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東洋医学に学ぶセルフケアの技法──自然の一部として、心身一体で無理なく生きる|インタビュー:CoCo美漢方 田中友也さん

なんとなく心がざわついたり、身体のしんどさを感じたりと、不調を感じる日はありませんか? 瞑想して呼吸を整える、今の気持ちを紙に書き出す……セルフケアの技法への関心が高まる中、不調を健康へと導くヒントが「東洋医学」にもあるかもしれません。

Deep Care Labがお届けする、サスティナブルな未来をひらくクリエイティブマガジン 『WONDER』では、持続可能性につながるビジネスやプロジェクト、気候危機時代の生き方のヒントになる創造的な実践や活動をされている方にお話を聞くインタビューシリーズを連載しています。

今回は、鍼灸師/国際中医専門員の田中友也さんにインタビュー。兵庫県神戸市の漢方薬専門店「CoCo美漢方」にて漢方の相談員や鍼灸師として活動する傍ら、書籍やSNSを通じて、漢方や中医学についての情報発信にも積極的に取り組んでいます。

田中さんは言います──「東洋医学の観点から見ると、みなさんが抱えている不調の原因が浮かび上がってくることがある」。「ケア」のあり方について、東洋医学から一体どのようなヒントが得られるのでしょうか。

今回のインタビューのお相手

田中友也(たなかともや)
鍼灸師、国際中医専門員、登録販売者、国際薬膳管理師資格保持。関西学院大学法学部卒業後、イスクラ中医薬研修塾にて中医学の基礎を学び、北京中医薬大学、上海中医薬大学などで研修。現在、兵庫県神戸市のCoCo美漢方(ここびかんぽう)で日々、健康相談にのる傍ら、鍼灸師として施術も行う。ツイッターのフォロワーは12万人超え。親しみやすいトーンで、漢方にまつわる話を日々つぶやいている。オンラインセミナーなども積極的に開催している。『いちばんやさしいおうち食養生 疲れた日の漢方ごはん』『こころと体がラクになるツボ押し養生』『不調ごとのセルフケア大全 おうち養生 きほんの100』など著書多数。

人間は自然の一部であり、互いに作用し合っている

──田中さんの専門である東洋医学の考え方とは、どのようなものなのでしょうか?

東洋医学では、人間の身体を小宇宙とみて、五臓六腑それぞれの関連性を重視します。その上で、症状が起きる原因を探り、自然界にある生薬を使った漢方薬の力も借りながら、根本から改善していくんです。

東洋医学においては「人間は自然の一部であって、影響を受ける」と考えられており、常に自然界に起こる環境変化の影響を受け、天候や季節の変化、その地域の風土に合わせた対策や過ごし方が大切になってきます。最近では低気圧による不調を訴える人も多く、やはり人間は自然界の影響を大いに受けているなと感じます。

──そうした東洋医学においては、どのような状態が「健康」とみなされるのでしょう?

五臓がしっかりと働き、気・血・津液(水)が過不足なくある状態が「健康」と捉えられます。

「五臓」とは、それぞれ異なる働きがあり、お互いに補強したり抑制したり、影響し合いながら健康な状態をキープしています。

そして「気・血・津液(水)」とは 元気の「気」、主に血液のことを指し、全身を巡って栄養を運ぶ「血」、身体内における血以外の身体を潤す、身体内における正常な水分「津液(水)」を指します。身体を構成するこれらの要素が、過不足なく、滞りのない状態だと、体内の臓器が正常に機能するのです。

──図の「五臓」の隣には、「木・火・土・金・水」とも記されていますね。

「木・火・土・金・水」は五行と呼ばれ、五臓が持っている性質を表します。たとえば、「肝」は「木」にたとえられます。肝の働きとしては①血の貯蔵庫②代謝や自律神経の調整を担っています。

肝はのびのびと成長する木のように、制約されたり、我慢したりすることを嫌います。
血がたっぷりあり、のびのびしていると元気を保てる一方で、過度なストレスや負担が大きくなると肝の働きが悪くなり、自律神経が乱れやすくなるわけです。

心と身体はお互いにバランスを取り合っている

──東洋医学では、心と身体を分けて考えないのですね。

心と身体がお互いにバランスを取り合っていることを意味する「心身一如」という言葉があります。健康なときも、不調なときも、心と身体はお互いに作用し合っていると捉えられています。心が折れてしまったら、同じように身体も弱ってしまう。逆に言うと、心がちょっと折れても、身体が健康であればまた戻ってこられる。

──心と身体を一体に捉えたうえで、漢方薬はどのように処方されているのでしょうか?

その人の体質や不調の根本的な原因である「証」を探り、漢方薬を処方しています。風邪一つ取っても、アプローチの仕方は全然変わってくるんです。

たとえば、「ゾクゾクするような風邪」の場合は、身体を温め汗をかかせて治す漢方薬である葛根湯をご提案する。一方で、高熱が出ているときに葛根湯を飲んでしまうと、さらに熱を上げて汗をかかせることになり、体の消耗が大きくなってしまうので、熱を下げる漢方薬である銀翹散(ぎんぎょうさん)をご提案する。

──西洋医学とは、どのような点が異なるのでしょうか?

東洋医学の強みは「未病」と呼ばれる、血液検査やレントゲンでは測れない体調不良の段階で対策ができ、改善することが得意なこと。一方で、西洋医学は、手術などによって、病気などの何かしら異常があるものを治すことに強みを持っています。

東洋医学と西洋医学それぞれの得意・不得意を、うまく補いながら取り入れることが大事だと思っています。実際、中国では漢方薬や鍼灸、あん摩マッサージといった中医学と、内科、外科などの西洋医学が協力しようとする、「中西医結合」という動きも起こっていますね。

無理なく、健康を貯金する。「養生」という考え方

──ただ、ときには漢方薬によるアプローチだけでなく、食生活の乱れを整えたり、生活習慣を変えたりする必要もあると思います。

もちろんです。繰り返しになりますが、東洋医学が目指すところは、五臓がしっかりと働き、気・血・津液(水)の過不足がない健康な状態。最終的な判断はご本人次第ですが、私たちは「養生」の仕方を提案するようにしています。

──「養生」?

いわば“健康の貯金”で、病気を予防するための生活習慣や行動のことです。ただ、「夜は22時までに寝ましょう」「食事は全て手づくりにしましょう」と言われても、無理を強いられる養生は続かないですよね。だから、コンビニで買ったおにぎりや菓子パンを食べることが多いようであれば「お味噌汁を足しませんか?」、夜更かしする人であれば「せめて日付が変わる前に寝ませんか?」と、できるだけハードルを下げた養生をお伝えするようにしていますね。

──健康の貯金。たしかに、忙しいときに身体の不調を感じるとつい薬で直そうとしてしまいますが、ほんとうは根本を改善するための養生が必要な気がしました。

身体からのサインを無視しないほうがよいのではないでしょうか。疲れたら栄養ドリンクを飲んでビタミンを取る方法もありますが、「本当にそれで良いのだろうか」とすごく思うんです。

栄養ドリンクを飲めば、たしかに元気は出ますが、結局それは命の前借りであり、借金をしている状態ですよね。命の借金を続けていると、どこかで回らなくなってしまう。でも実は、そうなる前に身体はサインを出しているので、それに早く気づいてあげられるかどうかが大事だと思うんですよね。

もちろん、いきなり頑張ったところで効果は出ないので、コツコツ続けてもらうことが大事です。「今日は1万歩も歩いて、ご飯も手作りにして、22時にベッドに入れた!」「今日めちゃくちゃ頑張った」じゃなくて、1週間、2週間、1ヶ月、半年……ちょっとずつ続けていくほうが大事です。無理をしない範囲で生活を整えることが大事だと思っています。

医者でも家族でもない、ちょうどよい関係を保つ

──田中さんは日々、相談員として多くの人々の悩み相談に乗っていると思いますが、相談に来られる方との接し方で意識されていることはあるのでしょうか。

これはあくまでも私の場合ですが、「何か困ったらいつでも聞いてください」と気軽に言えるような場所でありたいと思っています。初回は東洋医学の話をすることが多いのですが、2回目以降は8割くらい雑談をしていることもあります。

家族でも友人でもないからこそ、何でも喋ってくれる人が多いんですよね。きっと誰かに話を聞いてほしいけれども、家族や友達、会社の人には言えなくて、溜め込んでいるのでしょう。話すことで気分が良くなって、「さっきまでしんどかったのに楽になりました」という方もいらっしゃいます。お医者さんとはまた違った立ち位置だからこそ、何でも相談できるし、しょうもないことも話せるのだと思います。

──そういった関わり方が、結果的に体調を良くしたり、養生のサポートにつながったりするのでしょうか。

そうですね。たとえば、お腹が痛くて私たちのもとに相談に来た人が「また2週間後に」と言われても、「次の日にまたお腹が痛くなったら不安だ」と感じる方もいますよね。ですから私は、「何かあったらメールか電話で連絡して」とお伝えし、連絡があったら「ういった対策をしてみて下さい」「こういった養生をしてみて下さい」といったアドバイスをすることもあります。

──たしかに、「お腹が痛いから来ました」と言う方に対して、ただ「この漢方薬をどうぞ」と処方するだけでは、根本的な部分へのアプローチは難しい気がします。

結局、何らかの原因があって「症状」が表れているわけですよね。たとえば、アイスを食べてお腹を壊すようであれば、「アイスを食べるのを控えてください」で済むかもしれない。けれども、慢性的にお腹が弱いのであれば、その根底にはストレスや不安が隠れている可能性があります。「この漢方を飲んだら良いよ」ではなく、根底にある原因や生活習慣を含めて拾ってあげることが必要なのかなと思います。

元気に生きるために、東洋医学の知恵を

──相談者とのやりとりを通して、本人が気づいていなかった原因を探っていくことを大事にされているのですね。

それから人間は、悪いことにはすぐに気づくんですよね。「ここが痛い」「あそこが痛い」と。以前、冷え性の方がいらして、2週間後には「良くなった」と言われたんです。そしたら、次は「頭が痛い」「肩こりがひどい」と言い出して。人間が生きていくために、悪いことにすぐ気づくのは当然のことなんです。

逆に、良くなっていることは気づきにくい。だからこそ、「以前は手が冷たいとおっしゃっていましたが、どうですか?」と聞くと、「そういえば、温かくなっていました」と改めて自覚するんです。会社でも、「今日は頭が痛くて」と言う人はいるのに、「今日はすごく元気なんです」と話す人はあまりいませんよね。だからこそ、良くなっている部分にも気づけることはすごく大事だと思います。ですから私は漢方の相談に乗る際は、必ず「この2週間で楽しかったことを教えてください」と聞くようにしているんです。

やっぱり、ちょっとでも良いことが見つかると嬉しいですよね。「今日は電車の乗り継ぎが上手くいった」「ご飯が美味しかったな」といったことで良いんです。

──東洋医学はただ身体の不調にアプローチするだけでなく、人間の健康や幸福に総合的にアプローチしているのですね。

今、男女ともに健康寿命と寿命の差が10年ぐらい開いているんです。移動介助が必要だったり、入院生活が求められたりと、いわば「健康じゃないけれど生きられる期間」が約10年もあるわけです。これって、薬でもどうにもならないからこそ、しんどいと思うんですよね。だからこそ元気でいるための手段の一つとして、東洋医学はすごく良いと思うんですよ。

東洋医学や漢方は、もともと昔の皇帝が健康で長生きするためのものでもあったんです。元気で若々しくいるための研究をしている分野。だからこそ、養生したり、漢方薬を飲んだりして、不自由な期間をできるだけ減らせたらいいのかなと思います。

東洋医学を学ぶと、きっと楽しくなると思います。これほど先人の知恵が生かされる医学はあまりないですからね。東洋医学がもっと広く普及していったら嬉しいですね。

おわりに

個人的な話になりますが、ぼくの妻は台湾人です。昨年、台湾を訪れたとき、彼女の母親に連れられて漢方薬局で脈診をとり、処方をしてもらいました。それ以来、毎日飲んでいるため、漢方は身近な存在ではありつつ、その背後にある考え方はあまり理解できていなかった。今回、田中さんに伺う中で「五行」という内臓を自然そのものに見立てていることや、心と身体がつながっている「心身一如」という考え方。また、身体へのある種のサインがどういった生活環境からあらわれているのか、を地域の漢方医として話を重ねるなかで関係を深めて見極めていく姿勢。

セルフケアを施すためには、自分の身体に出てくる症状=サインに気づくこと、そしてその問題に対しての解決策ではなく、身体への兆しがあらゆる関係から生み出されていることをふまえた処方であること。それが東洋医学に基づくケアのあり方なのか、と考えさせられました。その関係的な視座に対して、漢方を入り口にして、気づきを促す対話とケアの場を地域につくる。そこで気づきを得た個人が、生活を整え直したり、家族との関係をほんの少し変えるかもしれない。そんな自身へのケアの技法を育む場でもある。そう感じました。
(Deep Care Lab 川地真史)

(構成:大畑朋子、取材・編集:小池真幸)

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