会社は小さいほどうまくいく:ダフトクラフトが「Stay Small」する訳 | 私と社長 #1
note担当の新入社員:オオタが、ダフトクラフトの社長:花島にダフトクラフトの「コア」についてインタビューをする新企画『私と社長』。これから3週連続でお届けしていきます。
今回はダフトクラフトのアイデンティティの一つである「小さなチーム」の大元になっている「Stay Small」というアイディアを中心に、経営や採用など様々なことについて語ります。
「会社とは拡大するもの」だった
(オオタ)私がダフトクラフトに入社する前から、花島さんは「Stay Small」っていう本を紹介してくれていましたよね。このアイディアと花島さんとの出会いはどんな感じだったんですか?この本の内容を花島さんの言葉で表すとしたら、どんな感じでしょう。
(花島)あれを読むまでは、組織は大きくなっていくものだ・成長し続けるべきだっていうのが当たり前だと思っていた。だけど、「売り上げ目標を決めて、そこからプラス70%ぐらいまで上回ったら一旦休む」っていうとこを読んだ時は結構衝撃で、同時にやっぱりこういう考え方してる人って他にもいるんだって腹落ちした部分もあって、純粋にこういうのも一つの生き方としていいんだなって感じた。
(オオタ)自分の中にモヤっとした違和感みたいなものがあったけど、その本を読んで言語化されたって感じですかね。
社会で当たり前とされてきた成長志向や拡大志向は「右肩上がり信仰」みたいな言葉で呼ばれることもあると思います。それで、このインタビューを準備するにあたり「右肩上がり信仰とはなんなのか」みたいなことを考えていたのですが、それがつまりは本来の目的を忘れて「規模拡大」「数値向上」を目的にしてしまっている状態なのではないかと思いました。
そこで今回Stay Smallというダフトの経営スタイルを語るにあたって、花島さんが今まで在籍してきた会社での「規模拡大が目的になったことで本当にやりたかったことが見え辛くなった」経験があるのかどうかを聞いてみたいです。
(花島)はい、右肩上がりに関しては本当にその通りだと思います。
僕はこれまで10年以上ゲーム業界で働いていて、いろんな変遷を見てきました。中でも僕が働き始めてからダフトを始めるまでのゲーム業界は、「ゲームを作るのに人がたくさん必要になる」という構造的変化が起きていました。
僕が最初の方に在籍した会社で作っていたのはブラウザゲーム。携帯のブラウザゲームが流行った時代でしたね。そのときは5人ぐらいのチームでも数千万の売り上げが作れていたんですよ。上手くいけば売り上げ1億円も狙えるくらい、夢がある時代でした。
でもそこから急激にハードや技術が進化していって、演出をもっとリッチにしたりいろんな処理に対応させたりする必要が出てきた。そうなると、もう5人10人の規模感では対応しきれなくなるんです。スマートフォンの時代になってからは、1本のアプリケーションを作るのに50人100人必要になることが当たり前になって。時代・ユーザー・ハードがどんどん成熟していくから、制作側も「完璧な状態でリリースしなきゃ!」っていうプレッシャーを感じていましたね。そんな構造的変化にうまく乗って新陳代謝を起こせた会社もあったし、逆にうまくいかなかった会社もたくさん目にしてきました。
(オオタ)なるほど。ということは構造的変化に順当な対応をすると、拡大せざるを得ないって話なんですね。この変化はどれくらい続いたんですか?
(花島)2008年ぐらい、いわゆる、iPhoneが日本に入ってきたタイミングだったと思います。
(オオタ)えっ、じゃあもう「5年かけて段々と……」とかではなくてこの年、この2008年の間の話なんですね。このとき花島さんは社員としてどのステージにいたんですか?
(花島)チームのディレクターとか、プロジェクトリーダーだった。1案件の収支管理とかチームマネージメントをしだしたタイミングだったかな。
(オオタ)部下を持った状態でその変化に対応していたんですね。
(花島)そうですね。その時代の特徴でいうと、例えば「5人で3000万のゲームを作れるなら、10人集めたら3000万+3000万で6000万の売り上げ作れるよね」っていう倍々ゲームのような勘定をしていたんですよ。だからどこの会社もゲームの量産をしてた。うまい経営をしてるところは、ベースのゲームシステムを作ってしまったら、あとはデザインや世界観だけを変えて横に増やしてくっていう体制を組んでたりもしたなぁ。
そんな「量産」時代のなかでゲームを作るとき何が難しいって、どんどん量産してくれ!ってどんどん資金が集まってくるもんだから、早く対応するためにとりあえずどんどん人を採用していっちゃうこと。僕は別にエンジニア欲しいって思ってなくても「今日から花島くんとこのチームに1人追加したから面倒見てあげてね〜」って、相性も何も関係なくチームメンバーが増えていってた。ほんと、毎月知らない人が何十人も増えてました。
(オオタ)チームワークを理解して頑張ってくれる人もいればそうでもない人もいて、 その中でディレクターをやんなきゃいけなかったんですね。
(花島)それでもいい出会いはありましたよ。例えば、ゲーム制作の上流にいる人が考えた世界観や設定について「これってなんでこうなってるんですかね」「なんやったら僕考えてもいいです?」みたいな言動をすることが許されてた時代でもあったから、急に一本小さい企画を任せてもらったりして。そこからだんだん自分のディレクター・アートディレクター・チームマネジメントのスキルが総合的に伸びていったし、組織作りって面白いかもと魅力を感じることができたりもしました。
「会社とは拡大するもの」なのか?
(オオタ)なるほど。「量産」時代は激動の時代だったとはいえ、花島さんにとっては良い思い出も多いんですね。いろんな無茶ぶりとかもあったけど、その中で出会えた人もいるし、魅力に感じることも発見できたし。
でも、自分の会社を持ったタイミングで「Stay Small」の本を読んで、「これだ!」って思った瞬間があったわけですよね。それはどこから来てると思いますか?
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(花島)その時代には、 「良いマネージャーとは、100人のチームも動かせる力を持つマネージャーだ」っていうセオリーが出来上がりつつあった。僕は2016年に1年間、50人規模のチームをマネジメントしたことがあったんだけど、やっぱりどうしてもドライになっちゃうし作業っぽくなってしまうので、モヤモヤしてたんですよね。その翌年、たまたま僕に任されたのが10人ぐらいの新規事業部だった。そこのチームと働いてみたら、まあしっくりくるわけです。
(オオタ)その「しっくりくるなぁ」って感じた時のエピソードって何か覚えてますか?
(花島)覚えてる。それが今ダフトで働いている岩城さんとの出会いなんですよ。
僕らが出会った会社はものすごい大規模の採用をしてるフェーズで、岩城さんは元からいて、僕はそのタイミングで入社してきた。入社してすぐに任された案件が僕と岩城さんの二人でやる案件だったと。一緒にやってみると岩城さんはすごく腕のいいエンジニアで、言ったことをその通りサラリとやってくれる。だけど、その会社では彼は扱いづらい人材っていうラベルを貼られてて、なんでこんなに優秀な人がこんな待遇を受けてるんだ?ってもったいなく感じていたんです。
そうなっていた原因は色々あって、まずは当時の上長が “お友達マネジメント” で気に入った部下を自分の周りに固めたがる人だった。僕は会社の同僚はお友達じゃないから、仕様はこう・期日はこうって決めたことをちゃんとやってきてくれるエンジニアはそれだけで評価されるもんやと思ってたんだけど、その上長は違ったわけですね。
あとは、組織って大きくなると必ず「派閥」みたいなものが作られる。多分それはどんな会社でも避けられない。それでも会社にとって「ひとつの強いサービス」があればそれが求心力になって、みんながまとまったりする。僕らがいた会社にはそんなサービスがなかったから、派閥が作られることによる弊害がどうしても出てしまっていたのかな。
で、そんな僕と岩城さんのチームに現ダフトのメンバーである遠藤さんや佐藤さんも追加されてきて、小規模だけど、技術が伴った仕事をやってた。お友達マネジメントに漏れて流されてきたメンバーってだけあってみんなすごい個性が強いんだけど、何より腕がよかったから色々面白く動けたな。
つまり、その会社で現ダフトのメンバーと出会ったことが、「個性を生かすマネジメントができる規模感」の良さを実感した体験になったんだよね。
大人数でチームを回していかなきゃならないときは、自分の意見を殺してYESマンになった方がもちろんスムーズに進むわけです。そういう割り切った対応ができる人のことは尊敬するしすごいなあって思うけど、僕にはそれができなかった。やりたいことにはやりたいって言うし、そりゃないだろってことにはそう言っちゃう。
チームリーダーとしての僕の個性も、手を動かしてくれるエンジニアの個性も、全部そのままで活かしていける規模感が、僕にとっては10人くらいの小さなチームだったんです。
「オモロいもんを作る会社」として必要な拡大とは
(オオタ)ダフトの話に戻ります。「オモロいもん創ろう」が私たちの会社のミッションですが、その場合「オモロいもんを作るために必要ならば拡大をする」可能性があると思います。
そこで「オモロいもん創るために必要な要素」ってなんだろう?と個人的に考えてみて、心の余裕や、インプット量・アウトプット力、そしてチームワークのためのコミュニケーション量などの要素が大事なのではないかなと思いました。なので、ダフトの中で余裕がない要素を「得意です!任せてください!」って言って担当してくれる人を採用するのは必要な拡大だと言えるんじゃないかと。
例えば花島さんが事務作業系の締め切りに追われていて心の余裕もインプットの時間もない時、事務作業が得意な別のメンバーに仕事を割り振ることができれば、花島さんが「オモロいもん創る」ために充てられるリソースが確保できますよね。
花島さんは、ダフトにとって必要な拡大はどのようなかたちだと思いますか?
(花島)オモロいもんを創るために必要な要素はその通りだと思います。でも僕的に、「共感」っていう要素が欠かせないと思っています。「コミュニケーション」を「共感」と言い換えることもできるかも。今ダフトにいるメンバーはみんなダフトに入る前から「オモロいもんを創りたい」って思うような体験をしたことがある人だと思っているんですよ。作品の形は違っていても、みんな何かを本気で作ったことがある。共感は、同じような体験をしたことがある人同士で生まれる。
だから組織拡大の話に行くと、その人には僕らが掲げているミッション・ビジョンに共感していて欲しいし、共感につながるような体験を持っていて欲しい。最近だったら「メタバースとかVRとか、時代に必要とされてることをやる会社ならどこでもいい」とか「自分のスキルを活かせるならどこでもいい」っていう人もいると思う。だけどそういう人を加えることで組織を拡大させても、なかなかうまくいかないんじゃないかなと思います。
(オオタ)いくら仕事ができる人でも、いくら心の余裕がある人でも、私たちが面白がっているものに共感してもらえなかったらそこは厳しいってことですね。そうなるとダフトでの採用活動は「100万分の1から探す」ぐらいの気持ちで、細やかにやっていく必要がありそうですね。
「カンパニーオブワン」になるための試行錯誤
(太田)最後の質問です。Stay Smallな経営をやっていく上で、「ここは気に入ってるしこれからも続けたい」と思っている部分、また、「ここは悩みながらやってる」っていう部分はそれぞれどんなことが挙げられますか?
(花島)まずチーム作りについて悩みながらやってる点から言うと、やっぱりバランス感覚。 全員が個性豊かで尖った人だけのチームとなるとまとまらないし、逆に全員同じ価値観を持ってたら居心地がいいかって言われるとそれも違う。モノづくりの面でいくと、0から1を生み出すのが得意な人だけで集まってたら、1から100にしていく作業は不得意ってことになっちゃう。
「この人が組織に入った時、どんな作用が生まれるだろう?」ってイメージしながら、バランスをとりながらチーム作りをしていくことの重要性と難しさを感じてる。
逆にこれからも続けたいと思ってる試みは、「完全にダフトに入ってもらう」のではなく、何かのタイミングで共感してくれてる人や何かのエッセンスに共感してくれてる人と、スポットで提携・コラボレーションしていくこと。自分たちの組織を外から客観的に見てくれる人がプロジェクトの中にいることで気づけることって、すごく多いんだなと実感してる。
チームの強みとしてのStay Smallでいうと、「ダフトじゃないとできない」仕事をこれからも伸ばしていきたい。というかそもそも僕がこの本の中で一番惹かれたアイディアは「自分達じゃないとできないことを持っている組織:Company of One になろう」っていう部分で。Company of Oneになれていれば、たとえ1ヶ月間の休暇をとったとしてもまた仕事が入る。その会社にしかできない仕事があれば、その会社はずっと必要とされるからね。
(オオタ)誰でもできる仕事ならその人口は増えるし、真似がしづらい仕事なら人口は減る。結果としてのStay Smallですね。
(花島)さらに加えると、Company of Oneになれるなら「Person of One」にもなれるんじゃないかと思っていて。組織に依存するんじゃなく、最終的に会社がなくなっても1人で生きていけるような人が集まるのが最終的な理想なのかなって。ただ「Person of One」の集団、かつチームワークもめちゃくちゃいい集団を作るのは、多分かなり難しい。だから目指したい部分でありつつ、悩ましい部分でもあるかな。
(オオタ)あとは、「対クライアント」の場面を考えたときに挙がってくることはありますかね?
(花島)「まだまだだな」と思ってることから言うと、僕たちはどんな「Company of One」なのか、どんなアイディアを持っていてどんなことができるのかが全然発信できてないこと。外から見たら、僕らは何してる会社なのかいまだに全然わかんない状態なんだと思う。
(オオタ)それに対して個人的に気になってたんですけど、「説明したらオモロくなくなるやろ」って思ってたから、結果発信不足になったっていうことはありませんか?それともただ「説明したいとは思ってるけどまだ時間が取れなくてしてない」のか、って実際のところどっちなんでしょう。
(花島)正直、創業初期の頃は「わからんやつはわからんやろ」「別に俺らと一緒に仕事してくれた人だけが理解してくれてればいい」って思ってた。だけどやっぱりそれじゃ限界があったなぁと今は思っていて、共感を生むこと・広げていくことが必要だと思ってる。特に僕らは今自社で製品を作っているんだから、「この領域のユーザーはこういうものを欲しがってるのか」「こういう使い勝手が好まれるのか」っていうフィードバックをどんどん集めていくべきなんだよね。オープンにして反響を聞かないと、どんどん独りよがりな製品になっていっちゃう。こんなんあったんだ〜知らんかった〜って言われるような開発をしてたらあかんな、と思ってます。
(オオタ)なるほど。じゃあ対クライアントでうまくいってるなと思うことはありますか。
(花島)対クライアントでうまくいってることは、こういうXRシステムを導入すれば、この作業が効率化され、怪我も減り、仕事のミスも減り、時間を生み出せるようになるんですよっていうヴィジョンを共有しているところかな。
(オオタ)でもそれで言うと、XR開発の大手企業でも同じことが言えません?「XRがあればこんな未来が実現できて、こういうメリットがあって、こんな夢みたいなことが叶うんですよ」みたいなことは別に小さなチームじゃなくても言えると思います。
(花島)そうか……確かにその面でいうと大きい企業は営業部隊を持ってたりアプローチできる企業のレイヤーが違ったりするから、ダフトならではの強みではないかもしれないね。
大手といえば、大手にXRの開発を頼んで本来のニーズが実現しなかったお客さんがダフトに流れ着いてくるっていうことが本当に多いんですよ。それは、XR作りたいっていうお客さんに対してどれだけ真剣に向き合ってるかの違いなのかな。XRのモノづくりを本気でやりきろうとすると、見本もない状態で1から技術を学ぶ必要があるし、100%やれるっていう確証がない中でも手探りしていかないといけない。それでいうと僕らは「やり切る」姿勢を貫くことができてるのがうまくいってる点かもしれないですね。
(オオタ)そうそう。XR業界全体から感じる雰囲気として、やっぱりいまだに「ようこそ我がホームへ」「ようこそXRの摩訶不思議な世界へ」っていう感じで “クライアントを自陣に招く” 印象が強いんです。それに対してダフトのやり方は、「私たちがあなたのホームに伺います」っていう姿勢になってるんじゃないかなと。
(花島)その例えはすごくいいと思います。結局XRって単体で存在するものではなくて、何かの産業と絡んでいくことが必要になっていて。僕たちはその産業の中で単にXR技術を使うだけなんですよね。僕らはやっぱりユーザーファーストだし、現場主義。だから実際にXRが使われる現場からの声や使い勝手の感想っていうところを真摯に聞いていきたいし、専門性を究めることへの努力をしていきたいね。
今回はダフトクラフトが「Stay Small」という考え方を大事にするようになった経緯や、実際にこのイズムをどう体現しているかについて語りました。
次回は、そんな小さなチームであるダフトクラフトが実際にどのようにして働き、コラボレーションを起こしているのか。そのリアルについて語ります。