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香港の夜は明けない
かれこれ8年ほど前、私は友人と共に2人で香港にいた。訪れるきっかけはよく覚えてないが、渡航費が安かったのと、ネオンのギラついた街並みを一目見たいと思っていたからかもしれない。
今振り返ってみると、随分昔のことのような気がする。あれから時間が流れ、今トップ画像にあるようなこれぞ香港! という、私たちが憧れ抱いたネオンのギラついたレトロな風景は、コロナの時に取り払われてしまったというのをTwitterで見た。
今の写真はどちらかというとこざっぱりとし、当時私が感じたようなどこか危なげでありながらでも懐かしいと感じる空気は一掃され、日本の銀座の風景に近しくなってしまった。無味乾燥。ああ、これはなんだかつまらなくなってしまったな、とため息をついた。
香港へ訪れたとき、写真にちょうどハマり始めて2年くらいの月日が流れていた頃合いだった。とにかく目に入るもの全てが新鮮で、目に入るもの全てに対して尊敬の念を抱いていた。密集したビル群、行き交う人の顔、飛び交う広東語。彼らが喋る言葉はただただ早くて、軽く話しかけようものなら、怒っていないのに怒っているように聞こえた。
邂逅
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今とは異なる写真のテイスト。その時好きだった写真家の影響で、ざらついた写真の雰囲気を好んで編集していた。気にかかるものがあればカメラを向けていたので、今考えるとよくそんな勇気があったなぁとしみじみ思う。地下鉄は薄暗くて、でも私と同じ空間にいる人たちが果たしてその場で何を考えているのか、ということを知りたかった。綺麗な言葉では決して片付けることのできない、生活の香りをまざまざと感じた。
私が当時訪れた時も、まさに香港は変わり始めている瞬間だった。昔は犯罪の巣窟と言われていた九龍城、巨大なスラム街で一度入ると二度と出てこられないと言われていたその場所は、今では市民たちの憩いの場である公園となっていた。平和な雰囲気漂うその街は、よかったなぁと思いながらも心の底では一度でいいから九龍城を見てみたかった、と密かに思っている自分に驚いた。
豆腐花
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香港は大まかに7つのエリアに分かれている。元々ネオン街のあった尖沙咀、ただただ人の密集している佐敦〜油麻地、個性的な店を連ねる旺角〜太子、観光の中心である上環〜中環、ビジネスの中心である金鐘〜灣仔、ショッピングセンターの集まる銅鑼灣、近代とレトロが集まった西環。
上環はビジネス街でありながら、キャットストリートと呼ばれていた、昔は盗品が売られていたエリアだった。訪れた時はもうだいぶ区画整理された後で、それでも一定の怪しげな場所も存在していた。私と友人はただひたすら何かに背中を押されるように、歩き続けた。香港の街は至る所にスイーツ屋や肉まんみたいな軽食をオーダーできるお店が散在している。
私が特に好きだったのは、豆腐花だった。豆乳をゼラチンのように固めたもので、ツルツルとした食感とふわりと感じる甘さが特徴的だった。それを食べるだけで暑さなぞ、一気に吹き飛んでしまうのである。
胡乱
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言わずと知れた重慶大厦を見て、浮き足立ったことを思い出す。この時はまだ『恋する惑星』を見たことがなかったのだが、とにかくニッチな観光客にとってはここは外してはいけないと言われていた。特に一緒に行った友人が、「これが!!」と言って、とても感動していた。この場所は尖沙咀エリアの、ネイザンロードにある。重厚に聳え立つ建物は1960年代に作られたマンションで、今でも普通に人が住んでいる。集合体恐怖症の人が見たら、その景観にさぞや吐き気を催すだろう。
A〜E棟の5つのエリアからなり、それぞれで値段が異なる。このマンションの中もなかなかに怪しさ満点なのだ。興味本位で1時間くらい私たちは入ってみたのだが、これは旅慣れしている人にとっても胡散臭さが漂っており、あちらこちらで声をかけられて「ニセモノアルヨ」と平気な顔をして言う。背中がじっとり濡れていたのは、暑さのせいだけではないだろう。
きっと今の日本ほどではないにしても、その時の香港もとても暑かった。割と小さな島なのでどこへ行ってもたくさんの人でひしめいている。見ようによっては、どこも人の匂いが溢れかえっている。渋谷の街も時折どうしようもない異臭がすることはあるのだが、香港の路地裏はそれとはまた異なる不穏な匂いが漂っていた。
*
平穏
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オープントップバスにどうしても友人が乗りたいと言って、事前に予約して夜その乗り物に乗って市内を回った。これは山の景色を見るオプションもセットになっていて、ピークトラムと呼ばれるゴンドラに乗って頂上へと向かう。
100万ドルの夜景と言われており、かなり美しい場所という前評判を聞いていてウッキウキだった。ところが、いざたどり着くとあたりは濃霧が立ち込めており小さな光一つさえ確認することができなかった。これはもはや0ドルではないか、と我々は密かに囁いて肩を落としたのは今では良き思い出である。
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滞在は4日間ほどで、最終日には香港からフェリーで小一時間ほどの場所にあるラマ島を訪れた。ラマ島自体は、香港とは全く様相を呈していた。時間がじっくりと流れ、香港島で感じたような徒労感は感じなかった。ここでも豆腐花を食べたのだが、ジンジャーシロップをおかけるだけで、とても素朴で舌鼓を打った。その後、高揚したノリで軽いトレッキングをしたのだが、ただただ歩き続けてこれはなんの修行だろうか、と後悔する羽目になった。
旅している時って、不思議とどっと疲れが押し寄せてくる。見聞きするものが全てが新しいものばかりで、場合によっては食あたりを起こしたりもする(感覚的にも、物理的にも)。自分たちと異なる文化に住む人たちの生活を垣間見ることができるだけでどうしてこんなにも面白いのだろう。
実は8月の末に海外出張で香港に行くことになっている。少し観光する時間が取れそうなので、せっかくだからその当時との違いについても探っていければと思って今心が弾んでいる。
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