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ウエハースの椅子/江國香織
38歳の主人公は画家であり、デザイナーでもある。
彼女には恋人がいた。
家庭がある恋人である。
Twitterのフォロワーさんがオススメしていた小説で、気になって読んでみた。
持ってはいたが、まだ読んではいなかった一冊だったんだよね。
この小説は誰一人登場人物の名前は出てこない。
犬や野良猫には名前があるのに
登場人物の本名は
だから最後まで読み進めても
誰も分からない。
それが奇妙であり、面白くもある。
主人公の妹は、いつも半年以上恋愛が続かないが
作中である人に恋をする。
その人には他に長年付き合っている人がいるが
妹は付き合いを継続するのである。
妹は忠実な性格で、姉に対して「道を外している。」と言うのだが
姉は「人生は道ではなくて荒野よ。」と言う。
「荒野にはけもの道がある。」とも会話が続くのだが
このやり取りが秀逸だと思った。
主人公の恋人は非常に優しいし、波長も合っているのだが
決して家庭は捨てない残酷さがある。
いつか二人で外国に移住したいと言い、避妊をやんわり断った彼女を攻めない代わりに、子どもができないように工夫するのだ。
主人公は恋人といると満たされるが、恋人がいなくなると、どんどん落ちていく。
そしてやがて、恋人がいるからこそ落ちると分かり
恋を手放すのだが
そうすると体と心が生きることを放棄するのだ。
なんだか、色々考えさせられる話だった。
愛される方が幸せと母は言う。
だけど、私は結局この主人公と同じなのだ。
愛されるだけでは満たされない。
結婚や妊娠を誰でもいいからしたいわけじゃない。
好きな人と緩やかに絶望に落ちていくとしても
そばにいることが幸せであり
手放したら死が待つ。
それが恋なのかもしれない。
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