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【開催報告①】公開シンポジウム「ICT活用で自治会はどう変わる?デジタル化がもたらす地域自治の未来」
みなさんこんにちは!
DCDは2024年10月3日(木)公開シンポジウムを開催しました。
テーマは「ICT活用で自治会はどう変わる?デジタル化がもたらす地域自治の未来」
今回のシンポジウムでは、自治会に関わる研究者、行政関係者、事業者、学生など多様な方々が集い、それぞれの立場から自治会活動のデジタル化について課題感を共有しました。
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本記事ではシンポジウムに参加できなかった方へ向けて、講演・討論の内容を一部ではありますが共有させていただければと思います。
基調講演:地域における自治会の役割――ICT活用の可能性をめぐって【放送大学 玉野和志 教授】
玉野先生からは、自治会の現状、自治会とは何か、自治会成立の起源、ICT活用への期待と困難という観点からご講演いただきました。
自治会の現状
一般に自治会の加入率低下は問題視されていますが、東京都23区外の複数の自治会の例や過去のヒアリングなどからも、近年は自治会加入率の低下傾向は見て取れるとのこと。その背景には若者の無理解による非加入だけでなく少子高齢化も加入率低下に拍車をかけ、以前は地域に引っ越せば加入が当たり前だったが現代ではその常識感が薄れている現状があることをお話頂きました。
そうした中でのコロナの蔓延。対面でのイベントが自粛される中で、デジタル上のコミュニケーションに転換しなければならない状況に置かれたことにより、デジタル化の状況は好転している部分があるとのことです。
こうした状況下で自治会が担っている役割やその背景を加味し、何をデジタル化に求めていくのか、続けてお話頂いています。
自治会の役割と性格
ではそもそも自治会の役割とは?という点から、実際に行われていることや自治会の不思議な性格についてもお話頂きました。
実際に行われてきた活動の例
・ゴミステーションの管理
・街灯管理・・・戦後の暗い路地を地域の有志が積極的に整備していったところに由来
・運動会
・清掃
※運動会などは現代では行わなくなってきているところも多い。
自治会の性格
・全戸加入を望んで活動している(全戸加入原則)
・NPOや市民活動団体と異なり、特定分野だけでなく地域のみんなのためになることは何でもやる
・公的な目的での活動であり地方自治体の役割に通づる部分がある
・活動内容は誰かがやってほしいものけど自分はやりたくない、という担い手不足が避けられない構造
自治会成立の起源
では、自治会が成立してきた起源とはどのようなものだったのか。自治会の起源論は諸説あるが、金沢のとある自治会の例では、近代の都市化に伴い自営業の商売人たちが発起人となり、街の有力者を担いで自治会を結束。規約に全戸加入が明記されており、転入者は事前に自治会に相談することが義務でありました。
都市化を背景にいつ誰が隣に引っ越してくるかわからない状況下で、自治会は商売人だけでなく住民にとってもどんな人が引っ越して来るのかを知る機会となっていたことから、商売人など利害関係者が中心となりまちの共同防衛を民間団体として行っていた、という起源があったとのことです。
ICT活用の期待と困難
前述のように、自治会成立の背景がある一方、加入率は低下はしているけれども誰かがやらねばならない役割がある現状で、自治会がICT(デジタル化)に期待されるのは、
・業務の省力化
・若い世代・仕事子育て世代の参加
などが挙げられ、その成功例として今まで参加したことがなかった住民やICT関連のスタッフなどが自治会に関わったりするケースがあります。
一方、下記のような困難もあるとのこと。
・デジタル・デバイド(情報格差)
・近隣住民の状態を把握するための親睦機能の維持
・行政へ働きかける力の維持・促進
玉野先生のご講演の中で、自治会成立の現状や果たしている役割、自治会成立の歴史について、様々な事例を基に知ることができました。そしてこれらの背景・現状を踏まえ、ICT化への期待や困難を抱える中で、何のためのICT活用かを見定め、議論を深めていくことが必要であることが分かりました。
話題提供:自治会のデジタル化の全国的動向と住民意向
玉野先生の基調講演ののち、DCDの活動の中からも話題提供を添えさせて頂きました。三重大学 近藤早映准教授、松山校区自治会 宮下孫太朗さん、豊橋技術科学大学 稲垣迪和さん の3名による話題提供です。
三重大学 近藤早映 准教授
近藤先生からは自治会のデジタル化の全国的動向と、三重県四日市市にて行ったアンケート調査の結果をご紹介いただきました。
■自治会のデジタル化の全国的動向
総務省令和3年度の調査では、市町村が把握する自治会・町内会等の地域活動のデジタル化に関する取り組みとして、汎用アプリと自治会専用アプリの利用が多く見られている。独自調査で具体的なアプリを調べてみると、下記の様な例がみられ、自治会専用アプリは乱立している状態にある。
汎用アプリ例>LINE(BAND), Facebook, サイボウズofficeなど
自治会専用アプリ例>結ネット, ためまっぷ, いちのいち, デンタツくんなど
■四日市市梅が丘自治会と近隣のアプリ未導入自治会の比較調査
三重県四日市市の梅が丘自治会ではLINEの導入が進んでいる事例がある。当自治会と近隣にあり同規模・同世帯数でアプリ未導入のA自治会と、アプリ導入によりソーシャルキャピタル(SC)、地域愛着、主観的幸福感の観点でどのような違いが生じているかを比較調査を行った。
梅が丘自治会のアプリ利用者間・・・認知的SCの信頼が醸成
A自治会・・・認知的SCの互酬性の規範、構造的SC、地域愛着、主観的幸福感などが梅ヶ丘自治会よりも醸成
これらの差が見られた項目に当てはまる自治会員に絞り分析を行うと、梅が丘自治会員では人よりも地域(土地)そのものへ関心があり、A自治会員では土地だけでなく人との結びつきに関心がある傾向が見て取れた。それ以外の項目では概ね双方似通った性質の会員で構成されている。
クラスタ分析により会員の特性をグループ分けし、それぞれの自治会内でICTツールに対する態度を見てみると、人・地域両方に関心をもつ会員は両自治会におり、複数端末・複数ツールを使いこなしていることが分かったが、ICTツール導入の有無が会員特性に差をもたらすとは言えない結果であり、ICTツールの導入に当たって、先入観に囚われず会員特性を丁寧に紐解きながら戦略を立てるべきである。
豊橋市松山校区自治会 宮下孫太朗 さん
松山校区自治会の宮下さんは、実際に松山校区で電子回覧板アプリの導入を進めています。導入にあたっての実際の体験と今後の期待をお話いただきました。
■松山校区の現状
昨年4月から電子回覧板アプリデンタツくんの導入を始め、現在800名ほどの加入がある。松山校区は豊橋駅前に位置し、新しいマンションと歴史的な古い民家もあるアンバランスな街。マンション居住者は自分たちだけの生活感を楽しみたいような印象があるが、実際にはマンション居住者を含む新しく移り住んできた人たちの方が加入しやすい傾向がある。
■導入時の経験
松山校区には24の町自治会があるが、最初にアプリの導入の話を持ちかけたところ否定的な意見を多くもらったとのこと。その後豊橋技術科学大の学生を巻き込み町自治会長への導入を試みたところ、孫に教えてもらうような感覚で町自治会長への導入ができ、上手く行き始めたとのこと。
■今後期待する機能
・家を出たけど帰ってこれなくなった人や災害時用のGPS機能
・健康面の変化をICTで察知して救急サポート出来るような機能
豊橋技術科学大学 修士1年 稲垣迪和 さん
豊橋技術科学大学の稲垣さんからは、松山校区にて行ったデンタツくん導入のワークショップと、松山校区にて実施したアンケート調査について紹介して頂きました。
ワークショップやアンケートの内容は過去にノート記事でまとめております。よろしければご覧ください。(アンケートは第1回ワークショップの記事の中で紹介しております。)
■愛知県豊橋市松山港区における暮らしと自治会活動に関するアンケート
こちらのアンケート調査は松山校区にお住まいの方を対象にしたアンケートで、地域との関係や自治会参加、ICT導入意向などを聞いています。※デンタツくん導入前のアンケートです。
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地域の人々とのおつきあいに関する項目では、地域の人々には約9割が挨拶をし、7割の方が地域の人々は一般に信頼できるにポジティブな回答をしている一方、「地域に助け合える人がいる」という項目では5割強程度へとポジティブな回答は減る現状がある。
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回答者の約9割が自治会に加入し、6割以上の方が自治会は必要であると感じており、自治会の活動の中ではゴミ集積場所の管理など地域の維持管理に関する項目で重要度が高い傾向。
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ICTツールの導入意向に関しては、どちらでもないとの回答が多くを占めているが、不安よりも関心や期待に対して「あてはまる」「ややあてはまる」との回答が多く占めていることが分かった。
今回の記事ではシンポジウムの前半パート、玉野先生による基調講演とDCDと松山校区自治会の宮下さんによる話題提供をまとめました。
次回記事では後半パートの総合討論をまとめていきます。
お楽しみに!