どのように欲望と向き合うか——大竹昭子のカタリココ『高野文子「私」のバラけ方』(その2)【書評】
(承前)
自伝の要素が濃く、事実とは異なりながらも「思い出す」ことで「記録」した高野文子の作品が、雑誌の初出が1999年、単行本が2002年刊行の『黄色い本』である。
だが、その後は北村薫や長嶋有の表紙イラストなどのほか、漫画作品の発表はしばらくなかった。久しぶりに雑誌の初出が2011年、単行本が2014年に発表されたのが『ドミトリーともきんす』だ。朝永振一郎、牧野富太郎、中谷宇吉郎、湯川秀樹という実在した自然科学分野における研究者4人が、寮母のとも子と娘であるきん子とと