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『セブンでイレブン‼~現代に転移した魔王、サッカーで世界制覇を目指す~ 』第3話 【創作大賞2024・漫画原作部門応募作】

「ここだけど……巨人や飛竜の姿は見えないわね……」
「だが、魔力は確かに感じる……行くぞ」
「あっ、ま、待ってよ!」
 レイブンとななみが商店街に入る。
「む……?」
「ほら! もっと腹から声出して!」
「え~いらっしゃい、いらっしゃい、安いよ安いよ……」
「声が小さいって! そんなんじゃお客さん寄ってこないよ!」
「な、なんでオイラがこんなことを……」
「あいつは……」
 レイブンたちは八百屋の店先でおばさんに怒られている小柄で鼻が高く、ギョロとした目、尖った耳、そして全身緑色の肌をした者を見つける。ななみが首を傾げながら呟く。
「あれって……ゴブリン?」
「あ! ま、魔王さま!」
「……」
「ウギャ⁉」
 小柄なものが魔王に抱き着こうとしたが、レイブンはそれをかわして小声で呟く。
「魔王違いだ……」
「ま、魔王違いって! そんなに魔王さまがいるわけないじゃないですか! 我らが魔王のレイブンさまでしょう⁉」
「知り合いなの?」
「知り合いどころの話じゃねえぜ! オイラは偉大なるレイブンさまの忠実なる配下、ゴブリン軍団の軍団長、『ゴブ』だ!」
 ゴブと名乗った者はななみに向かって胸を張る。
「ゴブリンのゴブ……?」
「おう! こちらのレイブンさまが名付けて下さったんだぜ!」
「安直なネーミングね……」
「うるさいな……」
 ななみの言葉にレイブンは反発する。ゴブはレイブンに哀願する。
「レイブンさま、どうかお助け下さい! この異世界?に来て、戸惑っていたら。訳も分からずにそこの店で働かされて……」
「え? 働かされていたの?」
「ああ、腹が減ったんで、ちょっとばかり野菜を拝借したら……食った分だけしっかり働けとか言われてよ……」
「それはあなたが悪いわね」
「そ、そんな……レイブンさま、お助けを……」
「……ななみ、野菜代を立て替えてやれ」
「え?」
「食い逃げ犯に魔王だ、レイブンだと連呼されたら、ワシの立場というものがなくなる」
「わ、分かったわ……」
 ななみは野菜代を八百屋に支払う。自由の身となったゴブはもみ手をしながら、レイブンに対して語りかける。
「へへっ、さすが、持つべきものは偉大なる魔王さまでございます!」
「ふん……」
「ゴブリンももみ手とかするのね……」
 ななみが変なところで感心する。レイブンが歩き出す。
「魔力を感知した、こっちだ……ん?」
 すると、肉屋の前でなにやら言い争っている者たちがいる。
「だから、オラがここの店番をするだ! おめえは魚屋に行けよ!」
 ブタ顔の腹の出た太った体型でやや大柄な者が声を上げる。
「ブタ顔が豚肉を売るとはなんの冗談っすか? ここはオレがやるっす」
 犬顔のやややせ細った者が反発する。
「おめえは、余った肉をもらう気だろう⁉ 卑しい奴だな⁉」
「ブタの共食いよりマシっす」
「ああん⁉」
「なんすか?」
 ブタ顔と犬顔が睨み合う。ななみが首を捻りながら呟く。
「あれはひょっとして……オークコボルト?」
「よく知っているな、姉ちゃん、あいつらもオイラと同じレイブンさまの配下、オーク軍団の軍団長、『クーオ』と、コボルト軍団の軍団長、『ルト』だ」
「ふ、ふーん……店番をやらされているのは?」
「あの店の肉を拝借したんだ」
「……ななみ、立て替えてやれ」
 レイブンが額を軽く抑えながら、ななみに告げる。クーオとルトが解放される。
「魔王さまのお陰ですだ!」
「助かったっす」
「ゴブリン、オーク、コボルト……強力?」
「くっ、次だ、次!」
 ななみの視線から目を逸らして、レイブンが再び歩き出す。
「ここは公園だけど……」
「ああ、この広場から魔力を感知した」
「子供たちも大勢遊んでいるわ! モンスターと遭遇したら大変よ!」
 ななみが慌てて周囲を見回す。しかし、モンスターの姿は見当たらない。
「む……?」
「ねえ、本当にここで合っているの?」
「姉ちゃん、レイブンさまを疑うのか⁉」
「レイブンさまに間違いはねえだ!」
「レイブンさまの判断は絶対っす!」
 ゴブとクーオとルトがななみに詰め寄る。
「わ、分かったから……顔を近づけないで、まだ慣れてないから……」
「この辺りで合っているはずなのじゃが……」
 レイブンも周囲を見回す。ななみが頭をかく。
「頼むわよ、レイブン……」
「レイブンさまだろう!」
「なんと恐れ多い小娘だべ!」
「口の利き方がなってないっす!」
 ゴブたちが再びななみに詰め寄る。
「くっ……う、うるさいわね!」
「うおっ⁉」
 ななみがいきなり大声を上げたため、ゴブたちは怯む。
「大体アンタたちのつまみ食い代を!」
「!」
「立て替えてやったのは私よ!」
「‼」
「つまり、アンタたちは私に恩があるわけ!」
「⁉」
「分かった⁉」
「分かった、姉さん!」
「恩は返すべ!」
「ついて行くっす!」
「……分かればよろしい」
 ななみが満足気に頷く。
「良いのか、それで……?」
 レイブンが首を傾げる。
「そんなことより、モンスターたちは?」
「いや、あの辺だと思うのじゃが……」
 レイブンが公園のある部分を指し示す。
「え? あの辺は遊具が集まっているところで……」
「む?」
「ははっ、ネバネバして面白え~」
「姿が変わるぞ、すげえ!」
「いや~そんなに喜んでもらえると変化のし甲斐があるラ~」
 水色の泥状のものが形状を変化させながら、嬉しそうな声を上げる。
「あ、あいつは⁉」
「知っているの、ゴブちゃん⁉」
「もちろんだ、姉さん! オイラたちと同じく、レイブンさまの配下、スライム軍団の軍団長、『スラ』だ!」
「ス、スラ……」
「語尾にラ~を付けるので、ピンと来たぜ!」
「ピンとくるのそこなの⁉ はっ⁉」
「うおっすげえ、こいつ動くぞ!」
「おおっ! ロボットみてえ!」
「楽しんでもらえているのならなによりだ……」
 土色の泥人形が子供たちを肩や頭に乗せながら、淡々と呟く。
「あ、あいつ⁉」
「知っているの、クーオちゃん⁉」
「ああ、オラたちと同じ、レイブンさまの配下、ゴーレム軍団の軍団長、『レム』だべ!」
「レ、レム……」
「『どちらかと言えば不器用な方ですから』というのが口癖だべ!」
「口癖長いわね! はっ⁉」
「きゃあ~カワイイ♡」
「ねえ、次はわたしに抱っこさせて~」
「ふむ……転移も意外と悪くないみゃあ……」
 服を着た猫が女子高生たちにちやほやされている。
「あ、あいつはもしや⁉」
「知っているの、ルトちゃん⁉」
「オレたちと同じ、レイブンさまの配下、ケットシー軍団の軍団長、『トッケ』っす!」
「ト、トッケ……」
「気まぐれなところもある、プライドが高い猫の妖精っすが、あごの下を撫でられると弱いっす!」
「プライド無いわね!」
 しばらく待っていると、子供たちや女子高生たちがそこから去っていき、スラとレムとトッケが残った。彼らは自分を見つめるレイブンに気付く。
「レ、レイブンさま⁉」
「魔王さま⁉」
「こ、こんなところで会うとは奇遇だみゃあ~」
「……幸せそうなら、それでいい……」
「ちょ、ちょっと待ってラ~!」
「お待ちを……!」
「やっぱり魔王に頼らせてくれみゃあ~」
 立ち去ろうとするレイブンをスラたちが慌てて呼び止める。
「どうするのよ?」
「……見なかったことにしようかと……」
「酷くない⁉」
 ななみがレイブンを非難する。レイブンが腕を組んで首を傾げる。
「そうは言ってもじゃな……」
「強力な6団長はどうしたの?」
「うっ⁉」
「まさかこの方たちが……?」
「ど、どうやらその様だな……」
「強力だとか恐怖の象徴だとか言っていたわね……」
「お、恐ろしいじゃろう⁉」
「女子供に親しまれていたけど……」
「むう……」
「はあ、まあいいわ。えっと……スラちゃんにレムちゃんにトッケちゃん、うちのクラブハウスに来なさいな」
「え!」
「な、なんと‼」
「マジか⁉」
「ええ、どうせ行く当てもないでしょう? うちなら雨露もしのげるわよ」
「あ、ありがたいラ~!」
「め、女神か……?」
「た、助かるみゃあ……」
「おい、ななみ、まさか……」
「とりあえずこの6団長でなんとかやってみるしかないんじゃないの?」
「ほ、本気か……?」
 ななみの思いもよらない提案にレイブンは唖然とする。

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