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湯の入れ方で変わる抹茶の香り

 皆さんは抹茶を点てる際、どのように湯を注がれてますか?
 
 柄杓から茶盌に入れる際、柄杓のどこからどうやって茶盌に湯が垂れているか、意識したことはありますか?
 
 実はこれを意識するだけで、香りの立ち方が「ほんとに!?」というほど変わります。
 
 それは、「柄杓の合の尻に湯を回して、合の口から抹茶の上に落とさない」という方法です。

茶筅摺りに湯を垂らす

 茶筅摺りに湯を垂らすようにするのには3つの利点があります。
 
 一つ目は、抹茶は高い温度のお湯で点てると渋みが増してしまいます。これを、合の尻に回してゆっくりと垂らすことで頃合いの良い湯温にすることが出来ます。
 
 二つ目は、抹茶の上に湯を掛けるとダマが出来やすいということがあります。微細粉末に湯を垂らすと表面張力で水滴が出来たりしますが、これがダマの原因です。折角茶杓で固まったダマを潰したのに(当流では茶を入れたあとに茶杓の櫂裏でダマを潰して均し、露で耕します)、今度はお湯でダマを作ったのでは本末顛倒です。
 
 三つ目は、抹茶の上にお湯を掛けると香りに蓋をしてしまうことになります。横から湯を入れると、下側から湯が染みて行くので、香りに蓋がされず、茶筅を入れた途端、ブワッと香りの爆発が起きます。
 
 一度騙されたと思って、これをやってみていただきたいです(^^)/
 
 ちなみにTwitterの友人が試してくれたところ「香りどころか味も良くなった」と言っておりました。

道具の形を見て気づけ

 こうしたことは、茶道では教えることではありません。
 
 え?と思う方がいらっしゃるとは思いますが、茶道というのは、修行ですので、自分で考えて答えに気づき、実践してみて正しいかどうかを試し、その後師匠に質問するものなんですね。
 
 道具の形をつぶさに見て、どうしてこういう形をしているのか、何でこの形でなければならないのか、その理由は何なのか、自分で考えることが「稽古」です。
 
 何も考えないならばそれは「練習」に過ぎません。

稽古

 稽古の稽という漢字は「のぎへん」+「ゆう」+「」から成り立つ漢字です。
 
 尤は「とがめる」という意味を持つ手の先端に棒が付いた象形で、「手を棒で叩かれている」様子を表しています。
 
 旨は「うまい」という漢字で、「うまい」と禾と合わせて「食べ物が熟するとうまい」ということから「作物が成長しきる=すみずみまでいきつく」となり、尤と合わせて「いきつくところまで考えをめぐらせないと手を叩かれる」というところから「はかる」「かんがえる」という意味になりました。
 
 古は「さい」+「たて」からなる漢字で、「祈器を用いて祝詞を守る様子」を意味する様子を表し、「いのり」を意味していたものが、「ふるい」「かたい」という意味にも使われるようになりました。
 
 口は祝詞という口で唱えるものの意味があり、干は盾と一から十まで=すみずみまでの意味があり、転じてふせぐ・まもるの意味を持っています。
 
 いつしか祝詞だけのいのりが古くなり、祈や禱という字が用いられるようになって「ふるい」や「かたい」の意味に変化しました。

 稽古を読み下すと「いにしえからをかんがえる」となります。
 
 つまり、茶道は「何故この手があるのか」「この手は正しいか」「何故この順番なのか」「この手の意味はなにか」「なんのためにこの所作をするのか」を己でかんがえる必要があります。
 
 茶道とは「愉しいものではない」のです。
 
 真理に辿り着くために考えて稽えて、ありとあらゆることから答えを自分で導き出さなければならないものということになります。

茶盌の形に注目

 私がこれに気づいたのは、茶盌の形の意味を考え始めたからでした。
 
 最初に着目したのは「茶溜まり」です。
 何故茶溜まりはあるのか、この大きさに理由はあるのか、いつ頃生まれたのか。
 
 その後、茶筅摺りに抹茶を広げないことに気づき、茶筅摺りに湯を落とすことで、温度の調節も出来、抹茶がはじめから滑らかであることに気づきます。
 
 逆順に発見するのですが、点て方を変化させてから、この湯を垂らすことに気づいたわけです。
 
 点て方を変えたことは茶溜まりに着目したことに関連しますが、この記事では触れないことにします。それはまた別の機会に。
 
 この茶筅摺りは茶筅の穂先をここで摺ることから名付く訳ですが、なぜ茶筅摺りというのでしょう?
 
 腰、高台、口造、胴、高台脇、見込み、茶溜まりは、まぁ読んで字の如くで、特に説明の必要はないでしょうし、茶巾摺りも茶巾で摺るところですから特に説明の必要はないかと思います。
 
 しかし、茶筅摺りは「穂先を茶盌に強く当てるな」と教わることから考えると変な名前です。
 
 ではなにか?
 
 これは点て終わったあとののの字で出す前に「茶を整える」所作のことを意味しています。

 点て終わったあとは、時折はねた抹茶が見込みに飛んでいたりします。そして、穂先を茶筅摺りの上を滑らすことで、綺麗に刮ぐことができます。これをするための場所として「茶筅摺り」があるということになります。
 
 こうした観察は、何も茶盌にだけ必要な訳ではありません。様々な道具にも必要です。

まとめ

 とにかく、一度騙されたと思って、柄杓の合の尻から、茶筅摺りに湯を垂らして見てください。
 
 アナタのお茶の香り、一段と良くなりますよ。

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