遠足の日の朝
この日、次男は朝から興奮をかくせずにいた。
本当は5時から起きてお弁当作りを見守りたかったらしいのだが、早すぎると私に止められ、渋々、なら5時半に起こしてね、おにぎりはオレが作るから。と宣言。
言葉通り5時半に飛び起き、おにぎりを作った。
おやつよし、お熱よし。ハンカチ、よし!
行ってきまーす!
お兄ちゃんより5分も早く家を出た。
遠足、どんなんやったか話聞かせてねー、と私も夫も微笑ましく背中を見送り、出勤する。
夫に駅まで送ってもらう車の中で、次男、今朝ほんとは5時10分くらいにもう目が覚めて、一度布団から起きてきたんやけど、まだ早すぎるからちゃんと起こしてな、って布団戻ってたよー、よっぽど楽しみやったんやねー、なんて喋っていた時。
ん?
私の携帯が鳴っている。
お義母さんかな?
電話は、近所のお友だちのママさんからだった。
あれ、今日お休みの連絡かな。
その時はまだ、いつも通り子ども誘いに行かせちゃったなぁ、なんて気楽な気持ちだったが、いざ電話に出てみると、知り合いのそのママさんの声のトーンは、予想してた以上に、高くて早口だった。
「あ、□□(次男)くん、今さっき、家の前のところで転んじゃって!
ブロックで頭打ったみたいで、目のところ切れてて、今血はティッシュでおさえてるんやけど、目の上のところもちょっと腫れてて‥。病院連れてった方がいいかも‥」
次男〜〜!?!
ありがとう、とりあえず速攻で向かいます!!と返事して、そこから、近くの病院に受診可能かどうか電話で問い合わせしながら、今来た道を戻る。
頭打った、と言うのが一番心配だけど、まず本人の様子をこの目で見ないことには。お友だちのママさんがいてくれて良かった、夫がいてて良かった、電話にすぐ気づいて良かった。いろんなことが短時間に同時進行で頭をかけめぐる。私も夫も、まず大丈夫だろうかということの次に、思ったことは同じだったと思う。
何で次男‥
何で今日‥。
慌ててお友だちのお家に駆けつけると、玄関先で、連絡をくれたママさんが、一生懸命次男の血を押さえたり、なぐさめたりしてくれていた。近所とは言え全てのお友だちの親御さんの連絡先を知っている訳ではない。今回は、たまたま自治会で役員をしていた関係で、互いにラインを交換していた。普段から笑顔の素敵な、優しそうな人だなぁと思っていたが、今回そのお母さんが着いていてくれてどれだけありがたかったか‥
泣きじゃくっている次男。
転んだ痛さも、ショックももちろんだが、頭の中遠足のことでいっぱいなのだろう、ということは表情で分かる。今何時?バスって何時に出る?病院行ったら遠足間に合う??泣きながら、必死で聞いてくる。
うんうん、そやなぁ、病院行ってから考えよか。あいづちは打ちながらも、その場にいた私、夫、ママ友さん皆が同じことを考えていたに違いない。
これは、遠足無理やな‥
数時間後。
ようやく診てもらえた形成外科で、次男はまぶたの上を数針縫うことになった。待ち時間の長さに、泣き止んで気も紛れていたけれど、麻酔のお注射をしましょうと聞いて再び号泣する次男。
ベッドに寝かして私はお手手をギューしていたが、あんなに泣く次男を久しぶりに‥と言うか、初めて見たぐらい。泣き叫ぶ次男に、先生と看護師さんは手際良く処置してくれ、おかげでそこからはとんとんと進んだ。がんばった次男に労りの言葉とニッコリ笑顔と、あとお注射の前に欲しいといった動物シールもくれた。ありがとうございます。
お会計を済ませ、お薬を受け取ってから、夫は次男と私を家まで送り届け、出勤した。
帰りの車で夫が話す。
「痛かったなぁ。よくがんばったな。パパも小学生の時ひじガラスで切って縫ったからよく分かるわ。血ブシャーって出て止まらんかった。あれ、今思えばひじで良かったなぁ‥。麻酔の注射は1回目が一番痛いんよな。2回目3回目はだんだん痛くなかったやろ?」
2回目も3回目も泣き叫んでたけど‥
(それよりガラスで切ってブシャーって、怖!
子どものケガ、怖!!)
がんばったね。
「遠足行きたかった。」
うん、行きたかったね。
今度、パパに同じとこ連れてってもらおうか。
「うん。連れてってもらう。」
お注射もがんばったし(まぶたのところに刺す麻酔の注射、恐怖以外の何物でもなかったろう)、あんなに楽しみにしていた遠足に行けないという哀しみにも、耐えようとしている次男が健気で、思わず何かしてあげたくなる。
‥お弁当、ベランダで食べる?
ピクニックみたいに。
「食べるー!」
くいついた。
「ママは、ママじゃなくて、お友だちってことな。○○(私の名前)ちゃんって呼ぶで。○○ちゃんはおやつ持ってきた?オレは、チュッチュグミとカギチョコとおくすりラムネにしたでー。一緒におやつ食べよなー!!○○ちゃんはお弁当ある?あ、さっきコンビニで買ったやつか。美味しそうやなー。オレは、お弁当と、ほんとはお茶やけど、さっき買ってもらったジュース飲むわ。味見したい?」
ということで、急きょ、次男と私との遠足ごっこ。
ベランダにレジャーシートを敷いた。
時間は正午。ちょうどシートの真ん中辺りで、ひなたと日陰が分かれている。足寒いから足はこっち、と、嬉しそうにお弁当を広げる次男。
「あー、何か中身ころがってるー。」
彼が盛大に転んだ為、お弁当の中身はシェイクされ、ウインナーはマヨネーズ味、ナゲットはパイナップル味になっていた。
「おいしいわ。」
ごめん,パイナップルもう少しシロップの水切っといたら良かったな。
「ううん、おいしいで。○○ちゃんも、おいしい?」
あ、うん。おいしいー!
彼の中ではまだ、お友だちと遠足の設定が続いていた。
#この経験に学べ
「子どもは、遠足の朝、嬉しすぎて転んで流血するから注意しよう」
彼が今日本当に書いた日記はこちら。
今度、パパに連れてってもらおうね。
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