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創作

5
短編小説です。
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320L冷蔵庫

320L冷蔵庫

職場と実家を行き来するだけの日々。
唯一の肉親である母の介護が、生活の軸だった。

帰宅した実家のリビングには、衣服と食べた終わったカップ麺、飲みきった空の2Lペットボトルなどが散らばっている。
これは、私がやったもの。

冷凍庫には、凍った肉の塊がいくつもある。カットされた玉ねぎやほうれん草もある。
それは、元気なときの母が残したもの。

冷たいフローリングをストッキング越しで感じながら、まるで

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B5ノート中横罫

B5ノート中横罫

『私には2歳年上の姉がいた。姉は美人で、腕も足も長くて、肌が白くて、頭も良くて運動もできる。美しい母と父によく似ている。それに対して私は、鼻は大きく目は細く、歯並びも姿勢も悪い。骨格なんて大柄な祖父にそっくりだ。同じ親から産まれてきて同じ環境で育ってきたはずなのに、どうしてこうも違うのだろうと、ノートに毎日“殺して”と書いていた時期もあった(もう捨てられたけれど)。

前、Twisterで変な都市

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冬が終わって

冬が終わって

 10年経った今でも、春になると、あの子のことを強く思い出す。

 春は嫌いだ。

 もちろん春が悪いわけではない、春と私の相性が悪すぎるだけだ。春はただ、そこにいるだけ。そこに私が勝手に存在して、たまたま運悪く嫌な出来事が起こっているだけ。

 高校2年生の2月も終わりの頃、放課後の学校で、他クラスの私を見つけるなり彼女は言った。

「わたし、転校することになったよ〜」

 きれいな長い黒髪を束

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遠くからみてた

遠くからみてた

 いつもあなたのことを見ていた。

頭が良くて運動が出来て顔もよくて、授業中はいつも真剣に先生の話をきいて、真剣に板書をしている。
いつも、茶色に染まったあなたのふわふわの髪だけが、こっちを見ていた。

席替えのとき、みんな嫌がる一番前の席を、あなたはいつも自ら選んでいた。

 通学はいつも自転車で、片道30分ほど。
交通の便がやや悪いので、自転車で通うのが一番早い。
 いつも絡む二人の友達がいる

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遠くからきこえる

遠くからきこえる

 体中が汗にまみれて気持ち悪さを感じながら目が覚める。
 スマホで時間を確認すると8:31、職場についていなければいけない時刻で、一瞬にして冷や汗をかくが、そういえば今日は土曜日で、仕事が休みだった。トイレで用を足し、再び眠りにつく。

 次に目覚めたのは昼の12時頃、寝過ぎで平日のときよりもだるく感じる体を嫌々起こす。
 トイレに行く途中でふと台所に目をやると、昨日の自分から、家事のプレゼントだ

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