社会人としての選択
その日は午前中、仕事でポスティング作業だった。
職員一人に対し、利用者複数人で決められたエリアを配る。
大抵は
車1台に2グループが乗り、駐車場から移動してポスティング作業を行う。
私達グループが終わった後
同僚Aさんから、利用者のタオルを落としたみたいだと話がある。
みんなで探したが、見つからなかった。
それをAさんが新施設長に報告したら
「自分からご家族に連絡します。」と話があった。
その日、Aさんのお迎えは行動援護の方だった。
私はAさんから、ヘルパーさんに事情を話して欲しいと頼まれた。
その時間帯、Aさんは別室で仕事があったからだ。
新施設長から家族に連絡はあるだろうが
利用者が帰宅するまでにはまだ時間があるし
ヘルパーさんや他の事業所も把握しておいた方がいいだろうと私は思っていた。
その利用者は二語文くらいしか話せないから
「タオル、なくした。」と連呼されても
他施設で困ると思ったのだ。
おそらく、Bさんも同じ考えだったのだと思う。
私はヘルパーさんに言いかけた。
すると、別室にいた新施設長がひょいと出てきて「それは直接、家族に伝えますから。」と言われた。
だから口をつぐんだ。
ヘルパーさんと利用者が帰った後
私はこう言われた。
「ヘルパーさんに話しても、家族に伝えるとは限らないですし。」
「こちらでなくした物は、弁償かどうかはご家族との相談になりますから。」
だから私は
「はい、申し訳ありません。」
と言った。
…だけど、モヤモヤした。
私はそんな正論聞きたくない。
そこまで言うなら
午前中の出来事なのだし
さっさと連絡すればいいじゃないか。
そう思った。
利用者が何かをヘルパーさんに言った際
面倒なことにならないようにこちらは言ったわけだし
これで家族連絡を省くとも思ってない。
そもそも私は先輩職員のAさんに頼まれて言ったのだ。
上からの指示に従うのは当然じゃないか。
だけど
ここで新施設長にそれを言ったところでどうなる。
言い訳でしかないし
Aさんとの関係に角が立つ。
結局は確認しなかったあなたが悪いと言われたり、思われる気がした。
つまり私は
Aさんに頼まれた時点で詰んでいたのだ。
その後、私は表向きはAさんとも新施設長とも普通に話したが
モヤモヤは残った。
Aさんには、黙っていた。
言ったところで
やはり角が立つ。
私が泣き寝入りすればすむ話だと思った。
帰り際、正職員全員の前で新施設長は
利用者が何かをなくした時は誰にどこまで伝えるか確認がその都度必要だと述べたが
私にはイヤミにしか聞こえなかった。
全体に言いつつ、私に言っている気がした。
そんなに言うのなら
ヘルパーさんが迎えに来た時に新施設長が対応すべきだったのだ。
私より玄関の近くにいたのだから。
言いたいことや不満はあるが
グッと堪えて
私は「はい。」と「申し訳ありません。」以外は言わなかった。
言う必要もない。
分からない相手に
言っても仕方ない状況で
全てを説明する必要はない。
信頼や不信感とはそういうことだ。
三回も言われて
私はゲンナリした。
正論であるほど口をつぐむし
もうやりたくない気持ちが膨らむ。
社会人の常識。
【その場にいる一番エライ人の指示に従うこと】
Aさんに頼まれた際
「新施設長は、家族に連絡するって言っていますが、ヘルパーさんに言うんですか?」なんて言えるわけもなかった。
いや
はたまた、言わなかった私が悪かったのだろうか。
結局はぐるぐる考えを巡らせても
やはり私が頼まれた時点で詰んでいたのだ。
こんな時に新施設長とAさん以外の誰かにこんな愚痴をこぼせたら
また違かったのだろう。
私は今の職場で
こういった職員の言動で思うことや仕事のささやかな不安や不満を
相も変わらず言えずにいる。
同僚ができた人達で
同僚の悪口や陰口を言わないから
私も言えないのだ。
新施設長の今回の言動にモヤモヤした、とは。
社会人だもの。
こういうことはよくある。
上とその上の意見や指示が違い
従った結果に揉めるなんてよくあること。
今日は仕方なかったのだ。
そう分かっていても
言い聞かせていても
今日は心も顔も晴れない。
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