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日常と野生の狭間|タンザニア(2)
前回の記事
タンザニアのアルーシャという場所に滞在して2日目、あらかじめ予約しておいたサファリツアーに参加する日がやってきた。実を言うと、私自身はものすごく動物好きかと言われるとそんなことはなくて、目の前に猫や犬が現れたとしたら決して近づきはせずに可愛いのぅと囁くように距離を取るくらいの好き加減である。
とはいうものの、普段は野生の動物を見る機会がなくて、実際に檻の中に囲われていない動物を自分自身が見たときに自分の感情がどう揺さぶられるのかということがとても気になっていた。いわば、通常であれば絶対に行くことのないであろうサファリに自分がいくことで、何か自分自身の殻を破りたかったというか、少し世界を広げてみたい、という目的があった。
早朝、宿にサファリガイドがジープに乗ってやってくる。私は前の日にかなり早いタイミングで眠ったために、もうすっかりやる気自体は満ち溢れていた。今回は、3泊2日の旅。バッグには宿泊に必要と思われる一式と、それからこのサファリのためにわざわざ購入した望遠ズームレンズ80mm-400mmもしっかり中に入れる(ちなみにこのレンズはほとんどサファリの時以外に活躍していない。その他の旅ではもはや簡易ダンベルと化していた…)。
新品だと30万強だったが、流石にそれを買う勇気はなくて中古で10万くらいのほぼ新品とされるものを購入した。普段は50mmの単焦点レンズしか使うことがなくて今後また活躍するのかどうか甚だ疑問だけど、いつか動物を撮る時に活躍していることを切に願う。
こころが弾む、ジープは揺れる
さて、今回のサファリツアーにおける同行者は私と現地ガイドを含めて七人である。スウェーデンからきたナディームとシワンチ(彼らは大学で出会った友人同士)と、それからイングランドから来たエミリーとアンバ(彼女たちは元々教師と生徒という関係性。たまたま今は一緒に旅しているが、このサファリツアーが終わったら別々に旅する予定だそうだ)、それとツアー中にご飯を作ってくれるシェフである。
前回のエチオピアにおける旅は、どうも他のクルーの一部とソリが合わなくてちょっとしたストレスを抱えていたのだが、今回のツアーメンバーは皆気さくな人たちばかりで、始終和気藹々とした雰囲気に包まれていた。おかげでツアーはとても楽しいものとなったので、改めて一緒に行く人たちが誰かによってツアーの楽しさは倍増するし半減もするのだと今回の旅で悟った。
サファリの場所への移動中、私たちはお互いの自己紹介をしつつ、これからの旅と今後の旅について話をする。そして、文化に違いについて語り合う。これは毎回ツアーを参加するにあたって同じような流れにはなるのだが、いつも語り合う内容については違うのでそれがまた面白い。
元々スウェーデンの人たちは全体的に陰キャな性格の人たちが多いらしいが、ナディームとシワンチはどちらも移民らしく、逆にとても明るい雰囲気の人たちだった。ナディームは20年ほど前に起こったボスニア=ヘルツェゴビナ紛争によって家族でスウェーデンへと移り住んだらしい。
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そんなこんなで宿からかれこれ3時間、ひたすら道を進んでいくとついにサファリの入り口にたどり着く。ちなみに、アルーシャ付近のサファリで有名なのが今回訪れたンゴロンゴロ保全区域と、セレンゲティ国立公園である。セレンゲティは生物多様性と生態学的重要性の観点から世界遺産にも選ばれており、かなり広大な敷地の中でたくさんの動物たちが悠々と暮らしている。
サファリランドの入り口を通過していよいよ動物たちがいるエリアへ突入する。ここからすでにどんな景色が見られるのか、ドキドキしていた。すると、しばらく進んでいくうちに、早速大きなキリンが忽然と姿を現し自然とキャホー!と声を出してしまっていた。窓を通してだが、実際に野生のキリンが悠々自適に動いている、その姿を見るだけで心がグラグラと揺れうごいた。
ドライブ・ゲーム
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ずっと重くて私の肩こりの要因となっていた馬鹿でかいズームレンズ。ここにきてようやく良い仕事をし始める。私の隣に座っていたエミリーも、「わお、プロフェッショナル!」と言ってくれたものだから、ついつい調子に乗って動物が現れるたびに次々にファインダーに収めていく。た、楽しい……。自然に溶け込んでいる動物たちは、当然ながら私たちがまるでいないかのように自然体で生活をしていて、その姿が神々しい。
ちなみに私が今回参加したツアーはゲーム・ドライブと言われ、どんな動物に出会えるかというのはかなり運次第らしい。サファリに参加するにあたっては、見れたらラッキー★!とされているBIG5がいる。それが、ライオン・ヒョウ・ゾウ・バッファロー・サイである。これが全て見られることは結構珍しいらしいが、幸運にも私が訪れた時この全てを見ることができた。
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サイも、ツアーの本当に最後の最後で見ることができたけれど、残念ながらかなり車から離れた場所にいたのでガイドの人に教えてもらっても正直いかつい岩が二つあるなぁと何ともショボくれた感想した持つことができなかったので今回は割愛。最初、新しい動物が目の前に現れるたびに、サ○シがポケモンゲットだぜー!という気持ちがわかったのだが、これが終盤になってくるとけっこう疲れてくる。
おそらくシマウマは超メジャーな動物で、サファリ内にはうじゃうじゃいた。たぶん一生分、今回の旅でシマウマを見ることができたのではないかと思う。ライオンについては、ガイドが気を利かせてくれてかなり近くまで行くことができたし、そしてコロコロと変わる表情も見ることができたからとても満足。バッファローもあちこちにいたっけな。
それとヒョウはかなーりレアでたまたま私が行った時は見ることができた。そしてこれまた偶然にもヒョウが木の枝で休んでいる時に鹿が木の下に通りかかり、私たちはその様子を息を飲んで見つめていた。というのも、みんなヒョウが獲物を定めて近づく様子を見ることができたから。私たちはヒョウが標的である鹿を捕食する姿を固唾を飲んで見守っていたのである。
私自身ももちろん興奮していたのだが、一方でなぜにもこんなにエキサイティングな気持ちが湧き上がっているのか、その説明が自分の中でできなくて、でもこれはきっと人が持つ非現実に対する刺激を求めるような気持ちが作用しているのかもしれなかった。自分たちは安全な場所にいるわけだから、その時点でずるい気がしないでもないが。
結局この時鹿がヒョウの気配に気がついて逃げてしまった。ヒョウも特にそれを追いかけることなく、元いた場所に移ったので私たちは少し肩透かしを食らった気分になった。
行きは良い良いテントは怖い
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ちなみに、夜は1日目の夜も2日目の夜もどちらもテントに泊まった。同じくアフリカのサファリへよく行く友人に、料金が6万切ることを伝えるとたいそう驚かれるのだが、その安さの大元はこの泊まる場所にあるように思う。これはかなーりスリリングで、ガイドには夜10時以降は絶対出ちゃだめだよ!と釘を刺された。
というのも、このテントサイトは当然ながらサファリの敷地内にあるので、動物たちが食べ物の匂いを嗅ぎつけてやってきてしまうかららしい。おわーお、本当ですかー!?と内心かなり心配であったし、実際それぞれの夜不審な足音を聞いた。次の日に他のメンバーに聞いたら、言いつけを破ってトイレに行った人がいたらしく、彼女は外でゴソゴソ歩き回るバッファローとハイエナを目撃したそうだ。こ、怖すぎる……。
それとキャンプサイトに設置されているテントは、おそらくそれほど頻繁に清掃されていないせいか、競技場で昔よく嗅いだ汗の匂いがたっぷりと染み込んでいてちょっとウッとなった。ただ、人間とは不思議なもので、しばらく中にいるうちに匂いに慣れてしまった。シャワーも浴びることができないので、潔癖症な人は少しお金出してコンドミニアムみたいなところに泊まるプランがおすすめ。
ちょうど今回ツアーに参加した日は満月で、そのまん丸とした形が何とも言えない情緒を醸し出していて、思わず月に向かって吠えたくなった。もしかしたら私の前世は狼だったのかもしれない。
アニマル・ドリームランド
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2日目の朝、朝食を済ませてセレンゲティ国立公園内をひた走る。実はサファリツアーといえども様々なアクティビティが用意されているらしく、私が参加した時にはバルーンが飛んでいて、それがとてもサファリの背景として馴染んでいた。バルーンのフォルムが可愛すぎて、思わず写真をたくさん撮ってしまっていた。
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敷地内には、現地人と思われる人たちもちらほら見かけた。彼らは「マサイ族」で、元々セレンゲティ国立公園が作られる前にその場所で暮らしていたのだという。ただ、国立公園が作られるタイミングで元々いた土地を追い出され、行き着いた先がンゴロンゴロ保全地域(彼らの言葉でクレーターを意味する)ということらしい。
ある種人のエゴのために元いた故郷を追い出されてしまった彼らの心境を慮った。同時に、自動車の中にいて安穏とした環境から動物たちを撮る自分のことを考えた。私はもともとアジアなどに行った時も、よくバスの中から現地の人を撮る、といった行為を行なっていたのだが、これもよもやサファリツアーに近い感覚なのではないだろうか。
彼らの生活が何とも物珍しくて、どうにかして比較的安全な場所から第三者的な視点で街中にいる人たちを撮影して。これがサファリで動物を撮っているときとどう違うのか。この後も街中を撮影し続けていく中で、この私の中で何とも消化しきれない感情がぐるぐると螺旋を描き、そして時々私の心の中をチクチクと刺した。
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特に最終日が圧巻だった。元々ンゴロンゴロの意味であるクレーターは今や広大な湖となっており、その周りには多種多様な動物たちが生息していた。私がこの旅の中で、とても見たいと思っていたフラミンゴが水辺で戯れる姿を見ることもできたし、何千頭という動物たちが列をなして移動する姿も見ることができた。
これだけの野生動物を見る機会は、たぶん一生にないかもしれない。こうして初めてサファリツアーに参加してみて、やっぱり夜が何とも大変だったけれど、自分の中で収穫したものはたくさんあったように思う。コロコロと移り変わる動物たちの表情が、まさに彼らが野生で生きていることの証左だと思った。これをきっかけに、またいつか違う場所でサファリに行くかもしれない。それくらい、なかなかにハードながらも魅力に溢れたツアーだった。
私たちは一定の興奮を携えたまま、3日目にもときた道を戻っていく。最後今回のツアーメンバーとはどうにも別れが惜しかった。互いにいつか相手の国での再会を誓い合い、私たちは別れた。そして次の日の早朝、私は世界一危険とされるダルエスサラームへ、バスに乗って移動する。
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