アメリカのイスラエル愛 〜 バイデン政権になろうが変わらぬその愚かさ
1. アメリカとイスラエルの異常な関係を象徴する、イスラエル首相府のツイート
以下に 4つのツイートを掲げる。1) は約1年前、2020年2月12日(現地時間)のイスラエル首相府のツイート。2) のツイートのスレッド内のもので、イスラエル首相ベンヤミン・ネタニヤフ Benjamina Netanyahu の声明である。
「近年、我々はアメリカの殆どの州において、イスラエルをボイコットしようとするものに対しては、それが誰であれ、強力な打撃が与えられることになるということを決定づける法律(の制定)を促進してきた」と、アメリカ合州国(以下、アメリカ)ではない、すなわちアメリカにとって諸外国の一つである、より端的に言えばアメリカの「外国」であるイスラエルが、アメリカにおける複数の法律の制定に関与してきたことを堂々と公言し、かつ自慢している。
このツイートはそれが発せられたその時点から国際的に(外交や法律、人権等についてまともな感覚を持つ人たちから!)失笑を買ってきたものだが(そのツイートが今も削除されていない点も失笑モノだが)、ほぼ 1年経過した今月、改めてツイッター上で取り上げられた。
3) は 48テリトリーのイスラエル(1947年11月29日の「国連パレスチナ分割」決議とイスラエル「建国」前からのアラブ系住民=「パレスチナ人」に対する民族浄化、1948年5月14日のイスラエルの「独立宣言」という名の建国宣言、そして第一次中東戦争の結果として「既成事実化」したイスラエル領、当然ながらここには 1967年以降のイスラエルの違法占領地である東エルサレム・ヨルダン川西岸地区およびガザ地区は含まれない)領内で生まれ、アメリカ・ニュージャージー州で育ったパレスチナ系アメリカ人の作家・政治アナリスト Yousef Munayyer (US Campaign for Palestinian Rights の元 Executive Director) が、1) のイスラエル首相府によるツイートを引用ツイートしたもの。
4) は 3) へのリプライで、ユダヤ系アメリカ人で 2009年から 2019年まで 10年間、Jewish Voice for Peace の Executive Director を務めていた Rebecca Vilkomerson によるものである(「(イスラエル首相は)しかもそれを自慢している」という、当然ながらイスラエル首相府のツイートへの皮肉)。
1)
2)
3)
4)
2. エルサレムの国際的「地位」についてのメモ
本 note 投稿では後段で、今月に入って、バイデン新政権下で「民主党」有利となったアメリカ上院において、トランプ前政権時代の在イスラエル・アメリカ大使館のテルアヴィヴからエルサレムへの移転という暴挙を追認することが、民主党議員の大半を含む圧倒的多数の賛成により決定されたという、アメリカの相も変わらぬイスラエルへの徹頭徹尾「一辺倒」支持姿勢を象徴する出来事を取り上げる。
そこで、まずは本章では、エルサレムの国際的地位について略記しておく(その背景等の詳細は第8章で記述する)。
エルサレムはもともと、1947年11月に当時の欧米諸国主体の国連総会で採択された「国連パレスチナ分割」案(この「分割」案なるものがどれだけ不当なものだったのかについては第8章にて記述)においては国連の信託統治となるものとされた特別な場所だったのだが、そのおおよそ西半分、西エルサレムは、同国連総会決議の後の翌1948年5月のイスラエル「建国」に伴う第一次中東戦争によってイスラエル領に組み込まれた(要するに国連決議に基づくものでさえなく、戦争の結果により「既成事実化」されたもの)。
残る東エルサレムは エルサレム旧市街が含まれた歴史的・宗教的な意味がよりある地域だが、1967年6月のいわゆる「六日戦争」、第三次中東戦争におけるイスラエルの侵攻により、他のヨルダン川西岸地区(旧「イギリス委任統治領パレスチナ」の域内だが 東エルサレムを含む同地区は 1948年以降ヨルダンによって「占領」「統治」されていた)とガザ地区(同じく旧「イギリス委任統治領パレスチナ」の域内だが 1948年以降エジプトによって「占領」「統治」されていた)、そしてシリア領だったゴラン高原の一部、エジプト領だったシナイ半島とともに、イスラエルによって占領された。
これら東エルサレムを含む 1967年の占領地に関しては、同年1967年11月22日にアメリカを含む全会一致で採択された国連安保理決議242号など複数の国連安保理決議が、同占領地からのイスラエルの撤退を要求しているが、このうち、これまでにイスラエルが撤退したのはシナイ半島のみである(ガザ地区に関し補足しておくとイスラエルは同地区内の違法入植地については撤去したものの、過去14年間にわたりイスラエルが軍事封鎖し、陸海空ともイスラエルによる軍事制圧下にある)。
関連情報を記さないと分かりにくくなるため、略記にしては長くなったが、要するに、東エルサレムはイスラエルによる違法占領地内にあり、この東エルサレムについて一方的に併合を宣言し、東西エルサレムを合わせたエルサレム全域を自国の首都であるとこれまた一方的に宣言したイスラエルによる「エルサレム首都」宣言は、当然ながら、国際社会が認めていない。
3. 国際社会がイスラエルの首都と認めない エルサレム へのトランプ政権による アメリカ大使館 移転 〜 トランプ政権による暴挙
前章で記したように、東エルサレムはイスラエルによる違法占領地内にあり、この東エルサレムについて一方的に併合を宣言し、東西エルサレムを合わせたエルサレム全域を自国の首都であるとこれまた一方的に宣言したイスラエルによる「エルサレム首都」宣言は、当然ながら、国際社会が認めていない。
にもかかわらず、アメリカの前政権において、ドナルド・トランプ Donald Trump 大統領は 2017年12月6日、(かつてアメリカを含む全会一致の国連安保理決議がイスラエルの撤退を要求した 1967年の占領地内にある東エルサレムを含む)エルサレム全域をイスラエルの首都とする認識をアメリカ大統領として公にし、イスラエルの一方的主張を承認して、在イスラエル・アメリカ大使館もテルアヴィヴからエルサレムに移転する計画を命令し、国際社会の大きな注目を浴びるとともに、多くの国々、人権団体、メディア等から懸念され、批判・非難されることとなった。
https://www.govinfo.gov/content/pkg/FR-2017-12-11/pdf/2017-26832.pdf
実際に翌2018年5月、それまで諸外国同様にテルアヴィヴに置いてきたアメリカの在イスラエル大使館をエルサレムに移転、それがあらためて世界的なニュースとなり、欧州諸国、EU, バチカンなどを含む国際社会から(また多くのメディアにおいて)批判・非難を浴びたことは、記憶に新しい。
しかもエルサレムに移転したその在イスラエル新アメリカ大使館のオープニング・セレモニーが行なわれた日は 2018年5月14日、その日はイスラエル「建国」70周年の日であり、パレスチナ人にとっては「ナクバ」70周年の日でもあった(ナクバとは、イスラエル「建国」により 70~80万人もしくはそれ以上のパレスチナ人が故郷の土地と家を失って難民となったことを言い表わすアラビア語の言葉 النكبة, al-Nakbah, Nakba のことで、直訳すれば「大破局」「大災厄」「大惨事」「破滅的な状況」「極めて大きな不幸」といった意味合いになり、その後の70年余にわたり今現在も続くパレスチナ人の苦難をも含めて「ナクバ」と呼ぶ、「今もナクバが続いている」という文脈で使われる広義の言い方もある言葉である *2)。
*1 しかもアメリカ大使館がエルサレムに移転されたその日 2018年5月14日は、ガザ地区で故郷への帰還運動をする人たちを中心に(同年3月末から彼らが Great Return March と呼ぶデモンストレーションがイスラエルとのボーダー付近で行なわれていた)約60人のガザ地区のパレスチナ人たちが、イスラエル軍の実弾射撃によって殺された日でもあった。
*2 ナクバについては、以下リンク先の冒頭「ナクバとは」の章を参照されたい。
4. バイデン政権下のアメリカ上院が、トランプ政権による暴挙 =在イスラエル・アメリカ大使館のエルサレムへの移転を、民主党を含む圧倒的多数の賛成により、あらためて既成事実化
今月、2021年2月4日、既に民主党のジョー・バイデン Joe Biden 新大統領による新政権下となり議員構成も共和党と民主党が完全に拮抗、憲法により上院議長を兼ねる副大統領カマラ・ハリス Kamala Harris も民主党出身であるため「民主党」有利となったアメリカ上院は、1) で記したトランプ政権時代にエルサレムへ移転させた在イスラエル・アメリカ大使館をそのまま留めるための予算案修正条項を、賛成97票・反対3票という圧倒的多数の賛成により決定した。
反対票を投じたのは バーニー・サンダース(Bernie Sanders, 無所属 Independent の議員, 上下両院を通じ無所属議員としてアメリカ史上最長のキャリアを継続中, 長年「民主党」と統一会派を組み基本的にアメリカ大統領選挙に出馬する時のみ「民主党」に入党)、そしてエリザベス・ウォーレン(Elizabeth Warren, 民主党)、トム・カーパー(Tom Carper, 民主党)のいずれも民主党系もしくは民主党の3議員。つまりは、共和党の全上院議員50人だけでなく、残る50人のうちの民主党 47人も、これに賛成したことになる。
アメリカが、国際社会が認めない「イスラエルの首都はエルサレムである」というイスラエル側の一方的主張を容認し、テルアヴィヴからエルサレムに在イスラエル大使館を移転させたことの不当性については、前々章「エルサレムの国際的『地位』についてのメモ」および、前章「国際社会がイスラエルの首都と認めない エルサレム へのトランプ政権による アメリカ大使館 移転 〜 トランプ政権による暴挙」を参照されたい。
以下 、1) は 反シオニストのユダヤ系アメリカ人によるメディア Mondoweiss による記事、2) は イスラエルの左派系メディア Haaretz による記事。
上院議員100人の賛成・反対の内訳は、3) をクリック、その中の Amends Bill をクリックし、4) をクリックした先の Amendments 2頁目 104. の Record. vote number 30 をクリックすると確認することができる。その内容を貼り付けたのが 5) である。
なお、6) は Mondoweiss による関連記事で、バイデン政権の国務長官アントニー・ブリンケン(Antony Blinken)が「バイデン政権はエルサレムがイスラエルの首都であるとする(イスラエルの)主張を受け入れ、また、東エルサレムが(新国家)パレスチナの首都になるとのアイディアにコミットすることを拒否する」旨述べたことをリポートした記事。
1) Only 3 Senators voted against a GOP amendment to keep the U.S. embassy in Jerusalem 〜 An amendment to keep the U.S. embassy in Jerusalem passed by a count of 97-3. Only Bernie Sanders, Elizabeth Warren, and Tom Carper voted against it. (Mondoweiss, February 5, 2021)
記事本文の最初の 2パラグラフは 以下の通り。
Last night an amendment to keep the U.S. embassy in Jerusalem passed by a count of 97-3. Only three Senators voted against the motion: Bernie Sanders (I-VT), Elizabeth Warren (D-MA) and Tom Carper (D-DE).
The amendment was introduced as part of the budget reconciliation resolution by Senators Jim Inhofe (R-OK) and Bill Hagerty (R-TN). The Trump administration moved the embassy to Jerusalem from Tel Aviv in 2018.
2) Senate Overwhelmingly Votes to Keep U.S. Embassy in Jerusalem 〜 97 senators vote in favor of amendment that sets aside funding to maintain embassy, which Biden has set he does not intend to return to Tel Aviv. (Haaretz, February 6, 2021)
記事本文の最初の 2パラグラフは 以下の通り。
The U.S. Senate overwhelmingly voted to keep the U.S. embassy in Jerusalem on Friday.
It voted 97-3 on an amendment that sets aside funding to maintain the Jerusalem embassy, making it harder to reverse former President Donald Trump’s move of the embassy from Tel Aviv. President Joe Biden has said he does not intend to move the embassy back to Tel Aviv.
3) 上記 1) の記事本文、冒頭の "voted" をクリックすると、以下のリンク先。
4) 上記リンク先の "Amends Bill" をクリックすると、以下のリンク先。
5) 上記リンク先の "Amendments", その 2頁目 104. の "Record. vote number 30" をクリックすると、本章本項で取り上げた、アメリカ上院における賛成票97と反対票3 を投じた議員について、その一覧を確認することができる。
それは以下の通りである(R は Republican 共和党議員, D は Democrat 民主党議員、I は Independent 独立系すなわち無所属議員を示す)。
6) Secretary of State Blinken confirms Biden admin considers Jerusalem to be Israel’s capital 〜 Secretary of State Antony Blinken tells CNN the Biden administration embraces Jerusalem as Israel's capital, and refuses to commit to the idea of a Palestinian capital in East Jerusalem. (Mondoweiss, February 9, 2021)
5. アメリカ議会の「エルサレム帰属」問題における愚行は今に始まったことではない 〜 Jerusalem Embassy Act エルサレム大使館法(1995年)
第2章、第3章、第4章で記述した「エルサレムの地位」もしくは「エルサレムの帰属」に係るアメリカの愚行は、あたかも前政権時代のトランプ大統領による「エルサレムはイスラエルの首都」公式承認と大使館の移転で始まり、バイデン政権になってもそれが追認されてしまったものと映るだろうが、しかし、アメリカ政治におけるこの愚行は、何もいま始まったことではないし、近年始まったものでもない。
今から遡ること 25年以上前、1995年10月23日にアメリカ議会を通過した「エルサレム大使館法」(Jerusalem Embassy Act)がある。上院では 93対5, 下院では 374対37 で可決、採択されている(内訳等は下の注*1, *2 を参照)。
この法は、エルサレムをイスラエルの首都として認め、また、エルサレムは分断・分割できない不可分の市であるとした上で、1999年5月31日までにアメリカの在イスラエル大使館をテルアヴィヴからエルサレムに移転するための予算を確保することを求めるものだった。
1995年11月8日に大統領署名がないかたちでアメリカ合州国の法となったこの「エルサレム大使館法」は、大統領に対して「国家安全保障」の見地からの 6ヶ月間の同法運用・適用の権利放棄に係る権限行使およびその放棄の 6ヶ月毎の更新を認めており、実際、同法はビル・クリントン(Bill Clinton)、ジョージ・W・ブッシュ(George W. Bush)、バラク・オバマ(Barack Obama)の歴代大統領のもとで、繰り返しその法適用が放棄され、6ヶ月毎その放棄が更新されてきたのだが、しかしこのことは、民主党 2人、共和党 1人の同歴代大統領たちが国際社会の認識同様に「エルサレムはイスラエルの首都とは認めない」という考えを持っていたことを意味しない(このことについては次章を参照されたい)。
この間に繰り返された「エルサレム大使館法」の法適用の延期は、あくまでも「国家安全保障」の見地からの歴代アメリカ大統領の方針によるものであって、この同法適用の大統領権限による(形式的な)延期は、トランプ政権時代にも行なわれている(2017年6月1日および2017年12月6日)。
https://www.govinfo.gov/content/pkg/FR-2017-12-26/pdf/2017-28027.pdf
上記リンク先にあるのは 2017年12月6日に当時のトランプ大統領によって署名されたもので、その日は、第3章で述べた、彼がまさしく「エルサレムをイスラエルの首都とする」認識をアメリカ大統領として公にし、イスラエルの一方的主張を承認して、在イスラエル・アメリカ大使館をエルサレムに移転する計画を命令した日でもある。
それから半年を待たず、2018年5月14日には、アメリカの在イスラエル大使館が、 1995年に立法化されたアメリカの法律「エルサレム大使館法」の目的通りに、テルアヴィヴからエルサレムに移転されることになったわけである。
さて、再び話を戻して、今から遡ること 25年以上前、1995年10月23日にアメリカ議会を通過した「エルサレム大使館法」(Jerusalem Embassy Act)についてである。
当時のアメリカ議会は上院・下院ともに共和党が多数派を形成する議員構成であったが、国際社会の認識を無視し、かつてアメリカ自らを含む全会一致で国連安保理がイスラエルの撤退を要求した 1967年のイスラエル占領地内にある東エルサレム の西エルサレムとの併合、そしてそのエルサレム全域をイスラエルの首都であるとする、言わば国連安保理決議違反のイスラエルの一方的な主張を追認するこの法律の成立に貢献したのは、何も共和党議員ばかりではない。
何しろ、上院では 93対5, 下院では 374対37 という圧倒的多数による賛成によって可決、採択されている。民主党議員について言えば上院で 44人、下院でも 153人が、このあまりに莫迦げた法案に賛成票を投じた。上院で反対票を投じた民主党議員はたった 1人、下院では 30人だった。
前章、第4章「バイデン政権下のアメリカ上院が、トランプ政権による暴挙 = 在イスラエル・アメリカ大使館のエルサレムへの移転を、民主党を含む圧倒的多数の賛成によりあらためて既成事実化」で取り上げた、今月、バイデン政権下のアメリカ上院における上記趣旨の予算案修正条項に反対票を投じたたった 3人の議員のうちの1人、バーニー・サンダース(Bernie Sanders)、彼はよく知られている通りユダヤ系アメリカ人だが、「エルサレム大使館法」(Jerusalem Embassy Act)がアメリカ議会を通過した 1995年当時、彼は上院議員でなく下院議員であり、かつ民主党でなく無所属(Independent)の議員だった(公式には彼は今も無所属議員であるが)。その彼は、当時の下院で「エルサレム大使館法」に反対票を投じた 37人のうちの1人である(*1)。
因みに、バーニー・サンダースは 2007年以来ヴァーモント州選出の上院議員だが、1991年から2007年までは下院議員を務めており、アメリカ議会において無所属議員として最長のキャリアを持つ議員である。彼の所属政党について触れておくと、民主党選出の大統領候補になるべく立候補した2015–2016年、2019–2020年については民主党所属となったものの、基本的に現在に至るまで一貫して無所属。民主党と統一会派を組んでおり、民主党からは実質「民主党」議員のように扱われている。
なお、上院で 1995年の「エルサレム大使館法」(Jerusalem Embassy Act)に反対票を投じた 5人の議員のうち(ほか 1人が棄権) 4人は共和党議員。上院において反対票を投じた民主党議員はたった1人だった(*2)。
以下の脚注のうち *3 は「エルサレム大使館法」(Jerusalem Embassy Act)に関する記事(+972 Magazine は 2010年にテルアヴィヴ在住のイスラエル人たちによって創刊されたウェブ上のメディアで、972 はイスラエルとパレスチナが共有する国際電話のコード番号に由来する)。
*1
http://clerk.house.gov/evs/1995/roll734.xml
*2
*3 The Democratic Party is also devoted to Israel’s apartheid 〜 Both sides of the aisle are complicit in maintaining U.S. support for Israel’s separate and unequal regime. (+972 Magazine, January 31, 2020)
6. トランプだけでなく 〜 オバマもクリントンもブッシュも、そしてバイデンも(言わせてもらえば!)「莫迦につける薬はない」惨状
ここまで主として「エルサレムの地位」「エルサレムの帰属」問題における、共和党・民主党の区別ない、言わば超党派のアメリカ議会の惨状を見てきたが、大統領にしても同じである。
ことはトランプ前大統領だけのことではないのだ。以下、1) トランプ、2) オバマの順。AIPAC は American Israel Public Affairs Committee の略で、アメリカ最大のイスラエル・ロビイスト団体であるが、この極めつきの親イスラエル組織の年次大会で、これまで多くのアメリカ大統領候補がイスラエル支持を強調する約束事をしてきた。民主党出身、アメリカ初のアフリカ系アメリカ人の大統領となったバラク・オバマも大統領選挙キャンペーン中に、「エルサレムはイスラエルの首都である」と「最低限の」リップサービスをしている。それはその前の大統領、共和党のジョージ・W・ブッシュ、民主党のビル・クリントンにしても同じ。
ブッシュとクリントンの適当なヴィデオが YouTube 上に上がっていないので、3) はその代わり。(議会や大統領の)「約束」通り、アメリカの在イスラエル大使館はエルサレムに移転されるのかという、2017年5月17日にアップロードされたもの。4) は大統領選挙キャンペーン中のジョー・バイデン。
まさしく、これら全て、(言わせてもらえば!)「莫迦につける薬はない」レベルの惨状。
なお、5)~10) は、バイデン政権のパレスチナ/イスラエル問題への姿勢を知るための記事等を付録。うち 9) は参考資料、11) と共に筆者の過去の関連 note 投稿。
1)
2) 「イスラエル」訪問時のオバマ
3)
4)
以下、5) 記事、6) 記事、7) インスタグラム投稿、8) その関連記事、10) インスタグラム投稿は、バイデン政権の DEP, LEP と命名したくなるような政治姿勢を示す例。PEP, "Progressive Except Palestine", 「パレスチナ問題を除けば進歩派」といった意味の、アメリカにおける進歩派(の一部)を揶揄する言葉があるが、バイデン政権に Progressive という言葉は似合わないように思うので、強いて言うなら、"Democratic" Except Palestine, "Liberal" Except Palestine といったところか。9) と 11) は筆者の関連 note 投稿。
5)
6)
7)
8)
9)
10) インスグラム投稿より(スワイプしてヴィデオ 2点)。ジョー・バイデンとカマラ・ハリス、現アメリカ大統領・副大統領の過去のイスラエルへの強い偏向・支持姿勢を示すもの。
11)
7. アメリカのイスラエル愛 〜 「いくらでも出します」♡
1) まずはとりあえず Internet Meme, このアメリカからイスラエルへの莫大な援助額、トランプ政権が決めたものではない。オバマ政権時のイスラエルとの約束。
10年間で 38 BILLION US dollars!!
10年間にわたり、1日当たり 約1,050万ドル(1日当たり日本円にして 10億円を優に超える額)という莫大な額のアメリカ国民の税金が、アメリカからイスラエルに捧げられ続けるのだ。
2) 昨年、2020年4月5日付の Jewish Voice for Peace のインスタグラム投稿(アメリカにおけるコロナ禍が既に極めて深刻な事態に発展していた時のもの)。
3) アメリカの対イスラエル/パレスチナを中心とした中東政策リサーチ NGO である If Amerivans Knew によるヴィデオ(2021年1月27日付)。
8. そもそもエルサレムは, パレスチナは, イスラエルは..
エルサレムの国際的地位については第2章で述べた通りだが、ここでは、その背景等の説明を兼ね、パレスチナ/イスラエル問題の「そもそも」論を書いておきたい。
問題の原因となったものをざっくり箇条書きすれば、1) 欧州における長年のユダヤ人差別、2) それによって勢いづくことになったシオニズム(によるユダヤ人のパレスチナへの移民・入植の運動)、3) イギリスの俗に言う三枚舌外交 〜 すなわち、1915年10月のフサイン=マクマホン協定(中東地域におけるアラブ諸国独立の約束)、1916年5月のサイクス・ピコ協定(フランス、ロシアと結んだ同三ヶ国による中東地域の分割支配を目論んだ秘密協定)、そして、1917年11月のバルフォア宣言(イギリスの当時の外務大臣アーサー・バルフォアが表明した、イギリス政府によるシオニズム支持表明) 〜 当然ながら中でもバルフォア宣言、そして 4) ナチス・ドイツによるユダヤ人弾圧・大虐殺「ホロコースト」(の結果としてのシオニズム強化、ユダヤ人のパレスチナへの移民運動の急拡大・移民人口の急増)、5) 1947年11月のまだ設立2年で欧米諸国が支配的だった当時の国際連合の総会における不当な内容のパレスチナ分割案決議(いかに不当・不公平だったかについては以下のテキスト内で言及)、イスラエル「建国」前から始まっていたシオニスト組織によるパレスチナ人追放・民族浄化作戦と1948年5月のイスラエルによる一方的な「建国」宣言、以降の70年余にわたる 6) 世界の超大国アメリカ合州国によるイスラエルへの一方的支援・国連安保理(拒否権発動)などにおける徹底的イスラエル擁護、などが挙げられる。
次の次からの 8段落分は、筆者が昨年10月27日に「『兵役拒否』(イスラエル映画, 2019年) を観て 〜 あらためて」と題して note に投稿したテキスト(*1)の中の、"A2. 「"敵"は軍隊さえ持っていない」(兵役拒否者 アタルヤ)、「ユダヤ人大虐殺がなければ状況は違ったかもしれん」(祖父)" という見出しを付けた章、および "A4. 「私達はシオニズムのために殺さないし 死なない」(イスラエルの「占領」政策に反対するイスラエル人のグループ)" という見出しを付けた章からの、筆者自身の文章からの転載(前段で箇条書きした6項目の中の少なくとも一部に触れているので、あらためて記しておきたい)。
なお、映画「兵役拒否」は、2017年に実際に兵役を拒否し、母国イスラエルの軍事刑務所に110日間にわたって収監された後に兵役免除を勝ち取った当時19歳のイスラエル人女性 Atalia Ben-Abba の例を取り上げた、イスラエルのドキュメンタリー映画である。
..................................
1894年のドレフュス事件(世界史に残るユダヤ人差別事件、フランス)をジャーナリストとして取材した、ハンガリー・ブダペスト(当時オーストリア帝国の一部)生まれのユダヤ人テオドール・ヘルツルがその事件を切っ掛けにヨーロッパにおける長年のユダヤ人差別の深刻さを改めて思い知り、そのことでシオニズム(言葉自体はオーストリアのユダヤ系思想家ナータン・ビルンバウムが考案)に目覚め、その指導者として第1回シオニスト会議をスイスのバーゼルで開催するのは1897年のことだが、それから21年後の1918年時点のパレスチナ(という言葉は紀元前からあった呼称だが、16世紀以降その地はオスマン帝国の支配下、そして同国が第一次世界大戦で敗戦国となった後は1918年からイギリスが占領、1920年から1948年までは Mandatory Palestine (British Mandate for Palestine), つまり「イギリス委任統治領パレスチナ」)における人口は、同年実施したイギリスの人口調査によれば、アラブ人(今日言うところのパレスチナ人)が 700,000人に対してユダヤ人は 56,000人と、前者の 1/12以下に過ぎなかった。
それが、1947年に当時まだ欧米諸国が支配的だった国連総会で「国連パレスチナ分割案」(同案の中で国連の信託統治領とする計画だったエルサレムを除くパレスチナ全域の土地の 56%を、アラブ人=今日言う「パレスチナ人」の人口の半分に満たないほどの人口だったユダヤ人の国家の土地とするという、極めて不当かつ不公正かつ不公平な分割案)が採択される際の国連の報告書では、当時のパレスチナにおける人口は、アラブ人(同上、パレスチナ人)とその他(アルメニア人などの少数を指すと思われる)が 1,237,000人、それに対し、ユダヤ人は 608,000人で全体の33%程度になっていた。
つまり、翌1948年のイスラエル「建国」の直前の年であってもパレスチナにおける絶対少数派ではあったユダヤ人なのだが(数十年間で急拡大したシオニズムによる運動で人口が急激に増えた結果であったため、ユダヤ人側の土地所有率にいたってはパレスチナ全域のわずか 7-8%程度に留まっていた)、それでも、その時点でパレスチナにおけるユダヤ人の人口は、上に記した 20世紀初期と比べれば、ほんの30年程度の間に絶対数として 10倍以上に急増していたことになる。
もともとヨーロッパにおける長年にわたるユダヤ人差別の歴史的背景があって、19世紀末以降、シオン(旧約聖書にも登場するエルサレム地方の歴史的地名)の地にユダヤ人国家を作ろうというユダヤ人の運動が広まったわけだが、その後の「イギリス委任統治領パレスチナ」時代のパレスチナへのユダヤ人の移民の動きの加速度的拡大、その結果としての同地におけるユダヤ人の人口急増の最大の要因として、ナチス・ドイツによる「ユダヤ人大虐殺」= ホロコーストを考えるのは、ごく自然な発想であろう。
念のために常識レベルのことを補足しておくと、ホロコーストはナチス・ドイツが行なった人類史に残る反人道的・人種差別的な犯罪・殺戮であって、当時パレスチナに住んでいたアラブ人(パレスチナ人)にとっては全く預かり知らない犯罪である。
さて、上に書いたように、当時はオーストリア帝国の一部であった現在のハンガリー・ブダペスト生まれのユダヤ人テオドール・ヘルツルが、1894年のフランスにおけるユダヤ人差別(冤罪)事件をジャーナリストとして取材し、ヨーロッパにおける長年のユダヤ人差別と当時の反ユダヤ主義的な動きという時代背景のもとシオニズムに目覚め、1897年には第1回シオニスト会議を開くことになるのだが、そのシオニズムという言葉自体は、同時期つまり1890年代にオーストリアのユダヤ系思想家ナータン・ビルンバウムが考案したものだった。
当時はオスマン帝国の支配下にあり、第一次世界大戦における同帝国の敗戦以降は「イギリス委任統治領パレスチナ」となる同地域(「パレスチナ」という呼称自体は遥か紀元前からあり、同地域に住んでいたペリシテ人の名が由来と考えられている)へのユダヤ人の移民を促すことになる「シオニズム」という思想のその名前は、旧約聖書のゼカリヤ書にある文言から発想されたものだった。
「主はこう仰せられる。『わたしはシオンに帰り、エルサレムのただ中に住もう。エルサレムは真実の町と呼ばれ、万軍の主の山は聖なる山と呼ばれよう。』」(旧約聖書, ゼカリヤ書 8章3節)
..................................
参考リンク 〜 筆者の過去の note 投稿から
以下、*1 は上記 8段落分を引用した昨年10月の筆者の note 投稿、*2 はその前篇。*3「イスラエルの高校生60人が兵役を拒否し、1948年イスラエル『建国』に伴うナクバ(7, 80万人のパレスチナ人が故郷を失う)に言及」の冒頭の章でもこの歴史について書き、*4「イスラエルのメディカル・アパルトヘイト 〜 あらためての ユヴァル・ノア・ハラリ批判とともに」の冒頭の章でもエルサレムの地位・帰属に触れながら、歴史に触れた。また、上記の文は、*5「パレスチナ/イスラエルが 『民主主義的な一国家』 になるという未来の 『現実』 を想像する」の第2章「ユダヤ人差別とシオニズムと、1948年のイスラエル『建国』 〜 そして、パレスチナ/イスラエル問題」に書いた筆者の文章から、ほぼそのまま引用した。
*1
*2
*3
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9. 反シオニストのユダヤ系アメリカ人の言葉
前章のテキストの終盤で記したように、1948年のイスラエル「建国」の背景にある思想である「シオニズム」の「シオン」とは、「旧約聖書」(つまりいち宗教のいち「聖典」)に登場する、その「旧約聖書」が記述する時代当時の「エルサレム」地方を指すことになるのだが、これに関わって、ユダヤ系アメリカ人政治学者で反シオニズム活動家でもあるノーマン・フィンケルスタイン(Norman Finkelstein, 因みに彼の両親はワルシャワ・ゲットー、ワルシャワ蜂起、そしてホロコーストの生存者:その点は次章にてあらためて) の言葉を紹介しておきたい。
10. ホロコースト生存者の両親を持つユダヤ系アメリカ人、イスラエルのユダヤ人、そしてパレスチナ系アメリカ人の言葉
前々章のテキストから、まずは以下の 2段落分をあらためて引いておきたい。
もともとヨーロッパにおける長年にわたるユダヤ人差別の歴史的背景があって、19世紀末以降、シオン(旧約聖書にも登場するエルサレム地方の歴史的地名)の地にユダヤ人国家を作ろうというユダヤ人の運動が広まったわけだが、その後の「イギリス委任統治領パレスチナ」時代のパレスチナへのユダヤ人の移民の動きの加速度的拡大、その結果としての同地におけるユダヤ人の人口急増の最大の要因として、ナチス・ドイツによる「ユダヤ人大虐殺」= ホロコーストを考えるのは、ごく自然な発想であろう。
念のために常識レベルのことを補足しておくと、ホロコーストはナチス・ドイツが行なった人類史に残る反人道的・人種差別的な犯罪・殺戮であって、当時パレスチナに住んでいたアラブ人(パレスチナ人)にとっては全く預かり知らない犯罪である。
1) まずは前章でも紹介したノーマン・フィンケルスタイン(Norman Finkelstein, 1953年ニューヨーク生まれ, ユダヤ系アメリカ人の政治学者・作家・反シオニストの活動家)の言葉。
ノーマン・フィンケルスタインの両親は共にナチス・ドイツによるワルシャワ市内のユダヤ人隔離地域であったワルシャワ・ゲットー、そしてユダヤ人がナチスに対して絶望的な蜂起をしたいわゆる「ワルシャワ蜂起」の生存者で、母親は更にナチス・ドイツがポーランドに建設したマイダネク強制収容所の生存者でもあって、父親は更にアウシュヴィッツ強制収容所の生存者でもある。
その彼が、(反)ナチス、(反)ホロコースト等に言及してイスラエルを「擁護」する人たち、そんな特にイスラエル人もしくはユダヤ人に向けて語った言葉を、以下のヴィデオで聴くことができる。
(英語、英語字幕付き)
2) 以下は、イスラエル人(ユダヤ人)のジャーナリスト兼作家 Gideon Levy の、ユダヤ人が被害者となったホロコースト、そしてイスラエルによるパレスチナの軍事占領、1967年以来の国連安保理決議違反の違法な占領地である東エルサレムを含むヨルダン川西岸地区およびガザ地区(後者は現在イスラエルの軍事封鎖下)に住むパレスチナ人に対する弾圧に関してのメッセージ / 主張 / オピニオン。
なお、2点目に置いたリンク先の記事(イスラエルのメディア Haaretz の 2020年1月23日付)は、彼が以下の意見を同オピニオン記事において述べたものである。
"Go to Gaza and Cry ‘Never Again’"(Gideon Levy on Haaretz, January 23, 2020)
3) 最後に、パレスチナ・エルサレム生まれのパレスチナ系アメリカ人で、文学・比較文学研究者であった故 エドワード・サイード(Edward Said, 1935年11月1日「イギリス委任統治領パレスチナ」エルサレム生まれ、2003年9月24日ニューヨークにて死去:著書「オリエンタリズム」でポストコロニアル理論を確立した学者として世界的に著名)が語った言葉について掲載し、今日のこの note 投稿を終える。
"You cannot continue to victimize someone else just because you yourself were a victim once.", つまり、あなた方自身が かつて 犠牲者だったという理由で、他の誰かを犠牲にし続けることは出来ない。
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