黄色い本』である。 だが、その後は北村薫や長嶋有の表紙イラストなどのほか、漫画作品の発表はしばらくなかった。久しぶりに雑誌の初出が2011年、単行本が2014年に発表されたのが『ドミトリーともきんす』だ。朝永振一郎、牧野富太郎、中谷宇吉郎、湯川秀樹という実在した自然科学分野における研究者4人が、寮母のとも子と娘であるきん子とと