『ゲツアサ!~インディーズ戦隊、メジャーへの道~』第1話 【創作大賞2024・漫画原作部門応募作】
あらすじ
『戦隊ヒーロー飽和時代』、滋賀県出身の天津凛は京都への短大進学をきっかけに、高校時代出来なかった挑戦を考えていた。
しかし、その挑戦はいきなり出鼻をくじかれ……そんな中、彼女は新たな道を見つける。
その道はライバルは多く、抜きんでるのは簡単なことではない。それでも彼女は仲間たちとともに、メジャーデビューを目指す、『戦隊ヒーロー』として!
本編
オープニング
「あ~もう、こんな時間だ……きゃあ⁉ な、何っ⁉」
自室のベッドから起きようとしたパジャマ姿の女性が何者かに引っ張られる。毛布の下から、ドクロの仮面を被り全身タイツを着た女性が現れ、パジャマ姿の女性に覆い被さる。
「は~はっはっは、私の名前は『スカルレディ』、姉ちゃんには我が組織に入ってもらうで!」
「い、嫌~‼」
「待ちなさい!」
「!」
押し入れから水色のタイツと仮面に身を包んだ女性が現れ。声を上げる。
「EFシアン!」
次に隣室のドアからオレンジ色のタイツと仮面に身を包んだ女性が入ってくる。
「EFオレンジ!」
次に廊下から紫色のタイツと仮面に身を包んだ女性が出てくる。
「EFパープル!」
次にクローゼットから茶色のタイツと仮面に身を包んだ女性が飛び出してくる。
「EFブラウン!」
最後にベランダから灰色のタイツと仮面に身を包んだ女性が飛び込んでくる。
「EFグレー!」
五人のタイツを着た女性たちが水色タイツを中心にして向かって右に茶色と灰色、左に紫色とオレンジがもたつきながらも並ぶ。水色タイツが再び声を上げる。
「五人揃って!」
五人がそれぞれポーズを取り、ややバラバラに声を上げる。
「『遊戯戦隊エレクトロニックフォース!』」
「……さあ、今の内に逃げて!」
「あ、ありがとうございます……」
水色タイツが声をかけると、パジャマ姿の女性が戸惑いつつ寝室を出る。
「……よしっ!」
パジャマ姿の女性が寝室を出たことを確認すると、五人がスカルレディに向き直る。
「……アカンわ」
「え?」
スカルレディの言葉に水色タイツの女性が戸惑う。
「貴女たち、自分でやっていておかしいと思わへん?」
「お、おかしい……?」
五人がそれぞれ顔を見合わせる。スカルレディがため息をつく。
「はあ……色々あるけど、まず色のチョイスがおかしい!」
「ええっ⁉」
「そんなに驚くところちゃうやろ! センターが水色って!」
「あ、これはシアンです」
「い、いや……そんなんお子様には分かりづらいでしょ」
「そうですか? 目に優しいと思うんですが……」
「そういう配慮はええかもしれへんけど、他の面々よ。オレンジはまだしも、紫色と茶色と灰色って……」
「オリジナリティを出そうかと思って……」
シアンが後頭部を抑える。
「オリジナリティにも程があるでしょ、その組み合わせ!」
「いわゆるアクセントです!」
「言い直しても一緒。アクセントばかり組み合わせても意味がないでしょ!」
「はあ……」
ドクロレディが首元を抑える。
「……やる気ある?」
「あ、あります! みんな、あるよね!」
シアンがオレンジに尋ねる。
「まあ、うん……」
「いまいち煮え切らない! ブラウン⁉」
「ぼちぼちかな~」
「微妙! グレー⁉」
「あるっちゃあるよ」
「ないっちゃないやつ! パープル!」
「……半々」
「半々⁉」
「ちょっと~全然意思統一出来てへんやん~」
ドクロレディがベッドに腰かける。
「ま、まあ、確かに……」
「大体さ、ポーズ取るまで並ぶのがグダグダやったし、掛け声のタイミングもバラバラやったよね? ちゃんと練習してんの?」
「昨日初めてしました!」
「き、昨日? え、結成何年目なん?」
「何年目っていうか……おとついです」
「おとつい⁉」
ドクロレディが驚いて立ち上がる。
「ええ」
「そんなんじゃアカンよ!」
「そ、そうですか?」
「ああ、この『戦隊ヒーロー飽和時代』では勝ち残っていけへんわ!」
「でもインディーズ……マイナーからメジャーになりたいんです!」
「そういう子たちから頼まれて、私はこうして疑似悪役を、彼女は疑似民間人をやっているんやけど……彼女はお部屋まで貸してくれたしね……」
ドクロレディが廊下の方を見る。パジャマ姿の女性が寝室を覗き込んで会釈する。
「はい、ネットで見かけて、お願いしたんですけど……」
「とにかく、色の選出がおかしいし、ポーズとかもバラバラ……何よりも問題なのが……」
「問題なのが?」
「活動時間帯が月曜日の朝ってなによ⁉」
「え?」
「普通は日曜日でしょ⁉ 『ニチアサ』って知らん⁉」
「ええ、知ってます……でも、それこそ飽和状態じゃないですか?」
「それはそうやけどな……」
「だからアタシたちはちょっと違う方向で行こうかなと……『ゲツアサ』という言葉を定着させることが出来れば良いと思って……」
「定着せんと思うよ?」
「そ、そうですか? 月曜日は一週間の始まり……皆さんに安心して日々を過ごして欲しいんです!」
「へえ……」
「……というのは建前でして……」
「は?」
「アタシは短大生、オレンジは……」
「わたしは専門学校生です」
「パープルは?」
「わたくしは大学生どす……」
「ブラウンは?」
「ウチはフリーターや」
「グレーは?」
「ボクは就職していますが、土日が基本忙しいので……」
「……というわけで全員の都合がつきやすいのが、この時間帯なんです!」
「断言すな! やっぱりアカンよ! 大体なんでそんなメンバーが……?」
「あ、それ聞きます? 話すと長くなるんですが……」
シアンが思い出しながら話し始める。
1
「格ゲー? ウチにはないで?」
「え?」
水色のポニーテールの女の子がバッとその可愛い顔を上げる。女性が答える。
「だからウチのチームには格闘ゲーム部門はないよ」
「え? こちらは京都でも有数のeスポーツチームですよね? 格ゲー部門もあったかと……」
「いつの話をしとんの? 三年前から休眠状態で、一年前に廃止されたで」
「ええっ⁉」
「今日日格ゲーをやる子なんてほとんどおらんからね」
「そ、そんな……」
「えっと、お名前はなんやったっけ?」
「天津凛(あまつりん)です……」
「せやせや、滋賀の天津さん言うたらそこそこ有名やん。ニックネームはなんやったっけ?」
「テ、テンシンリンです……」
凛は顔を真っ赤にしながら答える。
「恥ずいなら辞めたらええのに……」
「若気の至りというか……」
「今も若いやん」
「結構浸透しちゃったから変えるに変えられないというか……」
「まあ、名前を売ることが大事やからな、この界隈」
「ええ……」
「格ゲーについてはよう知らんけど、他のジャンルでも結構有名やないの、あんた」
「中高時代は方々から助っ人を頼まれましたので……」
「履歴書見させてもらったけど、なかなか立派な成績やん」
「ありがとうございます……」
「あらゆるジャンルで好成績を残しとる……類まれなるゲームセンスの持ち主やということが分かるね」
「じ、自分ではよく分かりませんが……」
凛はポニーテールをくるくるとさせる。照れている。
「というわけで、ウチのチームでは違う部門で活躍してもらおうかな♪」
「え……?」
「はじめは控えからのスタートやけど、ウチは徹底した実力主義やから、毎週行っている紅白戦の活躍次第では即レギュラーになることも夢ではないで」
「ほ、本当ですか?」
「ホンマや」
女性が頷く。凛がおずおずと口を開く。
「……主に取り組むゲームは……?」
「『フォートレスナイト』や」
「あ、すみません」
凛が勢いよく頭を下げ、高速で荷物をまとめ、部屋から出ようとする。
「は、早っ⁉」
「お時間取らせてしまいまして申し訳ございません」
「い、いや……」
「残念ながら今回はご縁が無かったということで……」
「そ、それはどちらかと言えばこちらの台詞……!」
「失礼します!」
凛が部屋を出て、立派な建物を後にして、地下鉄を乗って、自宅のアパートにつく。端末を開くと、さきほどの女性からのメッセージが入っている。
(なんか怒らせてもうた? せやったらごめん)
少し落ち着いた凛も返信する。
(いいえ、こちらこそごめんなさい。いきなり飛び出してしまって)
(なにが気に食わなかったん? 私の態度?)
(いいえ)
(せやったら何?)
(あのゲーム……)
(え? 『フォートレスナイト』のこと? 今や世界中で人気のTPSやで?)
(知っています。サード・パーソン・シューティングですよね。高校の友人に散々付き合わされましたから、『平野暴動』とかも……)
(あ~やり過ぎてすっかり飽きてもうたタイプ?)
(そうではありません)
(え?)
(ゲーム形式が気に食わないんです)
(はい?)
(物陰に潜んで狙撃したりというのがどうも……)
(ああ……)
(やはり拳で決着をつけるのがベストでしょう⁉)
(ああ……そういう考えね、分かった。今回は縁が無かったということで……)
そこから女性のメッセージは途絶える。凛はクッションに端末を投げつける。憤慨しながらパソコンを起動させる。画面には『ロードファイターⅥ』の文字が躍る。凛は手際よく操作し、他のプレイヤーたちが集まっている場所に行き、その場にいるプレイヤーたちと片っ端から戦う。
「こんなにプレイヤーいるじゃん……格ゲー部門廃止とかあり得ない!」
凛とフレンド登録しているプレイヤーからメッセージが届く。
(どうしたの? 今日はいつにも増して気合い入ってんじゃん)
(格ゲー最高だよね⁉)
(何を今さら!)
凛は笑顔を浮かべる。凛のところに世界中のゲーマーからメッセージが届く。
(テンシンリン! 今日は君が頂点に君臨する最後の日だ!)
(それはどうかな!)
挑んできた強者たちをバッタバッタとなぎ倒し――ゲーム中ではあるが――凛はとりあえず溜飲を下げる。すると、インターホンが鳴る。
「~♪」
「えっ、引っ越しの荷物は全部届いたはずだけど……はーい?」
「ヤマゾンさんから荷物でーす」
「え? 何か買ったっけ? ……はい」
「ハンコかサインでよろしくお願いします!」
「……はい、お疲れ様です……受け取ってしまった……大きくないな、なんだろう? 開けちゃお」
凛はハイテンションだったためか、箱を開けてしまう。中にはゲームコントローラーのようなものが入っていた。
「なにこれ……トイステ5のやつともZBOXのとも違う……スウィングでもないな……どこのメーカー? コネクターみたいのも付いているし……ん?」
端末に知り合いからのメッセージが入っていた。高校の先輩からだ。大至急来て欲しいという。凛はなんとなくそのコントローラー類も鞄に突っ込んで、再び家を出た。
「あ、凛ちゃん~助かったよ~」
「助っ人ですね?」
「そう! お願い出来る?」
先輩が両手を合わせる。凛は小さいため息交じりで答える。
「……ここで断れないでしょう」
「ありがとう~♪」
「それで?」
「3対3で対決なんだけど、一人が病欠で、もう一人が急用入っちゃってさ……」
「え? もう一人は?」
「それは別の知り合い頼んであるから……あっ、こっちこっち!」
先輩が呼ぶと、その場に一人の女の子が入ってくる。オレンジ色のミディアムロングの髪と迷彩柄の服装が目を引く子である。髪はボサボサとしている為、ボリュームがあるように感じられ、その分身長が高く見えるが、実際はそこまで平均的な身長の凛と差はない――スタイルは若干の差があるが――。凛はその子を見つめる。美人だが、どこかワイルドさを感じさせる顔立ちだななどと考えていたら、その子が口を開く。
「……なに?」
「あ、い、いや、なんでもないです……!」
凛が頭を下げる。先輩が笑う。
「凛ちゃん、そんなに畏まらなくて良いよ。タメなんだから」
「え?」
凛が頭を上げて、女の子を見る。
「そう、この子も春から京都に来たばっかりだから。そうだ、お互いに自己紹介して」
「は、はい……天津凛です。滋賀から来ました。短大生です。よろしくお願いします」
「橙山輝(とうやまかがやき)です。和歌山出身です。専門通ってます。よろしく」
凛と輝がお互いに頭を下げる。
「それじゃあ、早速始めようか♪」
先輩に促され、凛と輝が三台並んだパソコンの前に座る。凛が尋ねる。
「先輩、ゲームは?」
「『ヴェルテックス レジェンズ』だよ」
「ああ……」
凛が苦笑する。
「ははっ、凛ちゃん、FPSとかTPS嫌いだものね~」
「嫌いっていうか、受け付けないというか……」
「……どこが?」
輝がややムッとて尋ねてくる。
「え……物陰に隠れて狙撃とかなんかコソコソしているな~って」
「その緊張感が良いんでしょうが」
「う~ん……やっぱり、拳で決着つける方がスッキリするっていうか……」
「は?」
「凛ちゃんは基本格ゲー専門だから」
先輩が補足する。
「ああ、格ゲー民……」
「ちょっと、今鼻で笑ったよね?」
「ああ、そういうのはやめよう、キャラ選んだよね? それぞれのニックネームとキャラを確認しようか。私は『ポンポコタ』、ヒーラータイプだから回復は任して」
「アタシは『テンシンリン』、アタッカータイプを選びました……」
「わたしは『キラリ』、スナイパータイプです……」
「それじゃあ、テンシンリンちゃんが前衛で、キラリちゃんが後衛って感じでよろしく~♪」
凛が戸惑う。
「ざっくりとした指示ですね……」
「問題ない……一から言われないと分からないのか?」
「はい?」
凛が輝に視線を向ける。
「はいはい、もう始まるから、仲良く行きましょう~♪」
ゲームが開始される。最大で90人のプレイヤーで行われるバトルロイヤルゲームで、時間経過とともに徐々に狭くなるフィールドを舞台に戦いが行われ、最後まで残っていたプレイヤーとチームが勝利というルールである。
「始まった……」
「宇宙ステーションマップだね~」
「ポンポコタさん、ガンガン行きますんで!」
「ああ、ちょっと待って!」
「うわっ⁉」
凛のキャラが滅多撃ちに遭い、あっという間にHPがゼロとなってしまう。
「ははっ……」
先輩が苦笑する横で、凛が啞然とする。
「そ、そんな……ちょっと突出しただけで?」
「このレベルならそれでも命取りだ……不用意過ぎるぞ、テンシンハン」
「テンシンリン!」
「ああ、私が回復するからね~ちょっと待ってて」
このゲームはヒーラーの能力か回復アイテムを使えば、制限時間内で何度でも復活することが出来る。凛のキャラも復活した。
「……ありがとうございます」
「どういたしまして~」
「高校までとはエイム(照準を合わせること)の精度が段違い……」
「プロも混ざっている、当然だろう」
凛の呟きに輝が反応する。
「プロ……」
「素人は大人しく引っ込んでいろ」
「はあ⁉」
「仲良くね~」
声を上げる凛を先輩がなだめる。
「人を素人呼ばわりして……アンタがどの程度のものだってのよ……」
「指をくわえて見ていろ」
「はっ、お手並み拝見といこうじゃないの……」
「ちょ、ちょっと連携しないと~」
「問題ないです」
輝が先輩に答えると、キャラを迷いなく操作し、ステージ中央の高層ビルに上る。
「おおっ、速いね」
「このステージは各所に強力なアイテムなどが散らばっていて、それの回収に気を取られますが、必要最小限の武器さえ確保したら、このように高所に上ってしまえば良いのです」
「周囲が見渡せるね~」
先輩が輝のモニターを確認して頷く。
「高所から狙い撃ちにしてしまえば……!」
「!」
「‼」
「⁉」
「……このように問題はありません」
「すごい……」
凛は素直に感心する。言うのは簡単だが、確かな狙撃技術が無ければ無理な戦術だからだ。
「ふん、感心するくらいには分かるか……」
輝が凛を横目で見る。凛が頷く。
「う、うん……」
「まあ見ていろ、狙撃でほとんど終わらせる……むっ⁉」
「ど、どうしたの⁉」
「い、いや、建物が崩れ始めて……」
「ポンポコタさん!」
凛が先輩に説明を求める。
「これは……ファイターによるものね」
「ファイターにここまでの攻撃力は無かったはずでは⁉」
「いや、つい最近のアップデートで、パワーが一定時間内で五倍になるっていうアイテムが追加されたのよ」
「ご、五倍⁉」
凛が驚く。
「まあ、出てくる率は極めて低い、超のつくレアアイテムなんだけどね。それにそれを使用しているときは防御力の値も極端に下がるし……」
「そ、それにしても……マップのオブジェクトを破壊出来るなんて……」
「ファイターは攻撃力だけでなく、防御力もそれなりだけど、スピードが鈍足気味だったから、救済措置の一つかな」
「くっ、このままでは地上に叩きつけられる……!」
「待ってて、キラリちゃん! と言いたいところだけど、高層ビル付近は混戦状態だね。回復する前にこちらがやられそう……」
先輩が首を捻る。
「ならば!」
「あれ? テンシンリンちゃん、回復アイテム拾ったの?」
「拾っていません!」
「ええ? どうするつもり?」
「あのファイターを沈黙させます!」
「馬鹿な、そんなことが出来るわけが……」
輝が思わず苦笑する。
「出来る!」
「今さっきポンポコタさんが言っただろう! 他のプレイヤーも殺到しているんだぞ! また滅多撃ちにされるのがオチだ!」
「それがそうでもないよ!」
凛のキャラがするすると移動し、他のプレイヤーを倒していく。輝が驚く。
「なにっ⁉」
「これは……みんな高層ビルが崩れた際のアイテム大量放出に気を取られているね。その隙を上手くついている……」
「それにしても……銃が主武装のこのゲームで接近戦主体とは……」
「こういうのが、彼女の得意とするところだよ♪」
先輩が輝に向かってウインクする。凛が声を上げる。
「ファイターまで迫った!」
ファイターが高層ビルの破壊を止め、凛のキャラに向き直る。凛のモニターを覗き込んでいた先輩が舌打ちする。
「ちっ、気付かれた! 不意打ち出来たのに!」
「問題ありません!」
凛はキャラに銃を投げ捨てさせる。それを自分のモニターで見ていた輝が再び驚く。
「! 銃を捨てた⁉ ヤケになったか⁉」
「身軽にしたんだよ! はあっ!」
「!」
「せいっ!」
「‼」
「とおっ!」
「⁉」
凛のキャラの素早い攻撃を立て続けに食らい、ファイターは崩れるように倒れる。
「やった!」
「なっ……」
「そのキャラは銃を使えない場合のアクション――キックやパンチなど――も充実しているからね~」
「キックやパンチが使えるならこんなもんですよ!」
凛が力こぶを作ってみせる。
「だ、だからと言って、あまりにも常識外れ過ぎる……」
輝が信じられないといった様子で呟く。
「ピロリさん! 高層ビルは守ったよ!」
「キ、キラリだ! ふん!」
体勢を立て直した輝の正確な射撃と、凛の素早い攻撃で、他のプレイヤーチームたちは次々と倒されていき、最終的には凛たちの勝利となった。
「やったあ~! ありがとう、二人とも♪」
先輩が無邪気に凛たちにハグする。輝が席を立ち、凛の元に近づく。
「な、なによ……」
「……格ゲーを馬鹿にした態度を取って済まなかった」
「え?」
「お前のアクションが無ければ負けていただろう……」
「い、いや、それならこっちも……ごめん、FPSやTPSを馬鹿にして……」
凛が頭を下げる。輝が笑う。
「ふっ、コソコソしているのはある意味当たっているからな……」
「でも凄かったよ、あの正確な射撃は! 局面を一人で変えていた!」
「射撃がわたしの生きる道だからな……」
「今日は勉強になったよ」
凛が右手を差し出す。
「……こちらこそ」
輝も右手を差し出し、二人はガシッと握手をかわす。
「輝っちはさ~」
「か、輝っち⁉」
凛の言葉に輝は面食らう。
「チームに所属しているの?」
「いや、和歌山よりもチーム数はずっと多いからな……もう少し吟味してから決めようと思っている……」
「そうなんだ……」
凛が顔を伏せる。
「格ゲーのチームは少ないだろう」
「よ、よく分かったね?」
凛が顔を上げる。輝が自らの側頭部を指でトントンと叩く。
「それくらいは調べている……」
「そ、そうだよね、普通はちゃんと調べてから来るよね……」
凛が再び顔を伏せる。
「格ゲーならば個人で活動しても良いだろう」
「いや、チームというものに憧れていまして……」
「自分でチームを立ち上げたらどうだ?」
「あっ! その手があった!」
凛が再び顔を上げ、うんうんと頷く。
「きゃあ! か、怪人よ!」
「む!」
「ええっ⁉」
先輩が指差した先にはカマキリの怪人と緑色のタイツに身を包んだ戦闘員たちがいた。それを見て凛が驚く。
「ふふっ、人間どもめ、覚悟しろ!」
「きゃあ!」
先輩を含め、そのフロアにいた人たちが我先にと逃げ出す。
「……」
「お、おい⁉ お前も逃げろ!」
立ち尽くしている凛の手を輝が引っ張る。
「ダメだよ……」
「なにを言っている⁉ さっき誰かが通報していた! 戦隊がすぐに駆け付けてくれる! 任せれば良いだろう!」
「エ、エレベーターが使えない⁉」
「非常階段は……怪人たちが塞いでいる!」
「なっ⁉」
「ほら、戦隊の人たちが来る前にこのフロアの人たちに危険が及んじゃうよ!」
「だからって、どうするんだ!」
「ど、どうしよう⁉」
凛の言葉に輝がガクッとなる。
「それを聞いているんだ!」
「アタシがなんとかする!」
「何を馬鹿な……!」
「いや、きっとこれだよ!」
凛が鞄からコントローラーとコネクターを取り出す。輝が驚く。
「! そ、それは……⁉」
「なんかさっき、家に送られてきたんだよね!」
「それがなんだと⁉」
「分からない! でもなんか……これをこうやって……」
凛はコネクターを腰に装着する。
「む……」
「それでこうやれば……!」
コネクターにコントローラーを付ける。
「お、おおっ……」
「それでこの『START』ボタンを押せば……!」
凛が水色の眩い光に包まれる。輝が再び驚く。
「うおっ⁉」
凛が水色の仮面で顔を覆い、全身を水色のタイツで覆われる。
「こ、これは……⁉」
凛が自らの姿に戸惑う。
「……『遊戯戦隊エレクトロニックフォース』のEFシアンらしいぞ」
「! な、なんで分かるの、輝っち⁉」
「説明書に書いてあったからな」
「せ、説明書⁉」
「箱を確認しなかったのか?」
輝も自分の鞄からコントローラーとコネクターを取り出す。凛が驚く。
「そ、それは……⁉」
「つい先日、わたしにも送られてきたんだ……なんとなく持ち歩いていたのだが……まさか使う時がくるとはな!」
「!」
輝が手際よくコネクターを装着し、コントローラーを繋げ、ボタンを押す。
「『コントロールOK! ゲームスタート!』」
「‼」
輝が眩いオレンジの光に包まれ、オレンジ色の仮面とタイツで顔と体を覆う。
「イ、EFオレンジ!」
輝が戸惑い気味にポーズを取る。凛が声を上げる。
「ポーズがダサいね!」
「う、うるさい! テレビとかの見様見真似なんだから仕方ないだろう!」
「でもズルい! アタシもカッコ良く変身したかった!」
「知らん!」
「カ、カマキリ怪人さま!」
「うん?」
戦闘員がシアンとオレンジを指差す。
「戦隊が!」
「ば、馬鹿な! いくら戦隊ヒーロー飽和時代とはいえ、こんなところにまでいるとは! 排除しろ!」
「はっ!」
戦闘員たちがシアンたちに向かってくる。
「か、輝っち! 戦闘員さんたちがこっちに!」
「うろたえるな! わたしのことはオレンジと呼べ!」
「あ、もうすっかり入り込んでいるんだね……」
「な、なんで醒めているんだ!」
「なんか上手く乗り切れなかったっていうか……」
シアンが後頭部をポリポリと掻く。
「覚悟しろ!」
「う、うわっ!」
「ふん!」
「どわっ!」
オレンジが銃を取り出し、戦闘員たちを次々と打ち倒す。
「まさか、実際に銃を使うことになるとはな……」
「す、すごい……」
「シアン、お前が乗り切れないというなら、わたしがいただくぞ!」
「ぐわっ!」
オレンジが戦闘員たちを全て片付ける。
「さあ、後はお前だけだ、カマキリ怪人!」
「誰だ、貴様らは⁉」
「『遊戯戦隊エレクトロニックフォース』だ!」
「知らんな!」
「覚える必要もないぞ! ここで倒されるのだから!」
「ふん!」
「⁉」
「……どうした?」
「じゅ、銃弾を斬った……」
「どうやらルーキーのようだな……怪人の強さを知らんとは……」
「くそっ!」
「無駄だ!」
カマキリ怪人が再びオレンジの放った銃弾を斬り落とす。
「ちっ!」
「オレンジ、銃撃を続けて!」
「! わ、分かった!」
「何度やっても同じこと!」
「それはどうかな?」
シアンがカマキリ怪人の懐に入り込む。銃弾に対して大振りになった隙を突いたのだ。
「! しまっ……」
「『強パンチ』!」
「ぐはあっ!」
カマキリ怪人が吹き飛ばされ、動かなくなる。
「格ゲー経験が活きた……決めた! アタシ、戦隊ヒーローになる! オレンジもね!」
「えっ⁉」
シアンの宣言にオレンジが困惑する。