『LDは僕のID ―字が読めないことで見えてくる風景』感想
『LDは僕のID ―字が読めないことで見えてくる風景』(南雲明彦:著)は、LDがある人に限らず、多くの人におすすめしたい良書です。
南雲さんは「読み書き」がとても苦手な子どもでした。その原因が分からないまま悩み苦しみ、不登校となって引きこもります。
手を差し伸べる方がいたことにより、暗闇の底から立ち上がることができ、通信制高校を卒業。そして21歳の夏、LD(学習障害)の一種であるディスレクシア(読字障害)という言葉を初めて知ります。
ディスレクシアがあることが判明してからは、当事者であることを実名でカミングアウト。生きづらさを抱えた子どもたちが、希望の光で満ちた未来を歩んでいけるように、全国各地で講演・相談活動を行っています。(現在はオンラインが中心)
本書では、南雲さんの半生および、発達当事者・支援者・社会に対するメッセージが、ご自身のことばで綴られています。
子どもたちに苦しんでほしくないとの強い思い
私は本書と以下の2冊の著書で、南雲さんのことばに触れています。
『治ってますか? 発達障害』(花風社/共著)
『私たち、発達障害と生きています』(ぶどう社/共著)
どの本からも感じられるのが、子どもたちには自分と同じようには苦しんでほしくないという、強い強い思いです。
本書の「はじめに」の部分にも、そのような思いを感じさせる文章があります。私はそれを見て、思わず目頭が熱くなりました。
正直に告白します。発達障害のある人が自身の障害をテーマに書かれた本はたくさんありますが、私がそれらを読んで泣きそうになったのは、南雲さんの本だけです。
私自身がかつて、とことん苦しみぬいた子どもでした。自分にも発達障害(ASD・ADHD)があるのを知らないまま、手探りで生きてきました。だから、南雲さんのことばが深く深く、胸に突き刺さったのでしょうね。そして、その前向きな生きざまに、心が激しく揺さぶられたのだと思います。
昔も今も色あせない良書
本書が出版されたのは2012年。今からちょうど10年前です。私が本書をはじめて手にしたのが2015年で、その年に自身のブログで感想文を書いています。
私は当時、本書に力強く励まされました。当時は今よりも発達障害の存在が明るみになっていないころです。誰も知らないような状況において、発達障害について講演や執筆活動をすることが、どれだけ勇気が要ることか。しかも南雲さんは、お顔もお名前もすべて公表しています。南雲さんのような方々の熱い思いがあったから、発達障害の存在が人々に少しずつ理解されるようになったのではないかと思わずにいられません。
南雲さんの著書は、子どもたちに限らず、ひとりひとりの人に対して、真摯に向き合っているのが感じられます。2022年の今でも、決して色あせない良書。ぜひ多くの人に、そのことばと生きざまに触れてほしいです。