しんどいことにチャレンジするあなたへ
2023年6月4日、週末に岡山県奈義町で開催された「那岐ピークスタフトレイルチャレンジ」に出てきました。
いわゆる”トレイルランニング”。知らない人も多いと思いますが、登山の走るバージョンといえばイメージが湧くかなと思います。
今回は大会なので、山を走って登って、スピードを競うレースです。距離32km、累積標高2200m、僕は6時間45分で走り終えました。
大学まで部活をやってきて、就職で消防士として働いて訓練をして、今は農業をしています。
ずっと身体的にも、気持ち的にもしんどいことをしてきましたが、これだけ負荷のかかることをしたのは久しぶりだったので、改めてしんどいことと向き合った時に感じたことを書いていきます。
山を登らなくても、走らなくても。まったく違うあなたにとっての「しんどいこと」と向かい合った時に感じる何かに共通することがあるんじゃないかなと。しんどいことと向かい合った時に考えるきっかけになったら嬉しいです。
なぜトレイルランニングなのか?
まずはなぜ、トレイルランニングをやっている(久しぶりに再開した)のか。
初めては今から5年前です。当時23歳の消防士時代に、消防学校で同期だった友人に「一緒にトレランやろう」と誘われたのがきっかけでした。
「山を走るか。面白そうだな」
そんなふうに軽く、当時は体力も持て余していたし、これといった趣味もなかったので、興味本位で行ってみました。
ほぼ初めての登山であり、初トレイルランニングが、山梨の鳳凰山(標高2840m)。
「富士山より、500m低いくらいね。」
なにせ富士山にすら登ったことがなかったわけです。それがどれだけ高いものなのか知るよしもありません。
登り始めてから終えてからのしんどさといったら、かなりのものでした。なんせ山を走って登るんです。ただまったく予備知識もなく行ったのが、逆によかったのかもしれません。
もちろんずっと走って登るわけではなく、基本的に走るのは「下り」、もしくは緩やかな登り、山の中にも時々ある平地です。
特に登山でも人気の日本百名山は、かなり登ります。それを走っては、登る。登っては、走る。これがまた太ももを中心に下半身にものすごい負荷がかかります。トレランの運動強度はかなりのものです。
当時は日々、防火衣(消防士が火事の際に着る分厚い装備)に、酸素ボンベを背負って、ホースを担いで、10階建ての階段を何度も駆け上ったり、人を背負って走り回ったり、ロープを登って、渡ってをしていましたから、そこまで苦ではないんです。
しんどいけど、楽しい。
体力は使うけど、なくなるほどじゃない。ちゃんと行って、帰って来れる。
今改めて振り返ってみると、日頃の訓練のおかげで、身体的にも、気持ち的にも余裕がありました。
大好きな身体を動かすことをしながら、自然の中で新しいチャレンジができていることが、楽しくてしょうがなかったんです。
登ったら、最高の景色を見れました。
天気も良くって、気持ちが良くって。なんだかずっと山を登って、テント生活しているアフロのおじさんにも出会って。(あのおじさんは元気にしているかな)
森林限界って、通常の植物が生えなくなる”標高の境界線”みたいなものがあるんです。だいたい標高2000m〜3000mの間にあると言われています。
そこには動物はほとんどいません。高山植物が生えていて、サラサラとした砂も多くなります。ただハエだけはここにもしっかりいたことが面白かったです。
これまでに見たことのない景色の中に自分がいました。
一緒に登った友人が言っていました。
確かにそうだ。と思ったんです。
山に登ってよかったと思いました。誘ってくれてありがとうと思いました。
トレランは、このために。
頂上から、下りは本当に早いです。登りが3時間かけたとしたら、下りは1時間くらいで帰れます。もっと短いかもしれません。
まさに”駆け下る”イメージです。
言っておきます。めちゃくちゃ危ないですよ。
一度スピードに乗ったらなかなか止まれないし、足の踏み場をちゃんと確認しながら「次」「次」と一歩を早く、走って、下りていきます。下りはブレーキをかけながらですから、これもまた相当に足に負荷がかかります。
そうですね。下る、よりも、おちる、感じです。自分の意思とは裏腹に足は動くし、身体は進みます。みるみる下りていきます。
結果としては、最高に気持ちいいです。
目の前にただ集中して。抵抗できない流れに身を委ねている感じがして。
僕は容れ物だ、そういう時に思います。
下る時のこの爽快感のためにトレイルランニングをやっていると言っても過言ではありません。
ただ初めてのトレラン、下りを駆け下った僕は、10回以上捻挫しました。バスケットボールをやっていたので捻挫慣れしていたとはいえ、痛いです。アドレナリンが出ていたのでなんとかなりましたが、痛いです(笑)
そんなこんなで僕の初トレランは最高の景色と、重い捻挫と共に終わりました。
5年ぶりのトレランで思ったこと
そこからトレランは4年やっていませんでした。1年前くらいから数回登山をしたり、低山を少し走ったり、それくらいです。
でも今回別の友人が誘ってくれたことで、また走ってみようと思ったんです。レースと聞いて、胸が躍ったんです。ただなんとなく、それを欲していたのかもしれないなと思います。(その友人たちはほぼ登山、きつそうだからと出場を辞退したんですが笑)
走り始めて1番に思ったことは、僕はやっぱり勝ち負けが好きなんだということでした。目の前に人がいたら「抜かしたい」。どうしても「負けたくない」と思ってしまうんですね。
3歳から水泳をやって、バスケをして、勉強をして、消防士でも訓練や大会がありました。当分そういう”戦い”みたいなものから離れていましたが、これはもうそういう性なのかなと思います。
大学時代にプロの選手や日本代表とか、海外に行く選手とプレーをして、上には上がいることは痛いほど知っています。自分には届かないステージがあることは確かです。それを痛感しました。
だからこそ余計にルールの中での勝ち負けや上下は決まるのかもしれないけれど、人生でどちらが上だとか、下だとかそういうものはありません。本気でそう思います。
いいも、悪いも、人それぞれの基準であって、誰かに決められているわけでもないし、自分が自分を縛っているだけです。
あってもいいし、なくてもいいなと改めて感じました。山頂でそんな気分になったんです。
そういうルールの中に自分の身を委ねることも時々あってもいいなと思いますが、人生に必要かと言われればそうではありません。
自分の世界観で、自分の認識の中で。幸せを選んで、決めて。ないものはなくとも、足りないわけじゃない。あるものがあって、大事なものがちゃんとある。余白を楽しんでいけたらなと。そう、思います。
何事にも準備が必要
それから具体的にもいくつか。
まずは準備って大事だなと。
今回のトレランを例に挙げるのであれば、
などなど他にもありますが、準備をしていることで初めて本番で、力を出すべき時に本領発揮できるんだと思います。リスク回避ができて、余計なことを考えなくて済むし、緊急事態に慌てすぎず対応できるんだと思います。
その準備が、今の僕にはありませんでした。トレーニングは2日に1回、5キロを30分くらいかけてちょっと坂道がある道を走るだけです。
登りをしても攣らない足腰も、32kmをずっと走り続ける持久力もありませんでした。その予測も、予防も、起きた時の対策もありません。
今回のレースの32kmのうち頂上までが約12km(ここまでが1番しんどい)、その後20kmも登ったり下ったりはありますが、正直最初の8km地点で心が折れかけました。
なまじ体力がある時の記憶と経験で「あの時ほど体力はないけど、きっと大丈夫だろう。」とたかを括っていたんですね。
左足の小指は血が止まっている感じがして痛いし、太ももはとにかくしんどい。登りはみんな走っていけない分、前にも後ろにも人がいるので、ペースを合わせなくてはいけません。何度止まって、前に行ってもらおうかと思ったか。
時々ある平地や下りも、ふくらはぎと脛もほぼ攣りかけながら走ります。
この時余裕がなくなって初めて、「準備していない状態で挑むことは、こんなにも怖いんだ」と思ったんです。あと3分の2以上、ゴールできる気がしませんでした。
いつ、どこで補給食(エネルギーチャージ)を取ればいいかもわからないし、水を飲むべきかタイミングもよくわかりません。
途中に何箇所か「エイド」と呼ばれる食べ物や飲み物を補給するポイントが、大会を主催してくれる団体によって設けられています。
ただこの場所も特に把握していなかったので、8km地点から次が20km地点までないことをよくわかっていませんでした。
その結果頂上の12km地点で水は無くなりました。飲み過ぎたんです。
「ここから8km、水なしで走り切れるのか?脱水症状にならないか?」
ずっと不安の中走ることになりました。途中何度も何度も水を他のランナーさんにもらえないか頼もうかと思ったし、でもあとちょっとだからと補給食のジェルに水分もいくらか含まれているので、なんとか乗り切れるだろうとも思いました。特に根拠はありません。だっていつどれくらい水を飲めば脱水症状にならないかわかっていないんですから。
結果的には、20km地点のエイドまで水なしでたどり着くことができました。
でも、脱水症状になるリスクがある。不安が常にある状態でのランは心身ともにパフォーマンスを発揮することができません。
何度か山に入ってトレーニングをするべきだったし、経験者に聞いてみることや勉強することも必要だったと思います。
行き当たりばったりも、当たって砕けろも、準備があるからできることです。
無謀さはときに誰かに迷惑をかけます。命に関わります。
今回はそんなに大したことではなかったのかもしれないし(大会ですから周りにたくさん人がいて、リタイアもできます)、経験者からすればそれくらいは余裕なのかもしれないけれど、それでも挑戦には準備が必要だと感じました。
これからは準備をしていきたいと思います。
挑戦が見せてくれる景色がある
ああ、やっぱり、やってみることで見える景色があるなと思いました。
それは自分の目から見える景色であり、それを経験した自分自身でもあります。その感覚でもあるんだと思います。
標高1255mの那岐山からの景色は、登ってみないと実際に自分の目では見ることはできなかったし、そこに登る前の自分と、登った後の自分は紛れもなく違う自分です。登った後の自分になれています。
だから生きたいは、行きたいであってほしいなと思います。
行きたい場所や見たい景色があるから、行きたいと思うし、生きたいと思えるんじゃないかなと思うんです。
だから人生には出会いがあるんだし、出会えることで見える景色と、出会える自分がいるんだと思います。
それから行ってみるからこそ、見えてくること、新しい自分がいて、大事なものを見つめ直すことができるんだと思います。
今回のトレランに出るにあたって、送り迎えをしてくれた妻さんには本当に感謝しています。帰りの車の中では、足が痛すぎて攣りまくっていましたし、疲れ果てて爆睡です。運転することすらままならなかったです。彼女のおかげで、無事帰ってくることができました。
見たい景色を見るために僕たちにはできることがあるし、見つめなおせる大事なものがあるし、そのために動いて、出会うことが大事だなと思います。
どんなに遅くても、進み続ければ、止まらない
ただ一つだけ、レースという意味での収穫があったとしたら、下りはそこそこ走れたことです。
止まらずに、あまり力まずに足に負担をかけないように、身体を容れ物にして、下る流れに身を委ねて、たくさん追い越すこともできました。
これは5年前の捻挫してばかりのときからの成長ですし、少しの期間ですが、下り坂を駆け下った積み重ねがあったからこそです。
でも、最後のロード(山を下りてきて、ゴールまでの道路のこと)はほぼ歩きました。もう太ももが限界で、ずっと攣っていました。気持ちは切れていなかったし、でも走れなかったんです。
だから歩くことにしました。一生懸命、最大限出せる速さで歩きました。
その結果、下りで抜いてきた人たちに、抜かれていくんです。悔しさはありません。みんな頑張れって心から思います。
自分が最後まで足を残っていないだけの、ただのトレーニング不足を感じます。
でもね、また追いつけることもあるんです。ロードで抜いていった人たちも、ずっと走れているわけじゃなく、登りで走れなくなって、疲れて歩くこともあります。
そうすると、ずっと歩き続けていたら、ちゃんと追いつけて、また前に行けることもあるんです。
だからどっちがすごいとかでもなく、ちゃんと進んでいるんだと思いました。
走れなくても、歩いていたとしても、どんなに早い人たちより、遅くても、進み続ければ、止まらなければ、いやたとえ少しの間止まったとしても、また進み出せば、止まらない、終わらない。
そう思いました。
いいんです。
それだけでいいなと思います。
進み続けることができていない。しんどいことにチャレンジできていない。すぐにやめてしまう。
でもね、ちゃんと進んでいて。今日が終わっても、運よく生きていれば、また明日がきます。
何もしていなかったり、何もできていなかったり、何かをやめてしまったとしても、ちゃんと進んでるんです。
やめなければ、進んでるんです。また始めれば、やめたことにはなりません。
今日もこうして書くことができました。
書くために、出会っています。景色に、ものに、コトに、人に、自分に。
だからきっと挑戦を続けていくんだと思います。自分のやりたいと思えることを、できることをできるように、好きな人と一緒にいたいから、一緒にいられるように。
時々しんどいけど、きっとそれもまた人生です。
しんどいけど、楽しい。
振り返ってみたら、よかった。
目指していたものよりも前に、嬉しさがきた。
道草をしていこうね。
しんどいことをするあなたへ
道草をする物書きより
※
那岐ピークスタフトレイルチャレンジ、参加して本当によかったです。しんどかったけど、すごく楽しかったです。
大会関係者の皆様、本当にお疲れ様でした。エイドで食べたおにぎりも、フルーツポンチも、口がパサパサになったお饅頭も。頂上にいたアフロのお兄さんも。道中「大丈夫?」「頑張りましょう」と声をかけてくださったランナーの皆さんも。
5年前誘ってくれた友人も、今回誘ってくれた友人も、送り迎えをしてくれた妻さんも。
こうなってくると本当に今あるのは自分だけじゃないって思えます。消防士になって、友人と出会った自分にも感謝することになるわけで、消防士になろうと思ったきっかけの父さんにも、産んでくれた母さんにも感謝することになるんです。
笑いたくなります。全部なければ、今はない。
有り難いなと思います。
最後まで読んでくださったあなたにもありがとうを伝えたいと思います。
ありがとうございました。
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これまた大好きな漫画です。
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すべての愛する人がいる人に読んでほしい本。
Amazonのkindleunlimitedなら読み放題対象です。
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代筆屋とお話ししてみたいあなたへ。恋のこと、仕事のこと。人生のことで話したいことがある人、聞きたいことがある人、悩みがある人。いつでもご連絡ください。
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