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【7/27】岡本裕一朗『フランス現代思想史』(中公新書)を読む#8(基礎力向上ゼミレポート@ソトのガクエン)

皆さま、こんにちは、ソトのガクエンの小林です。
今回の基礎ゼミは、「第5章 脱構築とポスト構造主義の戦略―デリダ」を3回に分けて読んでいきます。今回は、小林が担当となり、第1節「脱構築はどう始まったのか」をまとめてきました。

本書は、デリダの思想展開を三つの時期に区分しています。
1.60年代後半から70年代前半:脱構築(『哲学の余白』『散種』『ポジシオン』)
2.70年代中頃から80年代:「郵便的」コミュニケーション(『弔鐘』『絵葉書』)
3.90年代以降:政治(『マルクスの亡霊たち』『法の力』『友愛のポリティクス』『歓待について』 )

Ⅰ 脱構築はどう始まったか
デリダの「脱構築」(デコンストリュクシオン)はハイデガーの「解体」(デストルクチオーン)に由来します。ハイデガー『存在と時間』(1927)では、存在問題について、伝統を解体して伝統の根源的経験に遡りその系譜を解き明かすことを「解体」と呼びますが、デリダもこれに倣い、「脱構築」とは「今日支配的になっている伝統を解きゆるめ、その伝統によって隠蔽されたものを解き明かすこと」(173)であると考えます。

プラトンから構造主義に至るまで、西洋を支配している伝統とは、階層秩序的な二項対立(真理と虚偽、精神と身体、内面と外面、現前と不在、善と悪、自然と人工など)であり、前者が支配、後者が前者に従属するとされ、これをデリダは批判します。しかし、単に階層秩序の転倒させるだけでは、支配/従属関係は残ってしまいます。では脱構築をどう理解べきなのでしょうか。

パロールとエクリチュール
脱構築の意味を理解するために、本書ではパロールとエクリチュールというソシュール言語学の区別に着目します。パロール(話すこと)が根源的に優位に置かれ、エクリチュール(書くこと)が派生的に従属するものとして理解され、これは、プラトン以来の西洋の思考法を支配している音声=ロゴス中心主義(音韻論主義)であるとされます。

※本文では、『グラマトロジーについて』の引用で「ロゴス中心主義とは、表音的文字言語(たとえばアルファベット)の形而上学である」と言われるのですが、エクリチュールはパロールの派生物に過ぎず、なぜここでパロールの形而上学ではなくエクリチュールの形而上学と言われているのか、本文だけからはよく分かりませんでした。
※また、デリダおよび本書のまとめを認めたとしても、パロールが優位に置かれていることの何が問題なのか、こちらも(デリダを読まないと)よく分かりませんでした。

「原=エクリチュール」と「グラマトロジー」
さて、パロールとエクリチュールに代表される階層秩序的二項対立を単純な逆転にしないためにデリダが採った戦略は、両者を生み出すものとして「原=エクリチュール」その根源に想定するというものでした。そして、ソシュールの記号学この「原=エクリチュール」についての学、すなわちグラマトロジーに置きかえることが提唱されます。

「差延」としての「原=エクリチュール」
そして、原=エクリチュールが言語や記号を生み出す差異を可能にする運動のことを、デリダは「差延」(différance)と概念化します。差延の運動によって、差異が生産され続け、その差異化する運動が記号を記号に差し向けることになります。原=エクリチュールは「差延の運動」なので現前しませんし、その運動によって生み出される要素(差異)は、つねに他の要素(差異)に差し向けられ、それ自体で「現前」することがないため、西洋の伝統的な現前の形而上学にからめとられることがありません。
 
※疑問点としては、原=エクリチュールが現前しないのか、あるいは結果としての言語・記号が現前しないのか、本書は両方を主張しているように読めますが、文字や記号は現前するし、していても良い気がするのですが、こちらもデリダのテキストを読んで確認するしかありません。


参加者の方々との話のなかで気がつきましたが、デリダが述べている、ロゴス中心主義、これに対する原=エクリチュールとその差延の運動という議論は分かったとしても、それが、ハイデガー(そしてニーチェ)由来の系譜学としての、何かの根源的経験に遡り、伝統が隠蔽していた系譜を明らかにするという脱構築の議論が、本書のこの部分では明示的に論じられないまま終わった印象があります。

次回は、第2節「脱構築の転回と郵便モデル」を読んでいきます。担当者の方が、東浩紀『存在論的、郵便的』の議論もできればまとめてきますということでしたので、大変楽しみにしています。


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