
雇用する外国人に対して日本企業が向けるまなざしを読み解く
こんにちは、D&Iアワード運営事務局の堀川です。
8月からスタートした本連載では、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)に関連した社会学などの学術文献を紹介しております。
前回はこちら。
前回は多文化共生に焦点を当て、日本企業で働く外国人がどのような動機づけにより就労継続や離職を選択しているかを論じた、園田薫先生の研究を取り上げました。
今回は同じ著者の論文「日本企業が外国人総合職に抱く複層的な期待――企業別シティズンシップの付与に着目して」をご紹介します。
前回は外国人労働者の視点、今回は外国人を雇用する企業の視点を論じた研究で、これらを通じて日本企業と外国人労働者の関係を著者がどのように考察しているか、その一端をお伝えしたいと思います。
1. 「日本企業が外国人総合職に抱く複層的な期待」の概要
本節では、典拠を明記していない引用箇所の丸括弧内は園田(2023)からの引用ページを示します。
シティズンシップ概念への着目
園田はまず、日本で働く外国人は平等に受け入れられているわけではなく、自身が持つ技能や日本社会における貢献度などによって階層化されて受け入れられていることを指摘します(122-3)。
具体的には、日本で働く外国人は出入国管理及び難民認定法(入管法)に基づく在留資格によって分類されます(122)。
そのうち「活動に基づく在留資格」として括られる在留資格に関連して、高い専門性や技術を持つ者は積極的に誘致する一方、特別な技能を持たない単純労働者は原則として排除するという政策上の規定が、日本ではつくられてきました(梶田 1994; 宮島 2021)。
既存の研究は、好ましい外国人だけを社会に取りこみ、そうでない外国人を排除しようとする日本社会の構造を浮き彫りにしてきたと、園田は整理します(123)。
多くの実証研究が「好ましくない」とされる外国人労働者に焦点を当て、その労働実態と生活をめぐる問題を明らかにしてきました(123)。
一方、「好ましい」とされる外国人については、高度人材の受け入れを活発化しようとする近年の政策的意図に伴い、高技能とされる専門的・技術的な職業に従事する外国人の研究も蓄積されてきています(123)。
以下では、この「専門的・技術的な職業に従事する外国人」を、園田に倣って「高度外国人材」と表記します。
従来は欧米系移民に限られていた高度外国人材は、アジア系外国人の割合を高めつつ全体の数も増えており、部分的かつ緩やかに日本社会への統合が進んでいると是川(2019)などで指摘されています。
しかし同時に、高度外国人材の受け入れには多くの困難が指摘されており、その困難は日本的雇用システムとの齟齬に起因するものだと理解されてきました(123)。
たとえば、外国人が日本企業の中核的な人材として雇用されにくいこと(上林 2017)、日本企業文化になじめないこと(鈴木 2022)、昇進機会が乏しいこと(塚崎 2008)などが先行研究によって指摘されています。
そこで園田は、日本企業は外国人受け入れにおける重要なアクターであると提起し、政策的な議論だけでなく企業側の論理を明らかにすることが、日本社会の外国人受け入れを考察するために重要だと説明します(124)。
そして、高度外国人材を多く抱え、日本的雇用システムを成り立たせている中心的存在といえる日本の大企業が、どのような論理で高度外国人材を採用しているのかという問いを掲げます(124)。
園田の整理によると、高度外国人材の雇用をめぐる企業の論理は、「グローバル人材」や「ダイバーシティ人材」などの概念によって説明されてきました(124)。
前者の「グローバル人材」は、経済のグローバル化にあわせて国内でも人材を多国籍化するべきだという考えや、国際的な人材獲得競争を背景として日本で働く外国人を増やすべきだという考えと結びついています(125)。
このような文脈において高度外国人材は、主に大企業で働くグローバル人材の典型とみなされ、国際競争への動員を意識づけられて概念化されると、園田は指摘します(125)。
後者の「ダイバーシティ人材」は、多様な人材の活用によって組織の生産性向上や協働を促すダイバーシティ・マネジメントの議論(Herring 2009)における概念で、日本でもマイノリティの人材雇用を促進しようという動きにつながっています(125)。
この文脈での高度外国人材は、日本人とは異なる資質と能力を有した、多様性を持つ人材として概念化されます(125)。
園田はこのように整理したうえで、経営の理論・流行・イデオロギーから演繹的に外国人雇用の必要性が主張され、アドホックにその活用方法が検討されてきたために、求める外国人像や人事・労務管理の方法が具体的には明確になっていないと主張します(125)。
日本企業がどのような論理で高度外国人材を採用しているのかという、先に挙げた問いに答えるために、園田は「シティズンシップ」という概念に着目します。
シティズンシップとは、市民的・政治的・社会的な権利と義務の交換を成り立たせる身分地位をさす概念です(Marshall 1950=1993)。
これを、産業における使用者と労働者の権利義務関係として定義し直したのが「産業的シティズンシップ」です(Marshall 1950=1993)。
今井順は産業的シティズンシップ概念を応用し、日本の産業社会における特徴を捉えて「企業別シティズンシップ」と名づけ、それが一貫して日本の不平等と排除を生み出してきたことを論じています(今井 2021)。
外国人が日本企業で正規雇用される場合、企業だけでなく日本の市民社会への持続的なコミットメントが期待されます(126)。
園田の議論はシティズンシップ概念に着目することで、企業社会と市民社会の受け入れ論理の結節点に光を当てています(126)。
外国人総合職が向けられる2つの期待
以上のような視座のもと、園田は総合職社員としてのシティズンシップの付与に焦点を絞り、どのような外国人を総合職社員として雇用したいかについて企業の論理に迫ります(127)。
そのために園田は、東証上場企業9社の人事部にインタビューを行っています(128)。
東証上場企業はその影響力から相応の社会的責任が求められるため、インタビューでは社会規範を意識した語りがなされると園田は考え、企業によって理想視される外国人総合職の像を描き出そうとしています(128)。
インタビュー対象となった企業は業種や規模がそれぞれ異なるものの、「外国人であっても主に総合職人材は新卒市場から確保すべき」という共通の考えが見られたそうです(129)。
このとき、総合職社員として企業別シティズンシップを付与すべき外国人は、「現状のシステムへの適応」と「多様性を生かした革新」という2つの要求を同時に満たす存在として語られていたというのが、園田の分析の重要な指摘です(129)。
まず「現状のシステムへの適応」という第1の要件について見てみると、総合職となる外国人は、組織内の現行システムに適応し、日本人中心に行ってきた職務を遂行することが求められていると言えます(129)。
この論理によって説明される採用理由は、国籍の違いという観点ではなく、総合職人材に適した能力を選考基準にした結果として外国人を雇用したというものです(130)。
このような説明には、外国人がもつ異質性を意識の外に置き、自社の経営理念に沿った平等な採用過程を経て総合職人材を雇用しているというメッセージが込められています(130)。
これは一見すると、国籍による差異の無効化を企図するものですが、それが必ずしも採用結果の平等性を担保してはいないという園田の指摘は重要です(130)。
なぜそのように指摘できるかというと、採用に至る過程で外国人の応募者は、日本人を前提につくられた要求水準を突破しなければならず、採用後に職場で協調的に働くためにも一定水準以上の日本語能力や日本文化への適応能力が要求されるからです(130)。
さらに園田は、上記のように日本人と同じ過程により採用された外国人が、国籍という表層的なダイバーシティ以外は他の社員と変わらない存在として認識されていることを指摘します(131)。
この認識は、現状のシステムに外国人を適応させることを正当化する論拠となります(131)。
そして現状のシステムにおける総合職人材としての職務遂行と引き換えに、潜在的経営人材としての総合職という企業別シティズンシップが付与されているというのが、「現状のシステムへの適応」に関する園田の分析です。
次に「多様性を生かした革新」という第2の要件について見ていきます。
前述のように外国人総合職は日本人と変わらない存在として認識されつつも、完全に同等の存在として企業人事部に理解されているわけではないと言います(131)。
園田が行ったインタビュー調査では、外国人を雇用する最大の決め手として、日本人とは異なる出自が生み出す多様性を経営に生かすことが可能だという点が挙げられたそうです(131)。
ここでの「多様性」には2つの意味あいが含まれます。
1つ目は、将来的に経営の幅を広げるために求められる語学力や異文化適応能力を持つ、グローバル人材としての意味あいです(131)。
日本の新卒市場で採用されたこと自体が語学力や異文化適応能力の高さの証左と捉えられ、他の言語や文化への対応力も当然高いはずだと期待される傾向があったそうです(132)。
2つ目は、会社の生産性向上につながるような日本人とは異なる発想から社内でのイノベーションを促進する、ダイバーシティ人材としての意味あいです(131-2)。
「現状のシステムへの適応」と「多様性を生かした革新」というこれら2つの要件を整理して園田が述べるのは、一方で外国人であることが総合職の採用において有利になることを意図的に避けつつ、もう一方では多様性という組織の戦略的視座から外国人雇用を意味づけているという企業の論理です(133)。
園田はこれを「複層的な期待」として論じます(134)。
企業の語りでは、外国人がどのように多様性を発揮し革新をもたらすべきかという多様性の内実までは言及されないことに、園田は注意を促します(133)。
加えて、ジェンダーと国籍の違いは多様性の源泉として一律に捉えられ、マイノリティという大きなカテゴリーの内部の多様性やインターセクショナリティなどは、インタビューでほとんど言及されなかったと言います(133)。
上記の「複層的な期待」をめぐってシティズンシップ概念の視角から、園田は次のような考察を展開します。シティズンシップとは、先に説明したように、権利と義務の交換関係を捉える概念です。
分析から導かれるのは、外国人総合職は日本人総合職に必要とされる能力と同時に、「グローバル人材」や「ダイバーシティ人材」であることも要求されていることです(134)。
日本企業が外国人総合職に対して提供する「権利」は、異なる賃金体系や制度の適用などの措置が見られないため、日本人総合職に提供する「権利」と同様だと言えます(134)。
一方で企業から外国人総合職が求められる「義務」には、現状のシステムへ適応できるという日本人総合職と同様の能力だけでなく、多様性を生かした革新という異質性の発揮が含まれます(134)。
つまり外国人総合職への企業別シティズンシップ付与の論理において、日本人同様の能力に上乗せして外国人としての能力が求められるという事態を、園田は「複層的な期待」として考察しているのです(134)。
さらに、これら2つの期待には矛盾するトレード・オフの関係が含まれていると園田は論じています(134)。
つまり外国人は、日本社会や日本企業に同化することで多様性を発揮しうる存在として認識されづらくなりますが、多様性の発揮やシステム変革の試みは会社との軋轢を生む可能性を持つため、両者の期待を同時に満たすことは困難と言えるのです(134)。
それにもかかわらず外国人総合職に対する見返りやサポートが少ないことは、複層的な期待という要求の高度さに対する企業人事部の無自覚さを表していると園田は主張します(134)。
以上の考察から園田が導く重要な指摘は、外国人がこの高度な要求を満たすことができないとき、企業別シティズンシップの下位へと合理的に位置づけられてしまうことです。
先行研究で指摘されてきたような、外国人は正規雇用のメンバーシップを得ることが難しいこと(塚﨑 2008; 上林 2017)、外国人と日本人との処遇格差が正当化されていること(白木 2006)などの実態は、この園田の指摘によって説明することが可能です(135)。
最後に園田は、企業の複層的な期待が向けられるのは外国人のみなのかという論点を提起します(135)。
ダイバーシティ・マネジメントという経営イデオロギーが、国籍やジェンダーなどの差異を一律に扱い、革新を生み出すマイノリティ性の源泉として画一的に見なしてしまう可能性があると園田は述べます(135)。
マイノリティ人材に対するまなざしの構造がマジョリティ側の複層的な期待を惹起している側面があり、外国人以外のマイノリティにも複層的な期待が向けられている可能性が、園田の研究からは示唆されます(135)。
2. 相互に期待を捉え損ねたままの関係
以上が園田(2023)の概要です。
改めて整理すると、園田(2023)の核となる重要な主張は、次のようにまとめることができます。
日本企業は外国人総合職に対し「複層的な期待」を抱いており、それは日本人総合職に対する期待に上乗せされて多様性の発揮という期待が含まれ、しかも両立して達成することが困難な期待です。
にもかかわらず企業の側はその困難さや高度さに無自覚なため、外国人に対する見返りやサポートは少なく、期待が達成されなければ低い処遇などが正当化されてしまう可能性を有しています。
この複層的な期待が、外国人の人事管理の中で多くの矛盾を生んでいることを、園田は別の文献で指摘しています。
たとえば、潜在的な経営人材として育成するために行う配属部署のローテーションによって、ダイバーシティ人材としての能力発揮に適さない配置になる場合などがその例です(園田 2024: 35)。
このような矛盾を内包しながらも複層的な期待を修正することが難しいのは、企業において「正しい」人事戦略と見なされて正当性が付与された期待であるためだと園田は説明しています(園田 2024: 36)。
さらに園田によれば、複層的な期待が修正されず矛盾を有したままの外国人雇用は、企業に認知的不協和をもたらします(園田 2024: 36)。
認知的不協和とは、複数の認知が相互に矛盾した状態のことです。Festinger(1957)の理論では、人は認知的不協和を不快と感じ、それを低減・解消するよう動機づけられるとされています(林・飯田編 2003: 35-6)。
よって企業は高度外国人材を日本人と同質的な存在と解釈するという意味づけを行い、認知的不協和の低減を試みます(園田 2024: 36)。
その解釈が、外国人を日本人と同様の制度的対応の中で扱ってもよいとする発想を導くのだと園田は指摘しています(園田 2024: 36)。
ところで当然ながら、外国人労働者の側にも日本企業への期待があるために、雇用関係が結ばれています。
外国人と日本企業がそれぞれに期待を持ち、かつ相手の持つ期待を捉え損ねたまま雇用関係を構築し維持している様子を、園田は「同床異夢」という印象的な表現で捉えています(園田 2024: 37-8)。
外国人雇用にまつわる採用や定着の問題は、日本的雇用システムに原因があるというのが、従来の研究における指摘です(園田 2021: 62)。
ですが日本的雇用システムは、外国人と企業との齟齬を顕在化させるきっかけに過ぎず、雇用関係を構築する時点での他者理解の齟齬が採用や定着の問題を生じさせているのではないかと、園田は主張しています(園田 2024: 38)。
3. 結び
今回の論文紹介で提示した「複層的な期待」は、園田が述べるように、日本の労働市場や日本的雇用のあり方、従来の外国人雇用の取組み、ダイバーシティや公平性を求める日本社会の規範などが絡みあって形成されているものだと考えられます(園田 2023: 135)。
ですから本記事は外国人を雇用する企業の取組みを非難するものではなく、そのような期待を社会的に支えてしまう構造に目を向け、複層的な期待を抱いている可能性を自覚的に考える契機としてほしいと考えています。
園田が「外国人労働者との共生に向けたより良い案を、ともに考えてほしい」と書いているように(園田 2024: 40)、学問と企業とが力をあわせてこそ、D&Iを本当の意味で実践する道が拓けるのではないかと思います。
本連載は来月の更新をお休みします。
次回更新予定の2025年2月も引き続き、D&Iを実践するための気づきを読者の皆さまと共有できるような学術論文をご紹介します。
D&Iを社会の「あたりまえ」に。
4. 書誌情報
$${\textsf{\underline{\text{今回紹介した文献:}}}}$$
園田薫、2023、「日本企業が外国人総合職に抱く複層的な期待――企業別シティズンシップの付与に着目して」『社会学評論』第74巻第1号: p122-38。
$${\textsf{\underline{\text{本ページで引用・参照した文献:}}}}$$
Festinger, L., 1957, $${\textsf{\textit{A Theory of Cognitive Dissonance}}}$$, Evanston, IL: Row, Peterson and Company.(=末永俊郎監訳、1965、『認知的不協和の理論――社会心理学序説』誠信書房)
林茂樹・飯田良明編、2003、『社会心理学 新版』中央大学生協出版局。
Herring, C., 2009, “Does Diversity Pay?: Race, Gender, and the Business Case for Diversity,” $${\textsf{\textit{American Sociological Review}}}$$, 74: p208-24.
今井順、2021、『雇用関係と社会的不平等――産業的シティズンシップ形成・展開としての構造変動』有斐閣。
梶田孝道、1994、『外国人労働者と日本』日本放送出版協会。
上林千恵子、2017、「高度外国人材受入政策の限界と可能性――日本型雇用システムと企業の役割期待」小井土彰宏編『移民受入の国際社会学――選別メカニズムの比較分析』名古屋大学出版会。
是川夕、2019、『移民受け入れと社会的統合のリアリティ――現代日本における移民の階層的地位と社会学的課題』勁草書房。
Marshall, T. H.,1950, $${\textsf{\textit{Citizenship and Social Class}}}$$, Cambridge: Cambridge University Press.(=岩崎信彦・中村健吾訳、1993、『シティズンシップと社会的階級――近現代を総括するマニフェスト』法律文化社)
宮島喬、2021、『多文化共生の社会への条件――日本とヨーロッパ、移民政策を問いなおす』東京大学出版会。
白木三秀、2006、『国際人的資源管理の比較分析――「多国籍内部労働市場」の視点から』有斐閣。
園田薫、2021、「外国人の就労継続・離職を動機づける日本企業への認識――職場での国籍カテゴリーをめぐる排除と包摂」『ソシオロジ』第66巻第2号: p61-79。
園田薫、2024、「日本企業における外国人雇用の人事管理上の特徴と課題」『統計』第75巻第8号: p33-40。
鈴木伸子、2022、『日本企業に入社した外国人社員の葛藤――日本型雇用システムへの適応とキャリア形成の実際』ココ出版。
塚崎裕子、2008、『外国人専門職・技術職の雇用問題――職業キャリアの観点から』明石書店。
〈お問い合わせ先〉
■D&Iアワード運営事務局
Email:diaward@jobrainbow.net
公式HP:https://diaward.jobrainbow.jp
■運営会社 株式会社JobRainbow
Email:info@jobrainbow.net(カスタマーサクセスチーム)
TEL:050-1745-6489(代表)
会社HP:https://jobrainbow.jp/corp/company