(10/3)『公共哲学入門』ゼミレポート#5-第4章「功利主義の公共哲学」(前半) @ソトのガクエン
みなさま、こんにちは。ソトのガクエンの小林です。
10月3日(火)に実施されました、『公共哲学入門』ゼミのレポートです。今回は、Yさんをリーダーに、第4章「功利主義の公共哲学」の前半部分を読みました。ここでは、功利主義の定義と分類について確認された後、功利主義の古典理論としてベンサムとミルが紹介されます。
功利主義と聞くと、一般に、利己的でお金の計算ばかりをしているという印象がありますが(と本書は述べていますが、どうでしょう?)、功利主義は「厳格な道徳的立場」であると本書は述べます。すなわち、功利主義は、最善の帰結をもたらす行為や制度こそが正しいとする立場です。そして、こうした功利主義の立場が、次の三つの特徴によって定義されます。
①帰結主義:行為や制度の正しさはその帰結のよさによってのみ判断される=目的論(⇔義務論)
②福利主義:帰結のよしあしは福利(個人の幸福)の観点から評価される。
③集計主義:個人の福利を集計し、その総和を最大化する行為や制度が正しいとされる(功利計算)
さらに、功利主義は以下の三つに類型化されます。
①平均功利主義:総福利ではなく平均福利の最大化を目指す(⇔総量主義)
②選考充足説:個人の選択によって示す選好・欲求が充足されることが幸福
③客観的リスト説:快苦・選好から独立して、人間の幸福を構成すると考えられる客観的な要素を実現すること。
こうした功利主義の定義、類型化をふまえた上で、功利主義が対象とするもの、および、功利主義的原理を実現するその仕方が確認されます。まず、功利主義の道徳的対象は以下の二つです。
①行為功利主義(act utilitarianism):個々の行為が良い帰結を導くかが判断の対象
②規則功利主義(rule utilitarianism):個々の行為がそれに従う一般的な規則がおおむねよい帰結を導くか否かを判断の対象とする。
そして、功利主義的原理を実現する仕方が下記の二つです。
①直接功利主義:行為者が原理そのものに直接従い、意識的に福利の最大化を目指して行為することを命じる。
②間接功利主義:結果的に福利を最大化できるなら、原理以外の理由や動機づけで行為しても構わないと考える。
次いで、本書では、功利主義の古典理論を作った人物として、ジェレミー・ベンサムが、そして、ベンサムの理論を批判的に継承したジョン・スチュアート・ミルが紹介されます。ベンサムの特徴は、快楽と苦痛という観点から福利を最大化することを原理とすることで、道徳哲学における義務論や直観主義を批判します。これに対しミルは、個人の自由や個性という観点から、「個人の自由は、他人に危害を与えないかぎり最大限尊重されるべきである」という「自由原理」ないし「気概原理」を導入しました。ミルのこうしたリベラル・デモクラシーを擁護する立場から、普通選挙制や女性参政権の主張が導かれると本書は述べています。
当日の参加者の方々とは、ベンサムが開発したパノプティコン(一望監視モ方式)が日本の監獄施設に用いられていることや、ベンサムの自己標本について(ベンサムの怪人的なエピソードについては、土屋恵一郎『怪物ベンサム』(講談社学術文庫)を参照)、何を幸福とするのかについて等々、いろいろな話題について議論(?)が展開されました。
今回の収穫として、ジョン・ロールズが、功利主義への批判という位置づけにあることを確認することができました。同時に、『公共哲学入門』全体の軸が、どうもロールズにあるのではないか(結構、色々なところに名前が出てきます)ということを感じ、調べてみると、著者のお一人がロールズの翻訳や新書を出されている方であるということが判明しました。
ならば、これを機に、人生において読んでおくべき本であるにもかかわらず、つねに後回し後回しにしてきたロールズの『正義論』を読まなければならないという気持ちが、沸々と湧いてきました。とりあえず、ロールズ自身が『正義論』への批判に応答する仕方で再度説明を試みた『公正としての正義』(岩波現代文庫)を読むか、少なくとも、齋藤純一『ジョン・ロールズ』(中公新書)を読もうか…しかし、こうすることで、再び『正義論』から逃げ回る人生が続くわけですが…といった話をしておりました。(今回、『正義論』のkindle版が出ていることを知りました。定価の半額なので、金銭的なハードルは若干低くなりましたね。)
次回は、10月10日(火)22時、第三節「現代の功利主義」からを読んでいきましょう。
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