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書評

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ヨミタイモノ、ココニアリマス。
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記事一覧

毎年恒例のジョージ・ソーンダーズ『十二月の十日』を読む。

言っていることはハチャメチャだけど、氷点下の冬の日に、身を賭して命を救おうとするロビンとエバーに胸を締めつけられる。いや、人って捨てたもんじゃない。

1年で最も日の入りが早い。沈みゆく夕日に負けず、光を放つ人もいる。

既視の海
2か月前
11

齋藤美衣『庭に埋めたものは掘り起こさなければならない』

大きく息を吸い、とめて、潜る。水底へ。記憶の底へ。意識の底へ。深く潜るには、ゆるやかに息…

既視の海
2か月前
31

いちむらみさこ『ホームレスでいること——見えるものと見えないもののあいだ』

朝。ロータリーの反対側にあるバス乗り場に押し寄せる高校生の波に逆らいながら駅舎に向かう。…

既視の海
5か月前
22

松永美穂『世界中の翻訳者に愛される場所』

出版社の紹介文もほとんど読まないまま、ためらうことなしに松永美穂『世界中の翻訳者に愛され…

既視の海
5か月前
26

阿部日奈子詩集『キンディッシュ』

詩集の幕開けとなる「行商人」から、肌触りが違う。 外国文学を礎にした前作『海曜日の女たち…

既視の海
6か月前
16

阿部日奈子詩集『海曜日の女たち』

しびれる。詩集名だけで読みたくなる。著者名も詩歴もまったく分からないが、気にしない。 そ…

既視の海
6か月前
23

高木敏次詩集『傍らの男』を読む 。静かな筆致で、他者を観察するかのように「私」を日常に溶かしていく。 夏の日を思い出そうとしたが 忘れたことを思い出した (「目の前」) 非論理的な言葉のつらなりは、幻想的というよりも、揺らぐ現実性を帯びてむしろ自然。コルタサルを思い出した。

小林エリカ『彼女たちの戦争——嵐の中のささやきよ!』

Webちくまに連載していたときから楽しんでいた小林エリカ『彼女たちの戦争——嵐の中のささや…

既視の海
8か月前
14

オリガ・ホメンコ『キーウの遠い空 戦争の中のウクライナ人』

2022年2月24日の、ロシアによるウクライナ侵攻から2年。いまさらながら今春、ウクライナからの…

既視の海
8か月前
14

間宮改衣『ここはすべての夜明けまえ』

間宮改衣『ここはすべての夜明けまえ』を読む。 不死の身体を手に入れた「わたし」が、ひとり…

既視の海
9か月前
22

早川義夫『海の見える風景』

「一年前、妻が癌になって初めて、そばにいてやりたいと思いました。しい子は3月28日に亡くな…

既視の海
9か月前
37

アントワーヌ・コンパニョン『寝るまえ5分のモンテーニュ 「エセー」入門』

アントワーヌ・コンパニョン『寝るまえ5分のモンテーニュ 「エセー」入門』を読み終える。も…

既視の海
9か月前
18

言語は人生を変えるのか。物語も人生を変えるのか。

ある詩集をもとめて、独立系書店をさまよっていた。書名とたたずまいに惹かれて手に取ったのが…

既視の海
9か月前
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四元康祐『偽詩人の世にも奇妙な栄光』

書けない苦しみ。溢れ出る驚き。 のちに偽詩人と呼ばれた吉本昭洋は、いずれも味わった。詩人・四元康祐の小説『偽詩人の世にも奇妙な栄光』の主人公だ。 昭洋は中学生のときに、詩に出会う。中原中也に出会ってしまった。国語教科書にある詩を読むだけなら、どこにでもいる中学生だ。抱いたざわつきを胸に、図書館で中也詩集を手にとる。中也の詩をあさり、評伝で人物像にも迫り、山口を訪れて詩人の足跡をたどる。それは、もはや「詩を生きる」萌芽だ。自分でも書いてみたいと思うのは必然である。 だが、