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菫 今村樹二亜 ~漱石の『文芸と道徳』を読む~

こちらは前文(二ツ池七葉)です🖊

以下、本文(今村樹二亜)です🖊

エッセイリレー企画ではありますが、今回はエッセイではなく一つの詩を載せたいと思います。

漱石の文章に負けず劣らずのものを書いたダフネのメンバーに大きな謝意と敬意を表します。

エッセイを書いている際、休憩がてら読んだ本に、ちらりと菫(すみれ)の花が載っていました。ふっと今年の初夏を思い出しました。灰色の住宅街に咲く、一輪の菫。その小さな紫は、白黒めいた自分の心を吹き飛ばしました。

「住みにくさが高じると、安い所へ引越したくなる。どこへ越しても住みにくいと悟った時、詩が生まれて、画ができる。」

夏目漱石『草枕』

好きな言葉です。角が立ち、棹に流され、窮屈になった場所に少しの間いました。詩と呼ぶには詩的でなく、散文と呼ぶには相応しくないものができました。

後で知ったことですが、夏目漱石も菫の花を題材に一句詠んだそうです。

菫程な 小さき人に 生れたし

敵わぬ。そう思っている次第です。


すみれ

向上心とありのまま
ふたつの狭間に人はいる
この狭間のなんと大きなことよ
そうして人はこの間で
打たれて
揉まれて
殴られる

殴られて
殴られて
僕等は強くなるけれど
人に優しくなるけれど
殴られてこなかった優しい人をみて
知らぬ間に握り拳を作る自分は
なんと弱く
なんとみすぼらしいものか

目の前に咲く菫の花よ
お前の強さは美しい
お前は俺を殴りもしなけりゃ
踏まれてもなお不平は言わぬ

花を愛でても世間は変わらぬ
俺の心は変わり過ぎる
せめてあの世へ旅立つ時に
菫の花を見ていたこの記憶だけ
一緒に連れていってください


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