Technics EAH-AZ100レビュー【クラスを超えた高音質】ワイヤレスイヤホン
TWS市場で存在感を増すテクニクス
テクニクス(Technics)はパナソニックのオーディオブランドで、80年という長い歴史で磨き上げられた高音質な音響機器メーカーというイメージがあります。そのテクニクスが2020年4月に初めて発売した完全ワイヤレスイヤホン(TWS=True Wireless Stereo)がEAH-AZ70Wでした。
2020年初頭は前年に登場したApple AirPods Proの爆発的人気の影響でANC(アクティブノイズキャンセリング)を搭載したTWSが市場を席巻していました。王者Appleを追撃すべくBOSE、ゼンハイザー(Sennheiser)、SONYが同価格帯に続々と新製品を投入して三つ巴の争いの様相を呈していたところに、突如テクニクスが参戦。
AZ70Wは接続安定性やバッテリー放電等の課題を残しつつも、音質と機能性の高さによって老舗メーカーの実力を知らしめることとなりました。そして2023年には名実ともにフラッグシップ機となるEAH-AZ80を発売し、その総合力の高さから特に評論家の間で高く評価されました。
テクニクスの音作りは原音に忠実かつナチュラルな方向性であり、他社よりも音の個性は控えめ。AZ80はもちろん、ミドルクラスのAZ60M2やエントリーモデルのAZ40M2もテクニクスの世界観を損なわない完成度で評価はすこぶる高かったものの、ブランドイメージやファッション性を重視する若者や女性からの人気という点ではライバルに対してやや厳しい戦いを強いられていた印象があります。
AZ40M2では定番のブラック、シルバーに加えてピンクゴールドやブルーなど多色展開をしていることからも若者層への訴求に注力しているのは明らかで、今後のブランド力向上がテクニクスの競争力強化のカギになりそうですね。
テクニクス製品の強み
私自身かつてはAZ80とAZ40M2をしばらく愛用していました。どちらも満足度の高いTWSでした。
パナソニックは日本の家電メーカーの中でも特に品質管理が厳しく、どの分野の製品も信頼性に定評があります。他社より割高という意見も散見しますが、優等生的なバランスの良さがパナソニック製品の最大の強みでもあります。
テクニクスのTWSもこうした長所は共通しています。工業製品としてのレベルが全方位的に高い。品質や操作性・耐久性が優れ、性能が安定しているので日常生活の中で気軽に扱うことができるのです。それが市場での高評価につながっていると思います。
ハイエンド有線イヤホン「EAH-TZ700」の系譜
前置きが長くなりましたが、名機AZ80に代わり新たなフラッグシップ機として登場したのが今回紹介する「EAH-AZ100」です。この最新のTWSには有線イヤホン「EAH-TZ700」の血統が息づいています。
2019年11月に発売されたテクニクス初の有線イヤホンであるTZ700は、プレシジョンモーションドライバーと呼ばれる口径10mmのダイナミック型ドライバーを搭載。スピーカー分野で画期的な技術として注目されていた「磁性流体」を小さなイヤホンに採用した点が最大の特徴でした。新開発の特殊アルミニウム振動板との組み合わせにより、イヤホンでは異例の3Hz~100kHzという広帯域再生を実現。その歪みが少なく生々しい音は評論家を驚かせました。
AZ100はこのTZ700の高音質技術の中核となる磁性流体ドライバーを世界で初めてTWSに採用した製品になります。新たな武器を手に入れて誕生したAZ100は、AZ80からどのような進化を遂げたのでしょうか。
ファーストインプレッション
普段は他の家電も含め新製品を予約してまで購入することは滅多にないのですが、今回は話題性抜群の商品ということもあって事前に予約。無事に発売日に入手できました。
感動のご対面!パッケージが小さくてびっくり!箱を開けたら充電ケースもスリムになっていて二度びっくり!ひと目でAZ80からの変化を感じます。
イヤホン本体もかなり小さくなった印象です。小型化によって耳の小さな人にもフィットしやすくなったのは嬉しいポイント。デザインはAZ80のシャープなフォルムから一転、角が取れてやわらかい印象になりました。特にシルバーは可愛くておしゃれな雰囲気があるので、女性も選びやすくなったのではないでしょうか。
本体が丸くなって取り出しにくい!とお嘆きの方は、公式で案内されている下図の方法をお試しください。
装着感
AZ80の特徴でもあったコンチャフィット形状を継承。耳の形により人を選ぶこともあるようですが、私の耳には驚くほど違和感なくフィット!頭を振っても落ちる気配はありません。AZ80よりも外側への出っ張りが小さくなったおかげで、存在感が強すぎることもありません。
音質
再生環境は以下のとおりです。
スマートフォン motorola razr 40 ultra(Android 15 / Snapdragon™ 8+ Gen 1)
再生アプリ PowerAmp
音楽ファイル 16bit/44.1kHz ロスレス、24bit/48kHz ハイレゾ(ともにFLAC)
最初に専用アプリ「Technics Audio Connect」をインストール。起動後に最新のファームウェアにアップデートしました。AZ100を接続後にLDACを有効にして、ANCはオフ、EQはダイナミックで聴きました。
第一印象は、低音の力強さ。深く沈んだ量感たっぷりの低音です。スネアやベースがズンズンと押し寄せる感じで、広がりのある音場を作り出しています。目を瞑ると、まるでコンサートホールやライブハウスにいるような臨場感があります。
中高音は低音が作る音場の中心からせり出す感じでややタイトな印象です。ヴォーカルが主張しすぎず演奏音と調和しているため、それぞれの楽器の音色がよく聞こえます。聞きなれた音源でも、こんな音が鳴っていたのかと新鮮な発見がありゾクゾクしました。
全体的な印象としてAZ80の特長であった高音の煌びやかさが影を潜めたように感じますが、これはおそらく音の輪郭が滑らかになったからだと思います。
AZ100の音作りはデジタル的なキリッとした音ではなく、アナログレコードでも聴いているかのような、柔和な伸びやかさを感じます。最初はボワついているように感じたものの、耳と脳が馴染んでいくと音の情報量の多さに圧倒され、とてつもなく味わい深い音に変化してきました。
磁性流体ドライバーによって中高音の再生能力が向上したことで低音本来の量感までも再現が可能になった、ということでしょうか。AZ100のキャッチコピー「ありのままの音が生きる」にはそんな意味が込められているような気がします。
ちなみにイヤーピースをCOREIR(コレイル)BRASSに替えてみたところ、高音の輪郭が少しくっきりして自分好みのいい感じになりました。
ノイズキャンセリング
ANCをオンにすると音のバランスが変わります。特にアダプティブ機能は外音のノイズに追従しながら断続的にキャンセル処理をするので、ある程度音が変化するのは仕方ないですね。
しかし不思議とANCオンの音も悪くない…解像感はやや弱くなりますが、ANCオフ時よりも全体のバランスがいいようにも思えます。あくまで第一印象ですので、参考程度にお願いします。
いずれにしても電車内などANCが必要になるような環境で使う場合、微妙な音の変化に目くじらを立てるよりも、不快な雑音は抑えられているか・閉塞感や圧迫感はどうかという点を第一に評価すべきかと思います。
そういう意味ではAZ100のANCはいい塩梅だと思います。AppleやBOSEほど強力ではありませんが、AZ80よりも確実に進化しています。従来よりも高いレベルで雑音を除去しながら閉塞感はほとんどありませんでした。
外音取り込み機能も充実しており、周囲の音を取り込む「トランスペアレントモード」に加え、音楽を停止して話し声やアナウンスを強調して取り込む「アテンションモード」を新採用。利便性を向上しています。
充電ケース
AZ80と比較すると、少しスリムで角が丸みを帯びた形状になったので携帯性が向上しています。もちろんワイヤレス充電に対応しています。表面の仕上げが変更されておりプラ感が目立つようになったのはちょっと残念。
機能性
Technics Audio Connectで各種設定変更が可能です。従来5個だったイコライザーのバンド数が8個になり、さらにカスタムイコライザーの保存枠が3個に増えたのは嬉しいですね。
AZ80でも好評だった3台同時マルチポイント接続(LDAC使用時は2台まで)が進化し、接続時の優先度を細かく設定できるようになりました。接続先の機器ごとに個別設定できる音声アナウンスの種類も増えています。タッチ操作のカスタマイズ設定も細かく指定できます。
外音取込オン時の周囲の音はとても自然に聞こえますし、バッテリー性能や通話性能も進化しています。使い勝手の良さはトップクラスといえます。
おまけ
シリーズで初めて空間オーディオに対応したということで、Dolby Atmosを試してみました。ヘッドトラッキング機能によって頭の向きに関係なく音場が固定されるので、映画やライブ映像との相性がいいですね。その場にいるような臨場感を味わうことができて純粋に楽しいです。これはSONYの9.1chサラウンドヘッドホンシステムMDR-HW700DSでのオーディオ体験に近い感覚がありました。
当時『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』を部屋を暗くして観ていたのですが、砂嵐に視界を奪われるシーンで、あまりの臨場感に部屋が砂だらけになってしまったと錯覚して思わず床を手で拭いてしまったことがあります。ちょっと恥ずかしいですが、嘘みたいな本当の話です。
まとめ
今回のAZ100はAZ80ファンの私としても期待値はかなり高かったのですが、想像以上の完成度に満足しています。
私がいままでに使った市場価格4万円前後のTWSではゼンハイザーのMTW3(MOMENTUM True Wireless 3)が最も音がエモいモデルでしたが、AZ100はそれを上回るエモさでした。
理屈やスペックでは表せない音の良さ。どんな音楽でも違和感が無く心地よく鳴らしてくれる懐の深さがMTW3の魅力でしたが、AZ100はそれを想起させると同時にさらなる高みへ連れてきてくれた気がします。
AZ80とは音作りが少し異なるため、買い替えを検討しているユーザーの評価は大きく揺れそうですね。とはいえNoble AudioやHiFiMAN等の超高価格帯のTWSを所有している人でなければ、AZ100は現時点でのベストな選択肢のひとつになると思います。
Technics EAH-AZ100はクラスを超えた高音質とあらゆるニーズに対応できる守備範囲の広さを兼ね備えた、テクニクスの新フラッグシップに相応しいTWSでした。