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『異世界スカウトマン~お望みのパーティーメンバー見つけます~』第2話 【創作大賞2024・漫画原作部門応募作】


「しかし、驚きました……」
 酒場で向かい合って座るリュートに対し、イオナが話しかける。
「……何がだ」
「ベルガ先生をスカウトしたことですよ」
「何を驚くことがある」
「だって、あのイケウロナ魔法学院ですよ? 誰だって普通は学生をスカウトすると思うじゃないですか?」
「……普通ってなんだ?」
「え?」
「え?じゃない、こっちが聞いている」
「ええっと……常識というか……」
「常識か」
「は、はい……」
「……君らの言う常識とやらを俺に無理やり当てはめないでくれないか
「あ、し、失礼しました……」
 イオナが頭を下げる。
「分かればいいさ……」
「つまりリュートさんは非常識だということですね!」
 リュートは体勢を崩す。
「……なんでそうなる」
「え? い、いや、常識に当てはまらないということは、それすなわち非常識だということになるのではないでしょうか?」
「……君はどうしてなかなか失礼な奴だな……」
「ええっ? そ、そんなつもりは……」
 イオナが慌てる。
「自覚が無いというのなら、なおさら性質が悪い……」
「な、何かマズかったでしょうか?」
「……俺は自らのことを極めて常識的だと思っているよ」
「ええ……?」
「但し、それは俺のレベルにおいての話だ」
「レベル?」
 イオナが首を傾げる。
「ああ、そうだ」
「……つまり、どういうことでしょうか?」
 イオナが尋ねる。
「つまりだ」
「はい」
「君ら如きの低いレベルでの常識の物差しで測らないでくれということだ」
「ご、如きって⁉」
「事実だろう……誰もベルガ先生に注目していなかったのだからな、あの高名な魔法学院で一年も務めていたというのに……」
「むう……」
「まあ、強いていうなら彼女を学院に呼んだ奴は多少の目利きではあるか……それが誰なのかは知らないがね」
「はあ……」
「それでも、俺が彼女をスカウトするとなっても阻止しようとしないあたり、彼女の値打ちを真に理解はしていなかったようだな」
「そういえば……」
「ん?」
「一応の根回しは済んだとおっしゃっていましたが……」
「ああ、言ったね」
 リュートは酒を一口飲む。
「根回しとはなんですか?」
「新年度が始まるというこの時期に教員が一人欠けるのは大変なことだろう?」
「え、ええ……」
「まあ、その辺はどうかご勘弁下さいとちょっとした挨拶回りをね……」
「お偉いさん……学院上層部を回ったんですか?」
「そうだ。知らん仲ではないからね」
「す、すごいですね……」
「そうかい? 別に大したことではないよ」
「いやいや、大したことありますよ。イケウロナ学院の上層部の方々なんて、例えば私なんかじゃまずお目にかかれませんよ」
「俺もなんだかんだとこの業界に長いこといるからな……」
 リュートが遠い目をする。
「長いからどうにかなるものでもないでしょう、そういう繋がりを持つのは……」
「それはそうだな」
「一体どうやって?」
「それは色々と辛酸を舐めてきたよ……」
「色々と?」
「ああ」
「どういったことですか?」
それは秘密です
 リュートが左手の人差し指を口に当てる。
「えー?」
 イオナが唇を尖らせる。
「苦労して作ったコネクションだ。簡単に教えるわけがないだろう。それに……」
「それに?」
俺と同じことをして上手くいくなら誰も苦労はしない
「そ、それは確かに……」
「だろ?」
「で、では、そういうコネクションで話はとんとん拍子にまとまったんですね?」
「……」
 リュートが黙る。
「あら?」
「……そういうことにしておこうか」
「え、違うんですか?」
「君も一杯くらい飲んだらどうだ?」
「話を逸らさないでください!」
逸らしてないよ、終わらせようとしている
「もっとひどい!」
「ひどいことはないだろう」
「……もしかして」
「なんだ?」
「お金を渡したんじゃ……」
「……なに、ほんのお食事代だ
「マ、マズくないですか⁉」
「バレたら多少はマズいだろうね……向こうの立場が
「良いんですか?」
「証拠がなければどうにもならんさ……」
「……いつもそういうことを?」
「ケースバイケースだ。しかし、極めて有効な手段ではある。今回のような優秀な人材を逃したくないときにはね」
「……ベルガ先生はそこまで優秀でしょうか?」
「教鞭を取って、教壇に立つということは選ばれし者しか出来ないとは思わないかい?」
「それはまあ、確かに……」
「さて、今度はどこに行こうかね……」
 ナッツをつまみながらリュートが笑みを浮かべる。数日後……。
「リュートさん!」
 ある街を歩くリュートを呼び止める声がある。リュートが振り返ってみると、そこにはイオナが立っていた。
「はあ……」
 リュートが思いっきりため息をつく。
「ろ、露骨なため息つかないで下さい!」
「そりゃあつきたくもなるだろう……」
「何故ですか?」
「こちらが何故だよ?」
「え?」
 イオナが首を傾げる。
「アシスタント期間は終了だろう?」
「勝手に決めないで下さいよ、今現在、リュートさんが請け負っている依頼が終わるまではお側で勉強させてもらいますよ」
「それこそ勝手に決めるなよ……」
 リュートが頭を掻く。
「大体ですね」
「ん?」
「私の連絡先は教えておいたじゃないですか」
「ああ、紙をもらったっけ?」
「まさか……捨てたんじゃないでしょうね?」
 イオナが目を細める。
「いや、ちゃんとあるよ」
 リュートがポケットからクシャクシャになった紙を取り出す。
「ク、クシャクシャ……」
「捨ててないだろ?」
「……見てないですね」
「まあね」
「はあ~」
 イオナが肩を落とす。
「自分だって露骨なため息ついているじゃないか」
「そりゃあそうですよ……何故ですか?」
「なにがだい?」
「なんで連絡してくれないのかってことですよ」
「ああ……」
 リュートが顎をさする。
「これでは困りますよ」
「何が困るというんだい?」
 リュートが首を傾げる。
「アシスタントなのに現場にいなかったら、アシスタントの仕様がないじゃないですか⁉」
「それは君、アレだよ、アレ」
「アレ?」
 イオナが首を捻る。
「俺にはアシスタントは必要がないということだ」
「なっ……」
「簡単なことだろう?」
「馬車を呼んだりとか、色々させたくせに!」
「それは雑用というものだ」
「ざ、雑用……」
「子供でも出来ることしか頼んでいない……違うかい?」
「う、ううむ……そ、そう言われると……」
 イオナが腕を組む。
「話は終わりだ」
 リュートが前を向いて歩き出す。
「ま、待って下さい!」
「待たない」
「約束を違えるおつもりですか⁉」
 リュートに並びかけたイオナが問う。
「ちっ、覚えていたか……」
 リュートが舌打ちする。
「忘れるはずがないでしょう!」
「しかしだね……」
 再び立ち止まったリュートが頭を抑える。
「なにか?」
「君をアシスタントにして俺になにかメリットがあるかい?」
「メ、メリット……?」
「そう、得することだ」
「い、いきなりそう言われても……」
 イオナが再び腕を組んで考え込む。
「どうだい?」
「……アレです、アレ!」
「アレとは?」
「アレと言ったらアレじゃないですか!」
「無いんだな、分かった」
 リュートが歩き出す。
「あ、ちょ、ちょっと待って下さい!」
「待たないよ」
「ご迷惑などはおかけしません! つまり!」
「つまり?」
「デメリットはありません!」
「……」
「………」
「それで納得するわけがないだろう」
「で、ですよね~」
 イオナが苦笑する。
「こんなしょぼくれたおっさんに付きまとっていないで、気の合う友達と遊びにでも行った方が良いんじゃないか?」
「リュ、リュートさんはしょぼくれてなんかいません! 素敵なナイスミドルです!
「ふむ、その辺の見る目はあるんだな……」
 リュートが立ち止まって、イオナをじっと見つめる。
「は、はい……」
「うん、もう君は立派にやっていける。教えることは何もない
「え……」
「それじゃあ、失礼」
「ちょ、ちょっと⁉ 誤魔化さないで下さいよ!」
「ふう……」
 リュートはため息をつきながら額をポリポリと掻く。
「同行を認めて下さい!」
「そういえば……」
「え?」
「なんで俺がこの街に来ると分かったんだ?」
「い、いや、魔法使いを確保したとなれば、お次はあの役割かなと……」
 イオナが建物の壁に張ってあるポスターを指差す。リュートが頷く。
「……ふむ、それなりに考えてはいるようだな……」
「あ、あの……?」
「同行を許そう、馬車を呼んできてくれ」
「は、はい!」
 イオナがその場から走り出す。ポスターには『剣術大会』と書いてある。


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