バナナとコーヒー
バナナとコーヒー🍌☕️
「私コーヒーブラックで飲むの苦手なんだよね」
Amikaはカフェでコーヒーを頼むと必ずハチミツをつけてもらう。
「そうなんだ」私は普通にブラックでコーヒーが飲めるので彼女の気持ちがわからない。
「人間ってなんで生きてるんだろう」Amikaはたまに深刻そうな顔でそう言う。
「生きる意味があるからじゃない」私はわかる範囲で答えようとするけど、全て答えられなくてもどかしい。
私はおやつにテレビを見ながら、バナナを食べている。
黄色くて甘味が強い。
そこにコーヒーもセットでつける。
コーヒーを飲むたびにAmikaの言葉を思い出す。
バナナを食べ切るとせんべいを食べる。
テレビはあまり面白くない。
ただゲラゲラ笑っているようにしか聞こえない。
Amikaと喋りたい。
もうAmikaと会えなくなって久しい。
彼女は私に強い口調で嫉妬心を告白して消えていった。
あの子は今ごろどこで何をしてるんだろう。
私は、彼女のことを考えなくなっていた。
パリの街を歩く。
エッフェル塔のあたりで写真を撮る。
そこに派手な格好の人がいる。
同じ職業の人らしい。
「UMINA!」
「どちら様ですか?」
「Amikaよ!」
「Amika!」
「これからヒマ?カフェに行かない?」
「うん、時間あるし、いいよ」
ドライフルーツが人気のカフェに入る。
バナナやキウイ、イチゴなどのドライフルーツとヨーグルトの盛り合わせを頼む。
Amikaはコーヒーを頼む。
私もコーヒーを頼む。
注文を聞いていると、何もつけてもらっていない。
「Amikaはブラックで飲めるの?」
「何言ってるのよ。当たり前でしょ」
その言葉が10年の歳月を物語る。もうAmikaも私も大人になったのだった。
あれからまたAmikaのことをよく考える。
大切な友人だったからだ。
私は仕事中、Amikaから聞いた連絡先を携帯で見てしまう。
この10年間で世界は様変わりした。
飛行機での移動はしやすくなって、地球は小さくなった。
量子コンピュータが普及して、5Gは当たり前になった。
でも、人間の距離は遠くなった。
そして、私はもう新鮮な果物を食べなくなった。
健康に気を使い、痩せている人が増えた。
私は、全ての夢を叶えたけれど、何かを残せたろうか?
私は、Amikaのアパルトマンの前にいた。
「あら、UMINAちゃん」
「宇賀屋さん、Amikaは元気ですか?」
「ええ、疲れて寝てるわ、カラダが弱いから」
「宇賀屋さん、これAmikaに渡してあげてください」
「いいの?ありがとう」
私はAmikaのために毛織物を作って持っていってあげた。
まだ肌寒い季節だから、ちょっとだけ心配だったのだ。
Amikaはすぐ風邪をひいてしまうかもしれないから。
私には時間がなかった。
朝食はシリアルばかり食べている。
もう時間を気にせず話し合うことはとてもじゃないができる身分じゃなかった。
家族は今日本にいて、
仲良く暮らしているはずだ。
私は夢のために家族を捨ててしまった。
でもAmikaは家族を大切にしていた。
あのコーヒーにハチミツを合わせていた時代が懐かしい。
もう戻ることはできないのだ。
私は何もかも変わってしまった。
そして新しい自分になったのだった。
@dior を纏って街を歩いている。
@mariagraziachiuri の服はとても自分を高めることがわかる。
この洋服ほどまでに私が人の人生に与えられる価値などあるだろうか?
きっとないだろう。
偉大なデザイナーに敬意を払いつつ、私は風のパリで詩情を結び合わせていた。
もうAmikaのことは忘れることに決めた。
じゃあね、私の愛しいフェアレディ、一生しあわせでいてください。
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