『アースダイバー 増補改訂』と東京タワー
つい最近、
中沢新一氏の『アースダイバー』を読んだ。
この本が最初に出版されたのは2005年ということで、もう15年以上前のことになる。現在は新たな章を加えた増補改訂版が出ている。
アースダイバーとは
さて、アースダイバーとは何かというと、地形や残された痕跡から土地の記憶や無意識に現代に生きる古代の思想を掘り起こすことである。
東京には縄文や弥生時代の遺跡が点在していて、現代社会においても古代人の思想を無意識的になぞりながら街がかたち造られているという。
こうした思考をもって東京を散歩し、古代の思想に思いを巡らしていくという一風変わったお散歩エッセイだ。
この中沢的散歩術は学術的にはどうであれ、独創的で発想力に富んでいて非常に面白い。街を歩き、異なる時代に思いをはせるという二重の意味での旅を楽しむことができる。
その『アースダイバー』に「異文/東京タワー」というコラムがある。
異文/東京タワー
東京タワーの建つ場所は古くは東京湾に突き出した岬であったという。
アースダイバーでは地形に着目し、洪積台地の突端には古代の遺跡をはじめ神社や墓地が多く点在することを指摘する。古代人がこれらを真正な場所なとして意識しており、この思想は現代社会にも無意識に生きているというのが筆者の見解だ。
東京タワーを含めた芝公園周辺も特別な場所であるという。
筆者は「異文/東京タワー」のなかで、自身が小学生の頃に東京タワーを訪れたときに違和感について語っている。東京タワーとその周辺の雰囲気から「この世ならざるもの」を感じたという。
この文章を読んだときに、私もあることを思い出した。
私も小学生のころ、
東京タワーを訪れて筆者と同じような感覚を覚えていたのだ。
首都東京の象徴である東京タワー。
さぞ賑やかで明るい場所だろうと勝手に思っていたのだが、実際に塔の下に立った私が抱いた印象は「なんだか暗い」ということだった。
抱いていた都会の印象とは程遠い、
一種の妖しげな雰囲気を感じ取ったのだった。
その違和感についてのアースダイバー的見解としては、かつて古代人がこの地を霊的に優れた場所として特別視して死者の埋葬地に定めたからだという。
そして現代にいたるまでも古代人の思想が周到されて、古墳や寺院墓地などといった死と葬送に関連する施設がこの地に建てられたのだそうだ。
実際に訪れた時に感じる土地の雰囲気というのはなかなか侮れないものだ。そうした五感から思考を発展させて、埋もれていく歴史や思想を紐解いていくのもなかなか面白いなと思ったのだった。
東京タワーの思い出 或いは蠟人形
ここで少し、東京タワーについての思い出を綴ってみる。
私が幼かった2000年代初頭の東京タワーといえば、古きよき昭和風情が今よりも残されていた。
フットタウンの1階には小ぢんまりとした水族館や広々とした大食堂、2階には浅草仲見世を彷彿とさせるお土産店、3階あたりには何やら謎の別料金入場施設が軒を連ねていた。
今でも語り継がれているのは蝋人形館であろう。
世界の偉人や著名人の蝋人形を展示していたこの施設は、人選にも時代を感じる蝋人形たちが所狭しと並んでいて、実に味わい深かった。
一番記憶に残っているのは拷問コーナーだろう。
他の展示とは異なり、通路とは壁で仕切られた空間があって、扉を開けて入ると中には凄惨な拷問シーンを人形で再現していた。暗闇の中照らされていてひどく不気味だった記憶がある。2度目に行ったときには規模が縮小されていて、覗き穴から見る形式に変わっていた。
2013年には蠟人形館が、2018年には水族館が閉館し、その他有象無象の昭和感漂う施設も時を同じくして消えていった。
ノスタルジーを超えて
内なる昭和は忘れ去られても、東京タワーはある。
「東京」という言葉を聞いて、
頭のなかでどんな景色を思い浮かべるだろう。
私が脳内に描くのは、高層ビルが立ち並ぶ街を空から俯瞰している光景である。そして、その景色のなかに赤色の電波塔の姿を認めるのである。
スカイツリーに本来の役割を譲ってもなお、時代は令和に変わっても、東京の象徴として東京タワーを思い浮かべてしまうのは私だけではないのではないか。
今回の読書案内
アースダイバーを読むならば、震災以降の書下ろしを収録した増補改訂版がおススメ。東京の山手も下町も幅広く触れています。
お気に召したなら、続編『アースダイバー 東京の聖地』もおススメ。コチラは2020東京五輪を意識して書かれた本です。
東京タワーを筆頭に全国に点在する展望タワー。
その多くがバブル以前に建てられ、時代の色を残す遺産です。タワーに興味を持ったなら全国各地を網羅した『日本展望タワー大全』がおススメ。画像満載です。
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