「ミステリーフレイル」~プロは汗かくな編〔コイネージ【造語の試み】9-4〕
親、先生、先輩、監督、上司、社長、客、市民など。
相手より上の立場にある者(あるいは自分の方が格上だと思い込んでいる者)で、お世辞にも思慮深いとは言い難い者ほど、ときおり謎理論・謎ルールを振りかざす。
卑近な例だと、前時代的な監督の、
「(スポーツ競技の)練習中、水飲むな」。
振りかざす本人としては「そうして当たり前」と思い込んでいるかもしれないが、相手からすればまったくの「謎」。「なぜ、そうしなければならないの?(熱中症になるじゃん)」という疑問符は、「その人の方が立場が上」という程度では払拭しきれない。
しかしながら、その謎理論・謎ルールを"立場の威のまま"、勝手に押しつけられるのだからたまらない(最悪死ぬよ)。それは、さながら「意味のわからないロジックを、フレイルが如く振り回されている」かのよう。
このことから、
「謎理論・謎ルールを振り回す者」。
「頭の中で"独自の価値基準(好み)"、『〇〇はこうあるべき』『こうすべき』を"勝手に"構築し、これに基づき他人を"勝手に"ジャッジし、これに外れる者を"勝手に"見下し、叱咤し、あるい見放すこと」。
これを、
「ミステリーフレイル」
と呼んでみる。
例えば、上記の例をさらに苛烈にしたクレーマーの話。
某たこ焼き店の店主はこの夏(2023年)、
「大汗かいてしんどそうに働く姿は、見ていて不愉快」
「どれだけ暑くても汗なんかかかず、涼しげな顔ができなければ、プロ失格。即刻辞めるべき」
といったクレームを受けたそう。
これが、「汗がたこ焼きに入ることへの懸念」や「現に汗がたこ焼きに入ったことへの抗議」ならクレームとして妥当だろう。しかし、これは「そこで働く人たちのありさま」に対するもの。
どうやら、このクレーマーの理想(好み)とするプロ像、およびそれに基づくジャッジメントは、
「たこ焼きのプロは、室温50℃に近い空間においても、『汗をかかない特異体質』と『心頭滅却の境地』を備えてしかるべき」
「それができていない、お前はプロ失格だ」
らしい。
筆者はこの部分を指して、「ミステリーフレイル」と呼んでいる。
言うまでもなく、たこ焼き職人としてのスキルや客商売人としてのマインドならともかく、"体質"をヒトイチバイノドリョクやらマゴコロコメタセッキャクやらで変えるのは不可能。また、その必要もない。
思うに、「ミステリーフレイル」は、その理論・ルールが必要かどうか、そもそも実行可能かどうか、はたまた重大な弊害をもたらさないかどうかについて、十分な思慮・考察を及ぼしていない。
それゆえ、「好みに基づく思いつき」に等しく、とるべきアクション・マインドとしての価値は限りなく低い(どうすれば48℃の中、たこ焼きの品質を下げることなく、汗をかかけないでいられるの?)。
それゆえ、立場がなくなるか、立場の射程外に出るか、はたまた相手が「その人との関係性を重視する必要はない」と主体的に判断した時点で、ジ・エンド。
その人が、自分にとって"なんでもなくなった"空間において、"その人ごと"無視されて、忘却のかなたへ押しやられるか、一笑に付されるだけである。無論、そのことを後悔する事態になることもない。
中学時代、なにやら喚き叫んでいた体育教師やら先輩やらを、今現在完全に無視することができるように。
現に、当たこ焼き屋の店主は「二度と来ていただかなくて結構です」と返答したそうだ。「汗をかいたらプロ失格」という"謎理論"は、その後の売上になんら影響を及ぼしていないという。
「ミステリーフレイル」を振り回す方々には、
「相手にされなくて、願ったり」
である。
(過去投稿した記事の続編)
(参考記事)