『ゲートバスターズー北陸戦線ー』第3話 【創作大賞2024・漫画原作部門応募作】
「……」
「………」
「ちょ、ちょっと……」
「行くぞ……」
「いつでもどうぞ」
葉の言葉に天空が頷く。
「だから、待ってってば……!」
「ふん!」
「むっ!」
「~~♪」
「!」
「ん!」
その場に同時に三つのアラーム音が流れる。
「こ、これは呼び出し……しかも相手は……⁉」
端末を取り出して確認した雪が驚く。同様に、自らの端末を確認した葉が天空に話す。
「……悪いが、またの機会だな」
「そうですか、奇遇ですね」
「?」
「僕もですよ。呼び出しを食らってしまいました♪」
天空が自身の端末をかざしながらおどける。
「……まったく、貴様はともかくとして本官まで呼び出しとはな」
「あ、その言いぐさ酷くないですか?」
「佐々美隊員はこの基地屈指のエリートだもの、アンタとは違うわ」
「雪っぺも酷いことを言うねえ……」
「事実を言ったまでよ」
天空たち三人が並んで歩く。
「……ちょっと待て……」
「はい?」
「どうかしたんですか?」
雪が葉に問う。葉が問い返す。
「なんで貴官らは着いてきているんだ?」
「いや、こっちに呼び出されたからです……」
「そうだね♪」
「奇遇なことも続くものだな……」
三人は基地内の古いビルの中のある部屋に揃ってたどり着く。天空が笑う。
「ははっ、またまたまた奇遇♪」
「笑っている場合か……? まあいい、佐々美葉以下三名、到着しました!」
「……どうぞ」
「失礼します!」
部屋の中から声が聞こえたため、葉を先頭に部屋に入る。
「む!」
「おおっと……」
雪と天空が困惑する。それなりに広い部屋は書類やら物やらが山積し、足の踏み場もほとんどなく、さらに壁一面に設置された多くのモニター画面が圧迫感をもたらしている。
「お呼び立てして、申し訳ない……」
軍服の上に白衣を羽織った男性が座っていた椅子をくるっと回して、三人と相対する。
「あ、貴方は……⁉」
葉が驚く。男性はやや面倒そうに立ち上がりながら、敬礼して名乗る。
「どうもはじめまして……深海破竹(ふかみはちく)です」
「この基地きっての優秀な隊員である貴官が何故こんなところに……」
「いや、先だっての面倒な任務が片付いたもので……上に意見具申した結果、早々と認められたのですよ。まあ、前々から似たような提案はしていたのですが……」
深海は短髪頭の後頭部を掻きながら答える。葉が首を傾げる。
「意見具申?」
「ええ、新たな部隊、第四部隊の新設です」
「だ、第四部隊⁉」
「そうです……お三方はその新設部隊の一員になってもらいます」
「「「!」」」
天空たちは驚きを浮かべる。葉が口を開く。
「この三人で全員ですか?」
「前線部隊はオレも含めて四人です……まあ、全員と考えてもらっても構わないです」
「何故、こういう顔ぶれに?」
「あ~各部隊長さんたちにかなり無理言って、優秀な隊員を引き抜かせて頂きました」
「優秀な隊員……照れるな~」
「あ、雷電隊員、君の場合は厄介払いのようなものです」
「や、厄介払い⁉」
「とはいえ、君については……!」
深海が自身の端末を確認し、それを部屋中のモニターに表示させ、天空らにも確認させる。
「こ、これは……」
「それでは早速ですがイレギュラー討伐といきましょうか、出動!」
深海が部屋の出口を指差し、三人に出動を促す。
「ゲート開放反応があった地点に到着しました」
「運転ご苦労さまです」
「ご武運を!」
深海たちを下ろすと隊員が車を後退させる。
「富山湾付近か……海からくると考えてよさそうですね」
深海が目の前に広がる海を眺めながら呟く。そこに通信が入る。
「ゲートが開きます……」
「来ましたか……」
「……ブオオッ!」
黒い漁船がいくつもゲートから飛び出してくる。
「……パターン黄、『悪機(あっき)』です……危険度はCです」
「ふむ、この富山市を中心とした富山県エリアはどうもあの種のイレギュラーが多いですね……何故でしょうか?」
深海が首を傾げる。葉が口を開く。
「恐れながら……」
「なんですか? 佐々美隊員?」
「まずは早急に討伐した方がよろしいかと……」
「このまま上陸させたらマズいですからね……それでは、佐々美隊員、お願い出来ますか?」
「はい……掛けまくも畏き……恐み恐み申す……!」
「ブオッ⁉」
葉が言葉を唱えると、黒い漁船たちが前に進むことがなくなる。
「ふむ、結界を張った感じですか? あれだけの漁船をまず止めるという判断は流石です」
「ええ、そうです。壁と言った方が近いのかもしれませんが……」
深海の問いに葉が答える。
「ブオオッ!」
「! ほう、壁を突破しようとしているか……宙山隊員、お願いします」
「は、はい! えい!」
「⁉」
全てではないが、漁船がほとんど動かなくなる。深海が頷く。
「ふむ、ヒーリング魔法の応用か、柔軟な発想ですね」
「あ、ありがとうございます……!」
いくつかの漁船が一か所に体当たりをして、壁を破って迫ってくる。
「うむ、向こうもどうしてなかなか頭が回りますね……雷電隊員、お願いします」
「おっしゃ!」
天空が左の掌を右の拳で殴る。
「お願いします」
「はい!」
天空が海に向かって走り出す。
「ブオオッ!」
「おりゃっ!」
「!」
「うりゃっ!」
「‼」
「どりゃっ!」
「⁉」
天空が向かってきた漁船を派手に蹴り飛ばす。漁船は次々と転覆する。
「僕の拳はどうだ!」
「パンチじゃなくてどう見てもキックだったかと思うのですが……なるほど、恐るべき近接戦闘能力ですね……」
胸を張る天空の背中を深海が感心しながら見つめる。
「はあ……」
天空がため息をつく。
「ブオオオッ!」
「おっ、まだ来るか⁉」
壁に空いた穴を突破した漁船が何隻か突っ込んでくる。
「えいっ!」
「ブオッ!」
「ていっ!」
「ブオッ‼」
「せいっ!」
「ブオッ⁉」
天空が再び向かってきた漁船を豪快に殴り飛ばす。漁船は次々と転覆する。
「僕の蹴りはどうだ!」
「ふむ、興奮しているのか、パンチとキックを取り違えているのがやや気になるところですが……漁船が転覆して浮いた魚のようになっている……まさに雷電の如き肉弾……」
深海が再び感心する。
「はあ、はあ、はあ……」
「とはいえ、彼にだけ頼り過ぎるのは危険ですね……」
肩で息をする天空を見て、深海が頷く。
「ブオッ!」
「む……」
止まっていた漁船が徐々に動き始める。
「くっ、すみません、深海隊長……これ以上制止させ続けることは出来ません」
両手をかざしていた雪が苦しそうに口を開く。
「ふむ、広範囲ですからね……それでは……」
「本官にお任せ下さい!」
葉が声を上げる。
「……お願いします、佐々美隊員」
「はい! 掛けまくも畏き……恐み恐み申す……!」
「ブオオッ⁉」
海が荒れ、波が起こり、漁船がそれに巻き込まれていく。
「ほう、そういうことも可能なのですか……」
「海の神様にお願い申し上げました……」
深海の呟きに葉が反応する。
「ブオッ!」
「ブオッ! ブオッ!」
「……なんでしょうか?」
葉が首を傾げる。
「……悪機同士で呼びかけ合っている?」
「な、何をですか?」
深海の言葉に雪が戸惑う。
「それはもうすぐ分かると思います……!」
「ブオオオッ‼」
漁船同士が接近し、黒い光に包まれたかと思うと、一隻の巨大なタンカー船に変貌した。
「なっ⁉」
「が、合体した⁉」
葉と雪が驚く。深海も目を丸くする。
「これは……珍しいパターンですね……ん?」
深海の下に通信が入る。
「深海隊長、危険度の上昇を確認しました」
「いくつですか?」
「Aです」
「一気に跳ね上がりましたね……分かりました」
深海が通信を切る。
「ブオオオオッ‼」
「弱い奴ほどなんとやらってね! かかってこいや!」
「まあ、少し落ち着きなさい……」
「うおっ⁉ た、隊長、いつの間にここまで……」
自分の軍服の襟を引っ張られた天空が戸惑う。
「君はアドレナリンが出過ぎですね……戦いをどこか楽しんでいるような……」
「興奮しているのは否定できませんが、このにやけ顔は元からです」
「まあ、戦いを恐れ過ぎるのも問題なので、それはそれで良いと思いますが……」
深海がゆっくりと前に進み出る。天空が慌てる。
「た、隊長! 丸腰では危険です!」
「君にそんなことを言われるとは……」
深海が思わず苦笑する。
「い、いえ、しかし……」
「戦場には似つかわしくありませんか?」
深海が自身の白衣の襟を引っ張ってみせる。
「ま、まあ、正直……」
天空が遠慮がちに頷く。
「ご心配なく。オレはここで戦うので……」
深海が自らの側頭部を右手の人差し指でトントンと叩く。天空が首を傾げる。
「頭脳……?」
「そうです。ただし……」
「ブオオッ‼」
タンカー船が深海に迫る。
「た、隊長!」
深海が端末を取り出し、手際よく操作する。
「……『電脳』でね」
「ブオオオオッ⁉ ……」
タンカー船が進撃を止める。深海が頷く。
「沈黙を確認……」
「ど、どうやったの? ハッキングとか?」
「宙山隊員、察しが良いですね。そんな感じです。悪機の機体内にアクセスしました」
「そ、そんなことが……」
「出来てしまうんですね、これが……指令部?」
「確認しました。悪機の回収などの事後処理はお任せ下さい」
「お願いします……さて、三人とも良くやってくれました……」
「……ふっ、結局は隊長に頼ってしまいました」
天空が苦笑する。
「いえ、こちらも大いに助かりましたよ……反省は後で。さあ、帰投しましょう」
深海が笑顔で三人に声をかける。