【学校での保護者との法律トラブルをわかりやすく解説】by 川上貴裕(事例:厳しい指導による精神的影響)

レトリカ教採学院、学院長の川上です。


部活動でも、不適切な指導は起こり得ます。

口頭での厳しい指導は、いくらでもできると考えると、大きな間違いです。

口頭での指導でも、やり方を間違えると、不適切な指導として、違法な行為となることがあります。

そんな事例を分析します。



シナリオ6.
厳しい指導による精神的影響

中学3年生のFは、所属するバスケットボール部の試合でミスを連発しました。

顧問の教師は試合後、「お前のせいで負けた」と強く叱責し、「このままでは試合に出る資格はない」と厳しい言葉を浴びせました。

Fはその後、練習に出ることを嫌がるようになり、「先生が怖い」と保護者に相談しました。

保護者は「子供に責任を負わせすぎる発言は問題ではないか」として、学校に抗議しました。

学校側は「厳しい指導もスポーツ指導の一環」と説明しましたが、保護者は「精神的なプレッシャーをかけすぎるのは指導とは言えない」として、顧問教師の指導方法の改善を求めました。

さらに、他の部員の保護者からも「指導が厳しすぎる」「試合の結果によって生徒を精神的に追い詰めるのは問題だ」との声が上がり、部活動指導の在り方について学校全体で議論が必要となっています。

【厳しい指導による精神的影響に関する法的分析】

1.問題の概要

本件は、中学3年生のFが試合でミスを連発したことに対し、顧問教師が「お前のせいで負けた」「このままでは試合に出る資格はない」と強く叱責した事例です。

この発言により、Fは「先生が怖い」と感じて練習を拒むようになり、保護者が「責任を負わせすぎる発言は問題」として学校に抗議しました。

学校側は「厳しい指導もスポーツ指導の一環」と説明しましたが、他の部員の保護者からも「精神的なプレッシャーをかけすぎる指導は問題」との声が上がり、学校全体で部活動指導の在り方が議論される事態となっています。

この事案について、「厳しい指導」と「不適切な指導」の境界を法的観点から分析します。


2.不適切な指導の該当性とその判断基準


(1)不適切な指導の法的性質

本件の顧問教師の発言は、身体的な苦痛を伴わないため、学校教育法第11条が禁ずる「体罰」には該当しません。

しかし、精神的な苦痛を与え、生徒を萎縮させる行為は「不適切な指導」として問題となります。

不適切な指導は、教育上の目的を逸脱した指導であり、学校が果たすべき安全配慮義務を損なう行為と位置付けられます。

(2)不適切な指導か否かの判断要素

顧問教師の言動が「厳しい指導」の範囲を超え、「不適切な指導」に該当するかは以下の観点から判断されます:

指導の目的が正当か

・顧問の教師は、生徒の競技力向上や責任感を育む目的で発言した可能性がありますが、目的が正当であっても、指導の手段が適切でなければ許容されません。

指導の手段が教育的か

・「お前のせいで負けた」という発言は、個人を名指しで責め、心理的な重圧を与える言動であり、教育的手段としては不適切です。

・「このままでは試合に出る資格はない」といった発言は、指導の意図があったとしても、競技機会を威圧的に制限する言葉であり、精神的圧迫と受け取られる恐れがあります。

生徒の受けた影響

・Fは「先生が怖い」と感じ、練習参加を拒むまでに心理的な影響を受けています。

さらに、他の保護者からも「指導が厳しすぎる」という声が上がっており、顧問教師の言動が個人だけでなく部活動全体に悪影響を与えていることがうかがえます。

以上から、今回の指導は教育的配慮を欠き、生徒の人格を傷つけた「不適切な指導」に該当する可能性が高いと考えられます。

3.教師の指導権限とその限界


(1)教師の指導権限

教師は、生徒の成長を促す目的で指導を行う権限を有しています。

特に、部活動指導においては、技術向上やチームワークの醸成など、教育活動の一環として指導の裁量が認められます。

しかし、その指導は「児童の福祉および人格を尊重し、適切な教育環境を保障する」ことが前提です。

教育目的を逸脱し、生徒を精神的に追い詰める行為は、指導権限の濫用となります。

(2)不適切な叱責の判断基準

厳しい指導と不適切な指導の境界は、以下の基準に基づいて判断されます:


目的が教育的か

・「試合に勝つための反省を促す」などの目的自体は教育的といえますが、個人を責める言動は教育目的の達成に資するものではありません。


方法が合理的か

・生徒の人格を尊重し、成長を促す建設的な指導であるかが重要です。

今回のように、失敗を責め、人格を否定するような発言は「合理的な指導」とは言えません。

教師の言動が冷静かつ適切か

・冷静な指導は許容されますが、怒りや感情に任せた発言は「教育上の裁量」を逸脱した行為とみなされます。


4.学校の管理責任


(1)安全配慮義務違反の可能性

学校は生徒の心身を保護する安全配慮義務を負います。

本件では、Fが「先生が怖い」と訴え、他の保護者からも同様の懸念が上がっていることから、学校の管理体制に問題があったと判断される可能性があります。

(2)教育相談義務の履行不足

学校は、生徒が心身の問題を抱えた場合には、教育相談などの支援を行う義務があります。

Fが「練習に出たくない」とまで訴えた段階で、速やかに教育相談を実施する義務がありましたが、それが行われた形跡がない点は、義務不履行と捉えられます。


5.今後の対応と再発防止策


本件を踏まえ、以下の対応策が求められます:

指導方法の見直しと教員研修の実施

不適切な叱責を防ぐため、教員に対する部活動指導研修を定期的に実施し、「厳しい指導」と「ハラスメント」の境界を明確にします。


教育相談体制の強化

生徒が安心して悩みを相談できる窓口を設置し、指導に関するトラブルが早期に発覚する体制を構築します。

保護者との対話とガイドラインの策定

複数の保護者から懸念が出ているため、学校は説明会を開き、事実確認と再発防止策を共有します。

また、指導の方針を保護者と共有し、部活動における指導ガイドラインを策定します。

教員の自己点検制度の導入

部活動の指導内容について、教員が日常的に自己点検・記録を行い、管理職が定期的に確認する体制を導入します。


まとめ

本件は、「厳しい指導」と「不適切な指導」の境界が問われる典型的な事例です。

・今回の指導は体罰には該当しないものの、生徒に強い精神的苦痛を与えた不適切な指導である可能性が高いと考えられます。

・教師の指導権限は、生徒の人格を尊重する範囲内で行使されるべきです。

・学校は安全配慮義務および教育相談義務を果たす責務を負っています。

今後、学校全体で再発防止策を徹底し、児童生徒の心身を守る教育環境を構築することが求められます。


ではまた!

レトリカ教採学院
学院長
川上貴裕

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