映画館デビューがだいぶ遅かった話
子どもの頃に映画館に行った記憶がまったくない。
年代的には、『もののけ姫』とか『千と千尋』、『ハリーポッター』などが流行ったが、私はどれも観ていない。
クラスメイトが「千と千尋観た?ハク超かっこいいよね〜」などと盛り上がっているのを横目に、私は「え、映画ってうちの街でも観れるの?東京とかじゃないと観れないと思ってた…」と初歩的なショックを受けていた。
物心ついてからずっと、『映画館』という存在に全然触れてこなかったので、「映画館で映画を観る」という発想が、初めから欠落していたのだ。
私が映画というものに触れてこなかった理由としては、実家がド田舎で映画館が遠かったこととか、身内に障害者が居て、親がそちらにかかりきりなので、なかなか連れて行ってもらえなかった、というのがある。
その代替として?だったのかは定かでないが、親は、近所のレンタルビデオ屋にはよく連れて行ってくれた。
ディズニー作品や『クレヨンしんちゃん』の映画などよく借りた。
それでわりと満足していたこともあり、「映画観に行きたい」と親におねだりすることもなく、小学校時代は過ぎて行った。
中学時代は、一人でフラフラ遠出することもあったが、やはり「映画館で映画を」とは思わなかった。
なんとなく「未成年は親の許可がないと映画のチケットが買えないのでは」という変な思い込みをしていたこともあり、レンタルや中古DVDで映画欲を満たしていた。
その思い込みが解け、初めて映画館に行ったのが、高校生のとき。
何かの懸賞でチケットが当たり、ひとりでミュージカル映画を観に行ったのだ。
いくら田舎といえども、友人らは当然、映画館に行ったことのある人が大半な訳で、「これでようやく人並みになれた…」とホッとしたのを覚えている。
大人になった今も、私には未だに「自分が映画に行く」という発想が欠けているように思う。
子が生まれてからは、ミニオンやトーマスなどの映画を観に行ったり、仮面ライダーの夏映画を毎年観にいくなど、以前からは考えられないほどの進歩を遂げているが、個人としてはいまだに呪縛にとらわれている面がある。
「自分が観たい映画を見に行く」ことに、妙な罪悪感というか、落ち着かなさを感じる。
なんかこう、「え、いいのかな・・・」とか、「私なんかが観て大丈夫なのかな・・・・」などと思ってしまう。
そんな私であるが、たった一度だけ、レイトショーを観に行ったことがある。
夫がまだ単身赴任をしていて、子が幼稚園のお泊り保育で不在だった夜、私は貴重な自由時間を、当時公開中の『アウトレイジ』に全ベットした。
車で行ったので、映画を観ながらお酒を飲めなかったのが心残りであるが、劇場の大画面で北野映画を観て、名だたる俳優達の怒声を浴びられたことは、今でも大変良い思い出として心に残っている。
またあんな風に、家族のことを忘れて映画をどっぷり堪能したいものだが、今住んでいる場所は映画館まで少し遠い。
せっかく平日ヒマな主婦なのに、行き帰りの時間を考えると「あっ、もう帰らないと子どもが学校から帰って来てしまう」とかソワソワしながら映画を観る羽目になってしまうし、休日は家族優先で過ごすので、一人時間の捻出が難しい。
結局、映画を気軽に観られない状況は続いている。
そういうわけで私は、「暇だから映画でも観ようかな~」とフラッと映画館に立ち寄るとか、気の合う友人や恋人と単館系映画を観て、パンフレットなんかも買っちゃって、喫茶店で夜中まで感想を語り合う・・・・みたいなありふれた経験に、異常なまでの憧れを抱き続けているのである。