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『天ノ川綺麗と天ノ川雄大の姉弟はとどまるところを知らない!』第3話 【創作大賞2024・漫画原作部門応募作】


「ふう……」
 雄大が教室でため息をつく。
「よう、最近は漫画やアニメは良いのか?」
 佐藤が声をかける。
SNSのトレンドになるのも飽きた……
「い、一度は言ってみてえセリフだな……」
 佐藤が苦笑する。
「う~ん……!」
 雄大が髪の毛をかきむしる。佐藤が驚く。
「おいおい、イラつくなんて珍しいな。どうかしたのか?」
「なかなかままならないものだな……」
「なにがだよ?」
「……知りたいのか?」
「それは知りてえよ」
「そうか……ならば、五日後、ここに来てくれ……」
 雄大がスマホの画面を佐藤に見せる。
「これは千駄ヶ谷の……?」
 佐藤が首を傾げる。雄大が席を立つ。
「色々と煮詰めておきたい。今日は早退する」
「あ、ああ……」
「それじゃあな」
 雄大が教室を出ていく。五日後、佐藤は鈴木とともに千駄ヶ谷の体育館の客席に座っていた。スーツを着た男性がマイクを通じて声を上げる。
「年に一度のロボットの祭典! 『ロボットチャンピオンシップ』の開幕を宣言します!」
「ロ、ロボコンかよ!? 思っていたのと違った!」
「正確にはロボチャンよ……」
 鈴木が訂正する。
「違うのか?」
ロボチャンはロボットさえあれば誰でも参加出来るわ。学生や主婦、フリーターから反社会的勢力までね……」
「反社!? マ、マジかよ……」
「それはさすがに冗談よ」
 鈴木がフッと笑う。
「お、驚かすなよ……」
「でも、それくらい幅広く門戸を開いているのは確かよ」
「ふ~ん……雄大はここ最近、ずっと早退していたけど」
「綺麗も同じよ」
「っていうことは……二人でこのロボチャンに出るってことか?」
「……どうやらそうみたいね」
 鈴木がアリーナの方を指差す。二体の3メートル位の大きさのロボットにそれぞれ搭乗した、綺麗と雄大の姿があった。佐藤が面食らう。
「ロ、ロボットって搭乗型かよ!?」
「ロボチャンは基本、搭乗型のロボットでの参加よ。大体みんな、二足歩行型のロボットね」
「ロ、ロボットアニメが現実に……知らん内に日本始まっていた……
 佐藤が驚きながら呟く。
「さて、参加者も出揃ったところで……それでは早速、競技の方に移らさせていただきます!」
「競技ってなにをするんだ?」
「細かい種目変更は毎年あるけど……大体、スピードとパワーとテクニックを争う感じね」
 佐藤の問いに鈴木が答える。
「そうか……」
「では第一種目、『トライアスロン対決』です!」
 司会が告げる。
「ト、トライアスロン!?」
 佐藤が驚く。
「それではスタート!」
「ど、どうなるんだ……?」
 佐藤が見つめる。
「おおっと! 最初の水泳エリアで、ショートを起こして、リタイアするロボットが続出だ! これはどういうことだ!?」
「いや、予想出来ることだろう! 精密機械は濡らしたら駄目だって!」
 司会の言葉に佐藤が思わずツッコミを入れる。
「さあ、続いては、自転車エリア! ああっと! 小さな自転車に上手く跨れないロボットが続出だ! これはなんということだ!」
「そりゃあそうなるだろうよ! 機体がみんなデカいんだから!」
 佐藤が再びツッコミを入れる。
「さあ、最後のランニングエリア! ああっと! 天ノ川綺麗選手搭乗の機体、『ビューティフル』が物凄いスピードで走る! トップを独走だ!」
「は、速え!?」
「スピードを出すことには特に力を入れていたみたいだからね……」
 仰天する佐藤の隣で鈴木が冷静に呟く。
「ビューティフル、そのままトップでゴール! トライアスロン対決は天ノ川学院チームの天ノ川綺麗選手が制しました!」
「やったぞ!」
「ええ!」
 佐藤と鈴木がハイタッチをかわす。
「では第二種目、『綱引き対決』です!」
 司会が告げる。
「おお、純粋な力比べだな……!」
 佐藤が前のめりになって見つめる。
「ああっと! 優勝候補の大本命がここで敗退だ!」
「……!」
「おあっと! 優勝候補の最有力がここで敗退だ!」
「……!!」
「おおっと! 優勝候補の最右翼がここで敗退だ!」
「……!?」
「あおっと! 優勝候補の一押しがここで敗退だ!」
優勝候補筆頭どれだけいるんだよ!
 佐藤が思わず声を上げる。
「最後に勝ち残ったのは、天ノ川雄大選手搭乗の『マジェスティック』! 天ノ川学院チーム、これで2連勝です!」
「うおおっ!」
「やったわね!」
「ああ!」
 佐藤と鈴木が再びハイタッチをかわす。
「では第三種目、『テクニカル対決』です!」
「テクニカル?」
 司会の言葉に佐藤が首を傾げる。鈴木が呟く。
「テクニックを競うんでしょう」
「いや、それは大体分かるけれどよ……」
「まあ、どんな感じか見てみましょうよ」
 鈴木と佐藤はアリーナをじっくりと見つめる。
「さあ、ロボットのレフトハンドで箸を使って米粒を掴み、ライトハンドで毛筆を使って、米粒に般若心経を書き込むことが出来るか!?
「いやいや、テクニカルにも程があるだろう!?」
「そこまでの緻密さを求められるなんて大変ね、ロボットも……」
 佐藤が声を上げる横で、鈴木が苦笑する。
「おおっと!? 天ノ川綺麗選手搭乗のビューティフル! 漢文の般若心経だけでなく、日本語訳まで書き込んでいる! これは綿密だ!」
「なっ……」
 鈴木が言葉を失う。
「ああっと!? 天ノ川雄大選手搭乗のマジェスティック! レフトフットとライトフットで両手と同じ動きをしている! これは精密だ!」
「マ、マジかよ……」
 佐藤も言葉を失う。
「緻密・綿密・精密! これこそが『シン・三密』だあ!」
 司会が興奮気味に叫ぶ。鈴木が首を傾げる。
「言葉の意味はよく分からないけれど……それよりも……」
「ああ、このまま行けば二人の優勝はほぼ確実だぜ!」
 佐藤が頷く。
「ああー! こんなもんやってられるか! 馬鹿馬鹿しい!」
「!」
 真っ黒い機体が米粒をぶちまける。
「いい加減、まだるっこしい! 素直に奪い取ってくれる!」
「なにっ!?」
「ああっと! 南関東ギャングチームのワル選手搭乗の『ハンシャ』が暴れ出した! この大会の高額賞金目当ての反社会的勢力だったか!? これはまったく予想だにしない展開だ!
「十分予想出来ただろうが! 見落とし過ぎだ、大会運営!」
 佐藤が叫ぶ。
「おい! 大会運営! さっさと賞金を寄越せ! さもないと……」
「!!」
 ハンシャがどこからかロケットランチャーを取り出して、観客席に銃口を向ける。
「……観客が犠牲になるぞ?」
「……!」
 周囲に緊張が走る。
「お待ちなさい!」
「あん?」
「悪は絶対に許さん……!」
「ああん?」
 綺麗のビューティフルと雄大のマジェスティックが二体並んでハンシャの前に立ちはだかる。
「……綺麗!」
「……雄大!」
 鈴木と佐藤が声を上げる。
「……ぷっ、くっくっく……あーはっはっは!」
 ハンシャに搭乗するワルというスキンヘッドの男が大笑いをする。綺麗が尋ねる。
「……なにがおかしいのですか?」
「そりゃあおかしいだろう! まさかそんな小さい機体どもでこのハンシャに挑むつもりかよ!?」
 ハンシャの機体サイズはビューティフルやマジェスティックよりも一回りは大きい。
「ふふふ……」
 綺麗が静かに笑う。ワルが眉をひそめる。
「……あん? なにを笑っていやがる?」
「……機体サイズの差は補えばよろしいだけですわ」
「馬鹿を言うな! どうやってそんなことを……」
「こうするのですわ! 雄大!」
「ああ! 姉さん!」
「……準備はよろしくて?」
「いつでも良い!」
「結構! ジョイントシークエンス、アクション!
「!?」
 眩い光に包まれたかと思うと、ビューティフルとマジェスティックが合わさって、一つの機体となっていた。機体サイズはハンシャよりも大きい。
ビューティフルマジェスティック、見参!
「が、合体した……!?」
「うおおおお、かっけえええ!」
 驚嘆する鈴木の隣で佐藤が興奮する。
「ちいっ!」
「遅いですわ!」
「くっ!?」
 ハンシャがロケットランチャーをビューティフルマジェスティックに向けようとするが、ビューティフルマジェスティックはハンシャの懐に一瞬で入り、右腕を抑え込む。雄大が声を上げる。
「スピードだけじゃなく……パワーも2倍だぜ!」
「ぐっ!?」
 ビューティフルマジェスティックがハンシャの右腕を握り潰す。ロケットランチャーが床に転がる。雄大が呟く。
「これ以上の抵抗は無駄だ……」
「く、くそがっ!? 舐めるなよ、ガキが!」
 ハンシャが残った左腕で殴りかかろうとする。雄大が舌打ちする。
「ちっ……」
「分からず屋さんにはお仕置きですわ!」
「!?」
 ビューティフルマジェスティックが強烈なパンチを放つ。それを食らったハンシャの機体の上半分が下半分から千切れて、壁に向かって吹っ飛び、壁にめり込む。衝撃で気を失ったワルは操縦席から転げ落ち、警備員に身柄を拘束される。
「ふ、二人で反社会的勢力というか、テロリストを制圧しちゃったわよ……ははっ、凄すぎて笑っちゃうわよね……」
 鈴木が佐藤に声をかける。
「俺はようやっとだが、分かったことがある……」
「何?」
もう全部あいつら二人でいいんじゃないかな……
「確かに……」
 佐藤と鈴木が揃って両手を挙げて参ったというポーズを取る。
「さて……次はなにをしようか、姉さん?」
 ビューティフルマジェスティックの搭乗席で雄大が綺麗に問いかける。
「う~ん、やってみたいことが多すぎて……」
「俺も同じだよ、夢があまりに多すぎて……」
「「とどまるところを知らない!」」
 姉弟は揃って同じセリフを口にする。
「! ふふっ!」
「! ははっ!」
 姉弟は互いに顔を見合わせて笑った。
 
 


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