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90分くらいのハッピーコメディかな?と思って再生したら147分の地獄絵図だった 映画メモ『逆転のトライアングル』
『逆転のトライアングル』
監督:リューベン・オストルンド
これね、ポスター画像をパッと見て、きっと90分ちょっとで終わるドタバタした感じの楽しいコメディかな~と思ったんです。タイトルも軽やかで可愛らしいし。
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よく見るとパルムドールを獲っていると書かれています。パルムドールってなんかこう、一筋縄ではいかないイメージがあるので、大ヒントだったと思うんですけど、そこに気が付かずポップなイメージに惹かれて選んだわけです。見終わってから改めてみるとこの飛び散ってるやつ……ちょっと!!!!!!!あのさあ!!!!なんですけど。
というわけでこちらは2022年カンヌ国際映画祭にてパルムドールを受賞した147分の大作ドラマです。愛用の映画アプリ・フィルマークスでは「ドラマ」と分類されておりますが、私はコメディだと思ってます。だいぶブラックな。
ポスターの下にあらすじが書かれています。セレブを乗せた豪華客船が無人島に流れ着きますが、サバイバル経験のないお金持ちたちは何もできません。そこでリーダーとなったのは、魚とりも火起こしもできちゃうトイレ清掃の女性だった…!というのがあらすじなのですが、そこに至るまでの濃さがすごい。
このお話は3幕構成となっています。1幕ではメインの登場人物である、モデルのカップル・カールとヤヤの喧嘩のお話。ヤヤちゃんはトップモデルでバリバリお金を稼いでいますが、カールはあんまり売れてないみたい。そんな2人がある夜レストランで食事をしたとき、お金をどちらが払うかで揉めてしまいます。この揉めてるシーンが、もう…疲れる(褒め)。喧嘩って、疲れるよね。でもなんか、「喧嘩のシーン」でイメージするようなやり合いじゃなくて、あ…こういう喧嘩って、こんな空気だよね…という、いや疲れるんだそれって(褒めてます)
なんやかんやあって2人は豪華客船の旅に出かけます。そこではお金持ちが優雅に過ごしたり、ちょっとしたことに文句をつけたり、乗組員に無理を言ったり、スタッフにはスタッフの思惑があったり…この2幕めの船のシーンも、ひどい(褒め)。画的にちょっとお食事は控えたほうが良さそうな時間です。私はこの2幕が全体的に地獄のようだなと感じました。お金持ちとそれ以外。サービスを受けるだけの人、提供するだけの人。命令する人とされる人、老人と若者、男性と女性、黒人白人アジア人…さまざまな違いを持つ人たちが、広い海に浮かんだ船の中にギュッと集まっている。世界の縮図です。いろんな立場があるけど、みんな同じ人間。条件が重なれば、上からも下からもいろんなものが出ます。そこにセレブも労働者もないんだ。なんの話なの?
そしてまたなんやかやあって無人島での出来事を描く第3幕。船の中ではお金持ちのお客が一番えらかった。その次に船のスタッフの立場が上の方の人、その下が掃除係など雇われの労働者。このバランスが、無人島でのサバイバルによって逆転してしまいます。3幕はその立場が変わってしまった時に誰がどうなるかという、人間の本質を垣間見るパートです。トライアングルという言葉もここで効いてきます。
私はこの作品、終わり方がとても印象的で、好きでした。最後の言葉の後、どうなったんだろう。選択肢は大きく分けて2つだけど、どちらになっても多分、良くはない。どっちの地獄に進んだのだろう。モヤモヤした気持ちが残る。最後の彼女の小さな後ろ姿、私はすごく頼りなく感じて信じたくなりました。でも、こちらが望むことと、あちらが「してあげたい」と思っていることって多分一致はしない。だって全然違う世界で生きてきたんだもん。
どんなに協力して苦難をともに乗り越えたとしても、根本のところはやっぱり違う。分かり合えないのかも。分かり合えてほしい。無理かも。どうだろう。どこまで考えても答えはでないし、それがこの世界、社会だなと思いました。
見終わってみると、すごく面白かったけれど、147分って長い。そしてお話の面白さと同じだけ、地獄絵図のインパクトが強い。もう一度見るにはかなりの体力が必要だし、この作品を誰に勧めよう…というのも難しい。友達にみてみて!とは言いにくいけど、でももし「この作品気になるな~」という人がいたらば、それはぜひ観て…感想を聞かせて……という気持ちです。
この作品、別の人が作っちゃったら90分くらいになりそうな感じもするのですが、きっとこの監督の持ち味ってこのあらすじにも書かれるサバイバルシーンに至る前の、素人の私が「この辺ちょっとつまんじゃったりできないのかな」と思っちゃうような、そこなんだな…!と考えを改めました。実は私、リューベン・オストルンド監督の前作『ザ・スクエア 思いやりの聖域』を何度か再生しているのですが、ついついウト……となってしまい、最後まで観れないままでいます。こちらもきっと、同じだ。私はきっとこれを最後まで観た時に何か衝撃を受けるんだ。眠くて仕方なかったところが、あとから思い出して味がするようになるんだ。『逆転のトライアングル』を観て、そう思いました。近い内に挑戦したいと思います。