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注目されている本を読んでみた2024.10

「ようこそ、ヒュナム洞書店へ」ファンボルムさん
韓国の小説です。
冒頭の一文を収集しているので、書いておきます。
「閉店時間を間違えてきたと思しき客が書店の前をうろうろしていた」
仕事を辞めて あてもなく書店を始めたヨンジュ(女性)。最初は無気力だったけれど、本に囲まれて本を読んで元気になってくると、少しずつお客さんも入って来て、常連のお客さんとの交流も愉しみになってくる。いい仕事をするのは給与と休日が必要だとの経験から、高めの給与だけれど休日のしっかりある契約でバリスタを雇ったり、ひたすらたわしを作っている女性を放っておいたり、常連客の息子の話し相手になったりしているうちに、自分次第で書店も人生も充実したものにできると気付いていきます。「セーヌ川の書店主」にも似て、ブックカウンセラー的な面も持ちながら、自分も悩める一人の人間で、人生って何? 愛があれば人生は十分なの? 得意なことと好きなことはどっちをしたらいいの? 結婚と離婚、母子関係など、交流しながらお互いに相談をしあう、この気を遣わなくていい関係がいいですね。途中、「キャッチャー イン ザ ライ」や、題名は出てきませんが「リスボンへ」など、上村が読んできた小説が紹介されていて、気が合いそうと思ったりしました。
年上の女性にどう呼びかけるか、目線を合わせても平気など、アジアや韓国の文化が感じられる描写は、世界市場を視野に入れているようです。日本の小説では、日本の文化を紹介する描写はまず見ないんですけどね。

「月ぬ走や、馬ぬ走い」豊永浩平さん
群像新人賞の受賞作品です。
わけがわからないタイトルなので、受賞していなければ読むことはなかったでしょう。
冒頭の一文
「今日や海んかい行んじてえはならんどお、とオバアからいわれていました」
物語がこれから始まりそうで、気になります。
魂込みの日なので、海から死者が帰ってくるそうで、海に近づいてはいけないのだそうです。けど、子どもはそう言われて却って興味が出て、海に行ってしまう。そこで、いろいろな死者の魂から過去の語りを聞くんです。それが沖縄の現代史を語っているのですが、話があっち行ったりこっち行ったりして、ようやく筋を掴めたと思うと、もう他の時代も視点も異なる語りになってしまうので、上村にとっては読みにくい小説でした。長いエピソードにもっと没頭したい。
語りの終わりの言葉が、次の語りの最初の言葉として重なり合いつつ連なるという手法は面白くて、連歌を思わせるのですが、それがどんな効果を生んでいるのかはわかりませんでした。魂の世界には時間も場所も区切りはないという意味なのか、次から次へと魂の語りを聞かされているということなのか。
アメリカから短刀を返す話は、日本に送ることまでするのに、持ち主に返さなくてもいいからというのはリアリティがないかなと思います。よく旗や手紙、絵などの返還が遺族になされるというニュースを耳にしますものね。
この作品の「お」と思うところは、いろいろな口調で語り分けているところです。

「君のクイズ」小川哲さん
冒頭の一文「白い光の中にいた」
TVの収録でスタジオにいるという設定です。
クイズ番組の決勝で、相手の本庄絆が「問題」と言われてすぐに解答ボタンを押して正解を告げるというところから、1000万円をもらい損ねた主人公が、ヤラセじゃないのか、いや根拠があったんじゃないかという疑問を持ちます。そして、自分の過去や、本庄絆の過去を洗っていくうちに真相に辿り着くというミステリーです。構成はいいなと思いました。
驚いたのは、「アンナカレーニナ」という題名から、勝手にお話を作るというエピソードです。これは上村もしていることだからです。何かを思いついたら、世界中で同時に6人は同じことを思いついていると言われますね。それだけ面白いテーマではあるのでしょう。
クイズ番組はたまに見る程度ですが、それでもこの小説に書かれていることは知っている技術ばかりです。観覧しているお客さんが、クイズプレーヤーを魔法使いのように思っているという考えは、主人公の独りよがりと言うか、この人なんにもわかってない、本当に自分しか見えていない人なんだなと思います。相手の得意なジャンルも調べないし、出題の傾向も調べないし、それが美学だと思っている。それでよく決勝まで行けたなあと思いました。周りの人が彼に対してとてもやさしい。彼が自己中心が過ぎる人物に育った背景として書かれているようです。
「ももはと」と言った瞬間に、平均的な世界史選択の人でも答えはわかるのに、世界史が得意な主人公が間違えるというのはリアリティがないと思いました。著者がクイズを作る段階で、たぶん著者が世界史が得意で、けれど以前に問題集か過去問で間違えた問題を書いているような気がするんです。
「森の番人」と言った瞬間に素人でも答えがわかるのに、これが千葉県に住んでいた人のための出題というのもリアリティがないと思いました。
前作の「地図と拳」は広がりがあったし、緊張感もあったのですが、今回はクイズプレーヤーの知識の相場がしっかりしていれば、もやもやとせずに読めたのに惜しいなあと思いました。

「光のとこにいてね」一穂ミチさん
素晴らしいー。
いいとこのお嬢さん 結珠ちゃんが小学校二年生の時に、母に連れられて、うらぶれた団地に行って、へんなおじさんに「この子」と紹介されるところからはじまります。階段の下で待っていてと言われて、けど、すこしぶらぶらしていると、同い年くらいの女の子 果遠(かのん)ちゃんが団地の柵から落ちそうになっていることに気づいて、必死で腕を伸ばして受け止めようとする。そこから二人の関係がはじまります。何度か通ううちに、雲間から差す「そこで待ってて。そこの、光のとこにいてね」と言われたのに、母に強引に連れ帰られてしまう。
この母親、いやな人ですね。自己中心的すぎるし、管理主義者で、娘さんを縛るんです。気に入らないものは、娘に捨てさせる。
結珠はなんとなく 果遠ちゃんのことを思っていて、果遠ちゃんは結珠ちゃんのことをすごく思っていて、再会するのですが、これが久しぶりすぎてビミョーな関係というのが、いいなと思いました。
ラストシーンでは 結珠ちゃんが殻を破った感じでエナジーを感じました。

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